3「円滑な労働移動」が最大の焦点に
従来とは違う次元で語られた労働移動
25年版経労委報告や『FD2040』では、「わが国の労働市場を労働移動に適したものに創りあげていく」ことが労働政策上の最大の課題におし上げられている。「雇用流動化」はこれまでも言われてきたことではあるが、それとは全く違う次元で「労働移動」が語られている。
労働人口が激減している状況下で、人が生きていくために不可欠な社会的機能をなぎ倒してでも、国家や独占資本が生き残るために戦略的重要分野に労働力を強制的にでも集中させていくという次元で語られた「労働移動」政策である。攻撃の背景には、新自由主義攻撃が労働力の再生産構造を修復が不可能なまでに崩壊させてしまったことがあるのだ。
労働移動と国家のスクラップ&ビルド
『次期経済・財政再生計画に向けた提言』では、「科学技術・イノベーション基本計画」「GX実現に向けた基本方針」「社会資本整備基本計画」「防衛力整備計画」等に基づいて、「優先順位を明確化することでスクラップ・アンド・ビルドを進める」とされており、その特徴は、政策的優先順位の問題と「労働移動」、国家のスクラップ・アンド・ビルドが一体で語られていることだ。IT・半導体・先端技術産業、軍需産業、原発産業等の「成長産業」に大々的な労働移動を進める、それが財界の目論みである。
一方、「スクラップ」側のやり玉にあげられているのが社会保障と「地域経済社会」で、とくに社会保障給付の4割を占める医療・介護がその筆頭にあげられている。病院や介護施設の廃業や相次ぐ賃下げ攻撃はこうした構造の中で起きていることだ。また地域社会の丸ごとの切り捨てについては、また再び「新たな道州圏域構想」なるものが掲げられている。
内部労働市場と外部労働市場の接続?
経労委報告では労働移動問題が次のように書かれている。「『ジョブ型雇用』によって内部労働市場と外部労働市場がシームレスに接続した社会をつくる」と。「内部労働市場」とはすでに雇用されている者のことを言い、「外部労働市場」とはこれから雇用されようとしている者のことを言うが、それがシームレスに接続している社会にするというのだ。
「内部労働市場」という言い方自体絶対に許すことができない。雇用契約を結んでいようが、労働市場にあって就活中の労働者と何ら変わらないと思えというのだ。それが「内部労働市場と外部労働市場がシームレスに接続した社会」の意味である。いつでも放り出すことができ、いつでもとり替え可能で、解雇の規制などまったく無い社会にして労働移動を加速させる。
その手段として「ジョブ型雇用」(「この仕事限り」の雇用形態・雇用契約)があらためて前面におし出されているのである。「ジョブ型雇用」によって解雇自由社会にし、戦略的重要分野に円滑に労働力を移動させる、それが今年の経労委報告の基調となっているのだ。
「外国人材の確保」
それはこれまで以上に激甚に社会崩壊、社会的機能の破壊を促進する攻撃とならざるを得ない。経団連自身も当然そのことを自覚しており、経労委報告でも「社会活動に不可欠なエッセンシャルワーカーや現場を支える労働力問題への対応」をどうするのかという問題がくり返し提起されている。「エッセンシャルワーカー」という言葉がこれほど頻繁に出てくるのはコロナ禍以降で初めてのことだ。社会が動きを止めてしまいかねない危機に震えあがっているのだ。
その「解決策」として「外国人材の確保」が、「三位一体改革」の一つ「多様な人材の活躍」の柱として掲げられる。「政府がめざす経済成長の達成には2040年時点で外国人労働者が688万人必要となる」というのだ。現在日本で働く外国人労働者は約200万人。これは絶望的に不可能なことである。
その一方で日本政府は「戦時型入管政策」と言うべき、移民・難民へのむき出しの排外主義的・非人道的追放政策に踏み出している。彼らにとっては、安価な労働力としての外国人労働者の動員と排外主義的追放政策は表裏一体の問題なのだ。
人口戦略会議は、「社会の安定性にも大きな危惧が生じるため『移民政策』はとらない」としている。内乱勢力と見なしながら数百万人の外国人労働者を導入する。こうしたことが鋭い矛盾をはらみながら、社会崩壊と戦争への転落へ加速度をつけて進もうとしているのである。
中小企業200万社の倒産・廃業!
また、昨年の経労委報告では、「自主的・自律的に生産性を向上できない中小企業・地域企業」という表現を何度もくり返してその整理・淘汰を主張したのに対し、今年の報告ではそうした表現は使われなくなっている。
その代わりに「中小企業の57%(200万社以上!)はすでに廃業を自ら決断している」と書き、それを前提に労働移動や国家的なスクラップ・アンド・ビルドの問題が議論されている。後のない危機の深さに突き動かされた攻撃のエスカレートがそうした形で表現されているのである。
国家総動員法なき労働統制
今年の経労委報告では定昇制度解体の意図を込めて「昇給制度の歴史」がとりあげられており、そこではかつて戦時下で出された「労務調整令」や「重要事業場労務管理令」(いずれも1942年に出された国家総動員法に基づく勅令)、戦後の朝鮮戦争下で制定された「企業合理化促進法」等が、定昇制度の確立や定着のきっかけとなったことが述べられている。
なぜ今、こうした問題がとりあげられているのか? 経団連は、今進めようとしていることを「非常事態下・戦時下の労働政策」だと考えているからではないのか?
「雇用柔軟化」と戦時統制的な労働政策は一見すると矛盾するようにみえるが、「労働移動」を半ば強制的にでも進めようとするやり方は「労務調整令」そのものだし、中小企業の整理・淘汰は「企業整備令」、JRが進める廃線化攻撃は「陸運統制令」以来の攻撃だ。今年の経労委報告にはそうした意図が見え隠れしているのである。