組合差別を認定しても、
解雇を無効と言えない判決の不条
動労千葉組合員12名をJRの採用候補者名簿から排除したことを不当労働行為と認定した6月29日の東京地裁判決に関して、「組合員を解雇に追い込んだ違法な組合差別を認定しても、解雇を無効と言えない下級審判決の不条理さは、子供でもわかる」として、『週刊金曜日』(7/13)に掲載された高島伸欣琉球大学名誉教授の寄稿文を掲載します。
継続中のJR雇用問題無視する
メディアには「教室」の審判の時
高 嶋 伸 欣
かつて、共産党独裁のソビエト連邦が崩壊した要員の一つが、情報操作が不可能になり、国内外の実情が国民に知れ渡ってしまったことだった。独裁下の共産党機関誌『プラウダ』は、紙面最下段のベタ記事から読め、と言われていた。
ベタ記事にこそ重い意味と情報が秘められているという点では、今の日本の新聞もかわりない。六月三〇日付の『毎日新聞』(東京本社)夕刊、第二社会面下段の記事もそれだ。
旧国鉄分割・民営化の際、千葉動力車労働組合員をJRの採用候補者名簿に記載していたのに対立セクトの入れ知恵で、不当に差別する目的の採用基準を新設して排除したのは不法行為である、との判決が東京地裁で出されたと伝えた。
国鉄民営化とJR各社への分割に反対した労働組合員の再雇用を拒否したJR不採用問題は、二五年間続いている。主要組合だった国労は、民主党政権発足後の二〇一〇年に政治和解を受け入れ、数人の離脱・訴訟継続者を除き、闘争を終結させた。そのため、この問題は、終了したかの観が一般には広がっている。
さらに、国策におる労働組合潰しのための解雇には、あくまで抵抗するとの意思を堅持している千葉動労組合員も、裁判を継続している。JR採用問題では、〇三年の最高裁判決で、JRに再雇用の法的な責任はないとされた。司法が組合解体という国策を優先して、労働者の権利保障が二の次にされたケースだ。
そのような最高裁判決の下で、組合員たちは、再雇用拒否の違法性追求をやめていない。その取り組みで得たのが、今回の六月二九日、東京地裁民事11部(白石哲裁判長)判決だ。
同判決は、名簿からの九人削除を組合差別による不法行為だ、としている。最高裁が不当な判断をしたものを、個別事案ごとに検証することで、下級審が違法性を明確にさせられつつある。東京高裁は、最高裁の判例に拘束された判断を示すのか、違法性をさらに明示するのか、見識が問われる。
その高裁の審理の際に、当事者以外のマスコミや一般市民・労働者の関心が集中するかどうか。それには、マスコミの報道が必須の条件だ。
組合員を解雇に追い込んだ違法を組合差別と認定しても、解雇を無効と言えない下級審判決の不条理さは、子供でもわかる。その司法の不条理を質すのは主権者国民の世論であり、世論を支えるジャーナリズムの役割だ。
来年4月から使用される高校「日本史A(近現代史)」教科書には、「戦後政治の総決算」を標榜する中曽根内閣の下で、労使協調路線の「連合」と労働者の権利維持を図る「全労連」とが発足した、と明記された。JR再雇用問題は終わっているとの風潮の中で、『毎日』以外はこの判決を報道していない。ベタ記事で若者は日本の現実を学ぶ。ここでもまた「貴社は教科書に学べ!」と言わねばならない。ことは人数の大小やセクトの問題ではない。
たかしま のぶよし(琉球大学名誉教授) |