つくる会教科書の恐るべき中身

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つくる会教科書の恐るべき中身

 2006年度から使用される中学校用教科書検定において、「新しい歴史教科書をつくる会」が作成した「歴史」と「公民」の教科書を、4月5日文部科学省は合格させた。

侵略戦争を美化する歴史教科書

 この二つの教科書は、日本の侵略戦争の歴史を肯定し、美化して、子供たちを再び戦争へと駆り立てるために、「国家のため、天皇のために命をささげよ」と教え込むものとなっている。
 何よりも、明治以来の1945年の敗戦にいたるまで日本が行なった、朝鮮・中国・アジアの民衆に対する残虐極まりない侵略と植民地支配の歴史を正当化し、2000万人以上のアジア民衆を虐殺した歴史的事実を隠蔽し、この戦争で日本の大衆も310万人以上が殺され、貧困な生活を強いられた事実をさえ否定している。

つくる会教科書のどこが違って書かれているのか?

 では実際に「つくる会」の歴史教科書と、他の教科書のどこが違っているのか?「つくる会」教科書は冒頭で、具体的中身に入る前に「歴史を学ぶとは」と題して、全体を貫くその考え方が書かれている。その歴史とは、「みなさんと血のつながった先祖の歴史」を学ぶことであり、必要なのは日本の歴史だけであり、「世界で最も安全で豊かな今日の日本」が、「先祖のたゆまぬ努力」によって築きあげられたこと、その歴史を学ぶことだとしている。日本の国土が大昔から育んできた固有の文明と伝統、「独自の伝統」という徹底した自国中心史観、どれだけ日本が「優れた国」であるかを教えることを、歴史教育の最大の目的としている。であるがゆえに、他の中学校用の歴史教科書ではその3分の1を占めている世界の歴史が、この教科書にはほとんど何も記載されていない。ギリシャ・ローマの古代文明、中国文明やイスラム文明の発展やルネッサンス美術もなく、なんとフランス革命や、アメリカの独立戦争も、イギリスの産業革命についてさえ、ほんの一言程度の記述でしかない。日本の歴史を世界史の中で科学的、総合的、立体的にとらえるのではなく、「日本国家の歴史」という立場から別に世界を見るという、戦前の「国史」と同じ考え方によるものだ。その狙いは戦前の教科書と同様、日本は天皇中心の「神の国」であって、日本人は「世界の指導者となるよう運命づけられた民族」なのだとする価値観を教育の場に持ちこむことにある。実際に、この教科書で最も強調されていることは、万世一統の天皇中心史観なのです。

隠蔽される南京大虐殺の史実!
侵略戦争を肯定化する歪曲された史実の記述内容!

 1910年の韓国併合から45年まで続いた朝鮮植民地支配について、「韓国併合のあと置かれた朝鮮総督府は、鉄道、灌漑(かんがい)の施設を整えるなどの開発を行い、土地調査を開始し、近代化に努めた」とし、土地調査の名目による朝鮮農民の土地・資源を奪い、米を奪い、銃剣で支配し、民族の言語や文化や名前さえ奪った植民地支配を、朝鮮のためを思ってやったこととし、さらに強制連行や軍隊慰安婦の事実について、それを隠蔽し歪曲しているように、「日本の安全と満州の権益を防衛するため」と、植民地支配を正当化している。
 また日本軍が37年12月に南京を占領し、中国の民衆・労働者市民30万人を虐殺し、略奪、放火、強姦などの限りを尽くした南京大虐殺について、本文では記述していない。日本の近現代史を学ぶうえで、中国民衆との友好と連帯のために胸に刻まなければならない、この大虐殺について、わずかに「注」の中で、「日本軍によって、中国の軍民に多数の死傷者が出た(南京事件)」とふれているだけであり、しかも、「犠牲者数などの実態については資料の上で疑問点も出され、さまざまな見解があり、今日でも論争が続いている」と、大虐殺の事実そのものを否定している。
 さらに「(真珠湾攻撃に始まる)日本の緒戦の勝利は、東南アジアやインドの人々に独立への夢と希望を育んだ。東南アジアにおける日本軍の破竹の進撃は、現地の人々の協力があってこそ可能だった」などと言い、「アジアの人々を奮い立たせた日本の行動」、「日本を解放軍としてむかえたインドネシアの人々」と自画自賛に満ちた言葉を並べ、「大東亜共栄圏の建設」を全アジアの総意のように描いている。

ヒロシマ・ナガサキも教えない
戦争で国のために死ぬことは美しいことなのか?

 日本が中国大陸と全アジアで繰り広げた侵略戦争は、その結果として、日本の労働者市民にも多大な犠牲をもたらした。310万人にも及ぶ死者、そのうち戦場での死者240万人、しかもその6割は飢えに苦しんだ末の無残な死を強いられた。そして東京大空襲をはじめ、沖縄戦があり、ヒロシマ・ナガサキへの原爆投下にいたったのだ。日本はこの深刻な体験を経ることによって初めて、こんな戦争をもはや二度と繰り返してはならないと固く誓って戦後の60年を歩んできた。だが、「つくる会教科書」は、戦争へのこの反省を投げ捨てることを迫るものであり、逆に、戦争で国のために死ぬことは美しいことでもあるのだと、子供たちに教えようとしている。実際に、ヒロシマ・ナガサキへの原爆投下について、アメリカが「広島と長崎に原爆を投下した」との記述が一言あるだけで、死者の数さえ記入していない。一瞬のうちに灰となった地獄のような光景、その後の被爆者の苦しみも何ひとつふれられず、東京大空襲の記述もわずか1行、沖縄戦についてもわずかに2行半、「軍が生き残るため」と称して住民の食料を奪い、虐殺し、「集団自決」という凄惨な殺し合いさえ強要した事実は、まったく登場しないのだ。

憲法改正をテーマにした教科書
なぜ憲法9条がターゲットにされているのか?

 「公民」教科書の内容もまたすさまじいものだ。特に憲法9条について、「日本国憲法における自衛隊の位置づけが不明瞭ならば、憲法の規定自体を変えるべきであるという意見もある」と改憲論を展開、「国民の多くは今日『自衛隊は自国の防衛のために不可欠な存在である』ととらえている」としている。また自衛隊のPKOからはじまる海外派兵を写真で紹介し、各国の憲法を引き合いにだして「国防の義務」を強調する内容となっている。さらに集団的自衛権についても行使できるようにするべきだという「主張もある」と、自衛隊を軍隊として規定化するのは国家として当然という、「普通の国」の考え方を注入しようとしている。
 また「領土、領海、領空への侵犯は国家主権への侵害となる」と領土問題をとりあげ、独島について「韓国が不法占拠している竹島」と記述している。実際、グラビアに登場するのは、北方四島と独島(竹島)釣魚台(尖閣諸島)の写真であり、「わが国固有の領土」だと主張している。その横には「テホドン」、「不審船」、「拉致問題」の写真があり、領土問題と排外主義が視覚によって展開されている。
 特に重要なのは、「国防の義務」の導入にある。「憲法で国民に国を守る義務をかしている国は多い」と述べ、ドイツ、中国、スイスなどの例をあげて、「これらの国の憲法では国民の崇高な義務として国防の義務が定められている」と書かれている。「国防の義務」を強行成立された現在の有事法制の下に見たとき、すべての住民の義務にすべき、国防のための協力は当然、さらに憲法九条を撤廃して、「自衛の名のもとには」それを排除するために軍事力を持つのは当然という論理を展開するものとなっている。そして「日の丸・君が代」についても、「社会の一体感や共同防衛意識を守り育てるため、これまでにも増して明確な国家意識を必要とする」とその不可欠性、一体性を述べている。
 また現代政治の章では、「憲法改正」をテーマとして、他国の憲法はみな必要に応じて何度も改正されているのに、制定以来一度も改正されていないのはおかしいと日本国憲法を記述して、改憲の必要性を説いている。

大日本帝国憲法はすぐれた憲法

 改憲の必要性を説きつつ、戦争へと突き進んでいった戦前の大日本帝国憲法をすぐれた憲法として称賛されている。憲法を説明する際に、いまの日本国憲法から説明をせず、明治憲法から説明が開始され、「この憲法は、わが国がおかれた当時のきびしい国際情勢を反映して政府の権限が強いものであった。しかし、できるだけ国民の権利や自由をもりこみ、同時に日本の伝統文化を反映させようとする努力が注がれた憲法であった」、「大日本帝国憲法の下で、近代的な民主的国家体制づくりは進められていった」、「国の元首は天皇であり、統治権の総攬者とされたものの、大臣の助言や議会の承認に基づき、憲法の規定に従って統治権を行使するものと定められていた。国民には法律の範囲内で権利や自由が認められた」と続き、「しかし、昭和をむかえるころから、憲法の不備をついた軍部が政治への介入を強めていった結果、天皇のもとで国民が暮らしやすい社会をつくるという憲法の理想は、大きくそこなわれていくことになった」と説く。

なぜ第1に現在の日本国憲法がとりあげられないのか

 まさしく戦前の天皇を中心とした国家体制、専制国家体制における憲法を称賛して、主権在民という現憲法の精神にさえ踏み込むものとなっている。「国民主権」の項目では、「主権とは外国からの干渉を受けず、その国のあり方を最終的に決定する力であり」、「この場合で言う国民とは、ひとりひとりの国民のことではなく、国民全体をさすものとされている」と説明している。つまりひとりひとりの国民が国家に対しての主権者であるというのではなく、否定するものとなっている。
 基本的人権については、「基本的な人権と、その国や民族独自の価値を両立させることが大切」とし、さらに「行き過ぎた平等意識はかえって社会を混乱させ、個性をうばってしまう結果になることがある」と法の下の平等さえ見なおせとしている。そして「国民統合の象徴としての天皇」により、「天皇の権威は、各時代の権力者に対する政治上の歯止めとなり、また国家が危機をむかえた時には、国民の気持ちをもとめ上げる大きなよりどころともなってきた」と、天皇制を押し出して、「国家元首」という考え方を教えこもうとしている。

日本国憲法の3大原則さえ否定する「つくる会教科書」の中身

 以上みてきたように、「つくる会教科書」によって展開されているものは、明治憲法?大日本帝国憲法を称賛し、現在の日本国憲法を否定し、改憲を叫び、現憲法の3大原則である、戦争放棄?平和主義、基本的人権の保障、国民主権をなしくずしにして、9条改憲、民主主義そのものを攻撃する。そして日本をして「天皇を中心とした神の国」論が全面展開されんとしている。このような「つくる会教科書」が各教育委員会において採択されたとき、まさしく恐るべき教育が開始されようとしているということです。有事法制の成立、
教育基本法改悪、改憲攻撃と同時にかけられているものとして、
「つくる会教科書」をわれわれは見ておかなければならない。
 戦争は教育からはじまる。
 「つくる会教科書」の採択を許さないために全力で闘おう!

大失業と戦争の時代に通用する新しい世代の動労千葉を創りあげよう!
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