国鉄闘争の火を消してはならない
国鉄分割・民営化との闘いは終わってない
「1047名問題和解案」に対する動労千葉の見解
(1)
政府と与党3党・公明党が、国鉄1047名問題の「解決案」について合意し、政府・鉄道運輸機構と4者4団体の間で「和解」が成立しようとしている。これは、当該である動労千葉、動労千葉争議団を排除して進められてきたものであり、われわれには何も提示されてはいない。しかし、報道されているかぎりでは、謝罪も、解雇撤回もなく、いくばくかの金銭によって国家的不当労働行為を正当化し、人生をかけて闘いぬいてきた1047名の思いをふみにじるものだと言わざるをえない。
政府は、今回の「和解」について、「1047名は万全の雇用対策を講じてきたにもかかわらず結果として解雇された方々」「政府としての責任は全て果たしている」「ただ長くかかっている話でございますし、かなり御高齢になっておられますので、その意味では何らかの政治的解決が必要との考えに同意する」(1月29日・衆院予算委員会での前原国土交通大臣答弁)とし、JR各社は「法的に解決済みの問題」などとして、「200名程度の採用を要請する」という4党案すら拒否している。
「和解」という姿をとって国鉄分割・民営化が正当化され、1047名の23年に及ぶ苦闘が否定されようとしているのだ。
この間、「政治解決のため」と称して国労本部が行なってきたことは、国鉄改革法の承認、「JRに法的責任なし」の承認、政府やJRへの「詫び状」の提出、JRとの「包括和解」=全ての不当労働行為事件の取り下げやJRにおけるあらゆる合理化の容認、解雇撤回要求の取り下げ等、闘いの放棄と屈服であった。
23年間の困難な闘いを継続した闘争団の本来の思いはこうして蹂躙され、孤立させられた。その過程で闘いは、本音と建前が分離し、与野党の国会議員への根回しだけが「解決」の唯一の手段と見なされるようになった。こうした結果の産物が今回の「政治決着」である。
(2)
国鉄分割・民営化は戦後最大の労働運動解体攻撃であった。第二臨調の設置(1981年)、中曽根内閣の発足(1982年)から約30年、戦後日本の労働運動の歴史の半分に及ぶ歳月が国鉄分割・民営化攻撃との攻防を焦点として火花を散らしてきたと言っても過言ではない。20万人の国鉄労働者が職場を追われ、200人が自殺に追い込まれ、総評・社会党が解体され、日本の労働運動は後退を余儀なくされた。以降、社会をのみ込んだ新自由主義政策の下で、労働者の雇用・賃金・権利・団結は破壊され、全雇用労働者の4割が非正規職に突き落とされたのだ。
国鉄分割・民営化攻撃の決着を許さず、23年間闘い続けられてきた1047名闘争は、こうした現実への決定的な対抗力であった。それは、労働運動史上前例のない大量首切り攻撃をめぐる争議であると同時に、日本の労働運動の全蓄積がここに凝縮して生み出した画期的な闘いであった。だからこそ全国の無数の労働者がこの闘いに自らの未来を託して支援し続けてくれたのだ。またそれは、「行革でお座敷を綺麗にして立派な憲法を安置する」という中曽根の狙いを許さず、今日まで改憲をおしとどめてきた力でもあった。
動労千葉は国鉄分割・民営化攻撃に対し、首をかけて二波のストライキに立ち上がり、40名の不当解雇をはじめとした組織根絶攻撃を受けながら、団結を守ってJRにのり込み、今日まで闘いの道を貫いてきた。それは、労働組合の存在価値、労働者の誇りをかけた闘いであった。
国鉄分割・民営化はまさに分水嶺であった。われわれは、30年に及ぶその攻防の帰すうを問う大きな歴史の転換点に立っている。
(3)
「和解」の結果起きるであろうことは、国労の瓦解・JR連合への吸収である。実際、国労とJR連合との間では、様々なかたちをとった協議が始まっている。
23年間の闘いは何のためだったのか。ときの首相が「国労を潰し、総評・社会党を潰すことを明確に意識してやった」と公言してはばからない現実を許しておくことはできないからであった。ここまで突き落とされた労働者の現実、労働運動の現状を打ち破り、労働者が団結と誇りを取り戻すためであった。その結果が国労の「瓦解」では、首をかけ、人生をかけた闘いの意味が失われることになる。
しかも、自治労や日教組をターゲットにしたいわれなき非難や弾圧が吹き荒れ、この1月には、社会保険庁の解体・民営化をめぐり、国鉄と全く同じやり方で1000名の労働者が解雇され、数千名の労働者が非正規職に突き落とされているのだ。そして、525名の労働者が屈辱的な「自主退職」を拒否し、あえて分限免職の道を選んで闘いに立ち上がろうとしている。道州制導入をめぐっては、公務員労働者360万人を一旦解雇し、選別再雇用するという究極の民営化・労組破壊攻撃がかけられようとしている。
絶対に国鉄分割・民営化を正当化させてはならない。それは、敵にフリーハンドを与え、労働運動のより一層反動的な再編・解体攻撃に棹さし、日本の労働運動・労働者の将来に大きな禍根を残すことだからだ。このようなかたちで1047名闘争が終わった後に始まるのは、新たな、より大規模な民営化・労組破壊攻撃である。
今、与党三党をのみならず、公明党や自民党を含むあらゆる勢力が国鉄分割・民営化問題の原点に引き戻され、それに決着をつけるために動きだした背景にあるのは、危機を深める現在の情勢だ。貧困の蔓延や社会の崩壊をもたらした民営化・規制緩和路線への怒りの声が1047名闘争のもとに結集することを恐れているのだ。
(4)
動労千葉争議団と鉄道運輸機構との裁判では、本州JR不採用者は、「採用する職員」が決定されるわずか数日前までは、採用候補者名簿に登載されていたことが明らかになった。それが、葛西職員局次長(当時)の指示で急遽外されたというのである。
この時に起きていたのは、あまりに激しい組合破壊攻撃の中で、膨大な労働者が自ら職場を去り、本州では、JR各社の採用者数が「定員割れ」になるという事態であった。国鉄当局は当初は、閣議決定された定員を割り込んでしまった以上全員採用するしかないと判断し、その旨の記者会見まで行なっていた。
予想外の事態にあわてたのが鉄道労連(現JR総連)であった。民営化の手先になった手前、「全員採用など絶対に認められない」「国鉄改革の妨害者を採用するな」という特別決議まであげて当局に激しく迫った。
動労千葉9名はこうして名簿から外されたのである。採用差別は、まさに政府・当局とJR総連が結託した不当労働行為であった。その後、1千万人以上の労働者を非正規職に突き落とす突破口となった攻撃がいかに強行されたのか、その構図がついに明らかになったのである。いよいよ反転攻勢に立ち上がるときがきたのだ。
(5)
国鉄分割・民営化攻撃との闘いは何ひとつ終わっていない。今、JRの職場では、鉄道業務のほとんど全てを丸投げ的に外注化し、JRを数百の子会社・孫会社に分割して労働者を強制出向にかりたて、あるいは非正規職に突き落とす究極の合理化攻撃がかけられている。それがもたらすのは第二の尼崎事故だ。
「官から民」というだけでなく、この20年余り、あらゆる企業で吹き荒れた外注化(アウトソーシング)攻撃は、新自由主義政策・民営化路線の核心をなす攻撃であった。例えば、1984年に民営化されたNTTは347の会社に分割され、9割以上の労働者が退職を強要されて下請会社・孫請会社に突き落とされている。それは、アメリカでは「外注革命」と呼ばれ、日本では通産省が音頭をとって進められた国家戦略であった。労働者はそうやって「最底辺へと向う泥沼の競争」に駆り立てられたのだ。そして人と人の社会的連帯が断ち切られ、雇用・教育・医療・社会保障をはじめ全てを競争原理の中に叩き込んで社会そのものを破壊したのである。
われわれはこの闘いを「第二次分割・民営化反対闘争」と位置づけ、反合・運転保安闘争路線の真価をかけ、三河島事故・鶴見事故以来の国鉄労働運動の総括をかけて、数年がかりの大闘争に入ることを宣言した。闘いは、昨年秋から今春にかけ、5波のストライキで外注化4月1日実施を阻止し、東労組等の組合員が動労千葉に結集しはじめる成果を実現している。それは同時に労働運動の再生をめざす闘いでもある。
労働者が置かれた酷い現実は自然になったものでも、避けがたい必然だったわけでもない。労働組合が後退と変質を深めたことによってもたらされたものだ。労働運動の現状を変えないかぎり何も変わらない。ここに今問われている核心問題がある。
われわれは、1047名闘争と、外注化阻止・第二の分割・民営化反対闘争をやりぬけば、今はまだ団結する手立てを見いだせていない無数の労働者の怒りの声が堰を切って流れだすことを確信して闘いぬく決意だ。
今回の「政治決着」は、こうした現実に抗するどころか、「解決のために」と言って、JRにおける業務外注化攻撃等の容認と一体で進められてきた。解雇争議の「和解」の裏で労働組合そのものの変質が進み、何千名もの労働者が強制出向に駆り立てられ、非正規職に置き換えられているのだ。
(6)
怒りの声は社会の隅々まで満ちている。今こそその怒りの声を団結した力として結集させなければならない。国鉄分割・民営化攻撃の決着を許さず闘い続けられてきた1047名闘争は、その結集軸となる可能性を秘めた闘いであり、日本の労働者と労働組合にとって勝利の展望そのものとして存在してきたのだ。このようなかたちで幕を引いてはいけない。
国鉄分割・民営化攻撃との闘いは何ひとつ終わっていない。動労千葉と動労千葉争議団9名にとって全てはこれからである。国鉄闘争の火を消してはならない。われわれは、23年間の長きにわり動労千葉の闘いを支えてくれた支援の力に応えるためにも、1047名解雇撤回、民営化・外注化・労組破壊攻撃と対決し、その勝利の中に労働者と労働組合の未来がかかっていることを確信し、闘い続ける決意である。
2010年4月9日
国鉄千葉動力車労働組合 |