1 歴史の岐路に立って
30年に及ぶ賃金破壊
昨年と今年の春闘でくり広げられた“賃上げ騒動”は何を意味しているのか? 財界やマスコミがいくら“賃上げ”を騒ぎたてても、もうそれを真に受ける者は誰もいない。生活は苦しくなるばかりだ。切り詰めに切り詰めてギリギリ持ちこたえてきた生活が足元から崩れ落ちてゆく。この時代の本当の意味を見すえなければならない。
日本の労働者の実質賃金は1996年以来下がり続けている。しかし、それも実態を反映してはいない。大多数の労働者にとってはこの30年、実質賃金どころか絶対的な賃下げが強制され続けてきたのが現実だ。
1994年に中央値で505万円だった世帯の年収は、2019年には374万円にまで激減している。この間に「共稼ぎ世帯」は倍増し全体の7割を占めるようになっている。それにも係わらずこの現実だ。
格差がとてつもなく拡大している。大企業の平均賃金が761万円なのに対し中小企業は403万円。その差358万円。日本の労働者の7割は中小企業で働いていることを忘れてはならない。
だが、もっと深刻なのは、大企業・中小企業の区別なく、全雇用労働者の4割近く(2124万人)の非正規職労働者が超低賃金の檻の中に閉じこめられていることだ。
終わりなき賃下げ攻撃
しかも、超低賃金化攻撃は今も続いている。「外注化」「融合化」と称して、今もぼう大な労働者が使い捨てられ、最底辺に向かって突き落とされ続けているのだ。この1年で非正規職労働者は23万人増え、数万社の中小企業が廃業や倒産に追い込まれている。
とくに社会保障制度解体攻撃と一体で、医療や介護の現場では、賃下げや廃業化攻撃が相次ぎ、この1年、病院や介護施設の廃業は過去最高を記録している。経団連は「わが国の財政問題は、社会保障制度の財源問題そのものだ」と言って、社会保障給付の4割を占める医療・介護の解体的再編に踏み出しているのである。
トランプ関税と世界
われわれは歴史の岐路に立っている。トランプ関税が世界を激震させ、大混乱に陥れている。トランプは米国債が投げ売り状態になったことにあわてふためいて「延期」を打ち出したが、それは事態の本質をくっきりと浮き上がらせるものとなった。没落するアメリカ帝国主義の延命をかけて中国を叩きつぶすことこそが起きている事態の本質だ。
サンフランシスコでは税・チップを含めるとラーメン一杯が30ドル(4500円!)だという。全米・全世界でトランプ関税への抗議闘争が燃え上がっている。政権への怒りはイーロン・マスクに集中しており、すべての店舗が抗議行動の対象となっている。テスラ車の所有者は「ナチス・カー」とペンキ書きされたり、火をかけられたりするので次々と売りに出しているという。そのテスラも今回の関税で株価が大暴落した。トランプ関税が早晩破たんすることは間違いない。
石破政権もなす術を失って現金給付だ、減税だと迷走している。だがそうした出口のない危機こそが“帝国主義の最後の延命策”としての戦争を生み出すことを忘れてはならない。
労働運動の再生をめざして
連合は闘うことを忘れ、春闘の最中、自民党大会に参加して満面の笑顔で祝意を表している。そもそも賃上げが組合要求を上回るなど、こんな無様なことがあっていいのか! 労働組合は死んでしまったのか?
3月14~16日、われわれは春闘・ダイ改阻止のストライキに立ち上がった。この時代に何としても労働運動を再生させなければならない。労働組合こそ国家主義や排外主義と対決し戦争反対の闘いの先頭に立たなければならない。今は小さな闘いであっても、そのストライキは時代への危機感、渦巻く怒りの声と結びつき、やがて大きな炎となることを確信している。
2 労働・社会保障政策の歴史的転換攻撃
転機としての安保3文書改訂、人口問題
労働政策や社会保障政策の歴史的な大転換攻撃が開始されている。転機となったのは22年の安保3文書改訂であった。「公共インフラの分野におけるあらゆる能力を国力としての防衛力という観点で総合的・一体的に活用する」ということが国の基本路線となり、それが社会全体をのみ込んでいったのである。
もう一つは、毎年100万人単位で人口が減少していく過程に突っ込んでいることが契機となっている。この間、政府や財界関係のあらゆる文書で労働生産性の低下問題が国家の存亡のかかった問題として異様なまでに強調されているが、それは次のような構図で語られている。
“日本の労働生産性は先進国中最低の水準に低下している。それでも何とか健闘しているのは人口一人あたりの生産性で見れば平均並み、労働生産年齢(15歳以上、65歳未満)人口一人あたりで見れば世界トップクラスだからである。それを支えたのは、2010年代以降、65歳以上の高齢者が多数労働市場に参入(ほとんどが非正規の超低賃金労働者として!)し労働人口が増えていったことによるもので、問題が爆発的に顕在化することが先送りされてきた。今やこうしたプロセスのすべてが崩壊しようとしている”と。
その主張の当否は別として、爆発的な人口減少は、非正規職化・超低賃金化の激しい拡大と、地域社会の破壊、とくに競争原理の名の下に地方における雇用の場が壊滅的に破壊されていったことによって人為的に作られたものであることだけは確認しておかなければならない。
「発展途上国並みの賃金にして国際競争力を確保する」という日本資本主義の基本路線は完全に破産したのである。40年に及ぶ新自由主義攻撃が生み出したのは底が抜けたような社会の崩壊と、敗戦時を遥かに上回る巨額の財政破たんだけであった。こうした現実の中での大軍拡・中国侵略戦争への突進。こうしたことが激しい矛盾を噴出させながら労働政策、社会保障政策の大転換攻撃、国家改造攻撃となって開始されているのである。
危機の深刻さ、構え直し
経団連は、この1年の間に『FUTURE DESIGN 2040』(24年12月、以下『FD2040』)と『次期経済・財政再生計画に向けた提言』(24年3月)等、国の基本方針に関する提言をまとめ“構え直し”とも言うべき踏み込みを行っており、経労委報告も昨年から今年にかけて明らかに質的な転換がある。
またこの間、「人口戦略会議」が国家政策決定に大きな役割を果たしているが、民間機関として設置されている理由を、事態があまりに深刻であり、打ち出す政策がすべて痛みを伴うものになるために、選挙のことなどを考えると政府機関として設置することができないからだと言っている。
質的転換をとげた経労委報告
昨年の経労委報告は、「構造的な賃金引き上げの歯車を加速できるかどうかに、日本経済のすう勢・未来がかかっているとの極めて強い危機感がある」とむき出しの危機感をあらわにし、徹底した「雇用柔軟化」と中小企業の大規模な整理・淘汰によって労働生産性をあげ、「アウトプットを最大化する」路線を打ち出した。
だが、今年の報告ではそれが、労働人口の急激な減少という危機に突き動かされて、何があっても戦略的重要分野への「労働移動」を大々的に貫徹しなければいけないという問題に絞り上げられてゴリゴリと打ち出されているのだ。「今が未来を選択できるラストチャンス」(人口戦略会議)だというのである。
25年版経労委報告は、新自由主義攻撃の日本的展開がもはや打つ手がないような社会崩壊をもたらしたことへの言い訳と開き直りに満ちている。例えば、日本の賃金が先進国中最低水準に落ち込んでいったことについても、「多くの経営者が自社の存続と社員の雇用確保に懸命に取り組んできた」結果だから仕方がなかったのだ、決して間違ってはいなかったのだと書き連ねている。だが、その開き直りの中に昨年以上の攻撃性を含ませているのである。
三位一体の労働市場改革
『FD2040』はその攻撃を「三位一体の労働市場改革」(①「円滑な労働移動」、②「労働法制の見直し」、③「多様な人材の活躍」)と位置づけており、攻撃は「働き方改革」から一歩進んで「労働市場改革」に重心を移している。その攻撃を「労組なき社会化」―戦後労働法制の解体と一体で進めると表明していること、JR東日本がその先兵になっていることが極めて重要だ(この点については日刊9546号「社友会と新賃金交渉!? JR東日本」等を参照してください)。
さらに言えば『FD2040』では、「三位一体の労働市場改革」と「全世代型社会保障制度改革」が表裏一体の国家の存亡のかかった問題として提起されている。
②へ続く