新自由主義ー分割・民営化攻撃の破たんと廃線化攻撃 (上)

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2月11日、国鉄集会の前段で、JRの廃線化攻撃と闘う各地の仲間が集まって、闘いの路線形成に向けた活動者会議が 開かれました。その場での田中顧問の提起を3回に分けて掲載します。
廃線化問題を中心に、政府・JRによる攻撃の全体をどう見たらいいのかということで問題提起をさせていただきます。また、地域でどのような闘いが展開されているのか、久留里線と地域を守る会、最先端の攻防点である北海道の現実、強制廃線化に向けた再構築協議会設置第一号となった芸備線、さらに米坂線をめぐる闘いを報告していただき、討議したい。そしてその中から、国鉄闘争やこれからの労働運動の展望をつかみとっていきたいと思います。今、JRをめぐって起きていることは、単にJRという一(いち)資本の労働者に対する攻撃、地域を切り捨てていく理不尽な攻撃というだけでなく、国鉄分割・民営化の時のように、国家の性格そのものを根本的に転換するような攻撃としてあることを見すえなければなりません。今後の実践の中で深めてほしいと思います。

(1) JRをめぐって何が起きているのか?

JR資本の位置―労組なき社会化
第1に、日本資本主義の新自由主義的延命と、その中でJR資本がどのような役割をはたしているのかという問題です。一つは、2018年に開始された「労組なき社会化」攻撃についてです。これも単に一(いち)資本の攻撃ではありませんでした。JR東日本の社長が首相官邸に呼び出されたことをきっかけに始まっている。しかも、大塚元社長が経団連の労働法規委員会の委員長で、その時に議論されていたのは「労働者代表法制の整備」という問題でした。つまり、労働者代表法制を整備して労働組合などなくしてしまえ、ということです。JR的に言えば社友会路線。財界と政府の意思を受けて、労組なき社会化の攻撃が始まり、東労組のようなものまで潰していくという政策は、政府と財界の意志を受けてJRでそのモデルを作っていく攻撃だったわけです。

JR資本の位置―巨大再開発
もうひとつは、とくにリーマンショック後の危機の中から、日本資本主義が延命していくにあって、JR資本がゼネコンなどと手を組んで決定的な役割を果たしてきたという問題です。JRは東京の大ターミナルはもとよりあらゆる地方都市も含め、景色が変わってしまうような大再開発を進めています。千葉駅のようなところでも、駅ビルを建て、広大なエキナカを造り、高層のビルを2棟建て、ホテルも造った。本命は、旧千葉支社と千葉車掌区、千葉ステーションビルの別館の跡地に、さらにホテルを二つ買収してつぶした千葉駅脇の広大な土地に、1千名のホールがある千葉市民会館を入れた巨大な複合施設作る計画ですが、これは千葉市との協議が暗礁にのりあげ、現在頓挫しています。渋谷駅など、最終的には超高層ビルが6本建つ計画で、まだ十年以上かかるはずです。高輪も巨大な再開発で国際金融都市を造るという。こういう形で、JR資本が列島改造的な巨大開発を担うという形で、日本資本主義の旗振り役になっています。廃線化問題も、JR資本がこういう位置にあることを前提にして見なければいけないと思います。

「融合化」掲げた歴史的転換
第2に、「鉄道を持つIT企業化」「鉄道ありきでものを考えるな」と称して職場で進められている攻撃についてです。

JR東日本は、銀行を設立して Suica(スイカ)を軸とした経済圏をつくること、巨大な不動産開発業者になることをたくらんでいますが、ここでも極端な形で突っ走っています。鉄道部門については、現業のすべての職名を廃止してしまったのです。鉄道事業は、運転、車両、保線、土木、電気、信号通信等の技術力の膨大な養成体系を土台として成り立っていたのですが、それを一挙に放棄してしまったのです。

しかも「融合化」と称して、駅や運輸区などを事業所としては全部廃止し、200㌔にも及ぶ範囲で統合して、それを一事業所だと言っています。これまでの日本資本主義の発想にはなかったことです。こんなことはもちろん破綻しますが、『赤字ローカル線の廃線など議論の余地もなく当然のことだ』という発想の大きな転換が起きているのです。

これは、これまでとは次元をこえた根底的な権利破壊攻撃、『労働柔軟化』攻撃でもあることです。どこの職場でどんな仕事をするのかということと切り離された抽象的な権利など存在しません。『労働柔軟化』は、政府・財界が掲げる「働き方改革フェーズⅡ」の最大の眼目とされていることです。

鉄道崩壊―事故激発
第3に、鉄道のイロハのイが、解体してしまったとしか考えられない重大事故が多発していることです。この前の新幹線の架線事故は、やってはいけないことが三ついっぺんに起きている。架線を保持するロッドが38年も点検もされないまま放置されていた。しかも事故の復旧過程で下請会社の労働者の感電事故を引き起こした。多くの復旧要員が現場に出ていることを誰もが分かっていながら、まともに連絡もしないまま架線に電流を流したという点ではまさに素人集団化しているとしか言いようがありません。さらには事故後の列車整理・分離運転がまともにできず大輸送混乱を引き起こしています。

京葉線快速廃止問題
京葉線の快速廃止問題は、今のJRのごう慢で独善的な姿勢を象徴的に暴露しました。こんな重大なことを地域に何の説明もせずに一方的に強行した。千葉県・千葉市はもとより、延長運転が行なわれている内房線・外房線沿線を含む20の市・町村沿線住民が烈火のごとく怒って、JR千葉支社や本社に押しかけ、JRは前代未聞のダイ改一部見直しをせざるをえなくなったのです。

しかしこんなやり方は常識的には考えられないことです。鉄道会社としての常識までが崩壊している。しかも今回の快速廃止の背景には、列車指令員まで素人集団化してしまった結果、運行を単純化しなければ輸送混乱時の列車整理ができなくなっている現実があり、さらには車掌廃止の狙いがあります。そのつけを全部沿線住民に転嫁しようとしたのです。でもその先にあるのは、羽田空港の事故です。あの事故は、発着便数が激増する一方、管制官が激減する中で起きました。鉄道では管制官にあたるのが指令員です。JRは「列車整理などAIがやってくれる」と言って指令員の養成を放棄し、列車整理もまともにできなくなったのです。

国交省検討会からリ・デザイン実現会議へ
第4に、廃線化という問題が国家をあげた攻撃として急浮上し、エスカレートしています。国交省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の提言が出されたのは一昨年の7月ですが、去年の9月に「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」が立ち上げられ、わずか1年の間に攻撃は決定的にエスカレートしています。これについては後で詳しく述べることにします。

戦時体制に組み込まれた鉄道
第5に、それと表裏一体で「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」が並行的に国交省に設置され、そこに防衛省が全面的に介入し、鉄道の軍事輸送=鉄道を対中国をめぐる戦争計画の中に組み込むということが一気に進んでいます。別紙で防衛省の資料を付けたので見て下さい。軍事利用を一般論として言っているのではなく、北海道に備蓄された武器・弾薬や兵員を南西地域に移動させる計画が作られています。だから、例えば羽越本線は突出した赤字を出しているのに、廃線の話は出ないわけです。

安保3文書改訂
第6に、今JRで起きていることは、いずれも戦後的なあり方の大転換をなしているわけですが、その背景にあるのが、安保3文書の改訂(とくに国家安全保障戦略)とデジタル田園都市国家構想です。この国のあり方、国家の性格が根本から変わろうとしているのです。

安保三文書の方から見ていきますが、改訂に向けて防衛省に「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が設置され、その報告が22年11月に出されています。そこでは、「これらの分野(公共インフラ等)におけるあらゆる能力を国力としての防衛力という観点で総合的・一体的に利活用する」「その際、防衛省・自衛隊などのニーズを踏まえ、関係府省が連携し、それらの予算が総合的な防衛体制の強化のために効果的に活用される仕組みとすることが重要だ」と言っています。国家安全保障戦略ではこれほど露骨な表現は使われていませんが、その前提になった報告にはこう明記されています。つまり43兆円の軍拡どころじゃないということです。全府省の予算が戦争のために効果的に使われるべきだということですし、防衛省が全府省に向かって命令する位置に立ったということです。これに基づいて、特定重要空港・港湾38施設を指定し有事に際して万全な体制をつくる方針が出され、鉄道では、廃線化と軍事利用がセットで打ち出されたわけです。

国家構想実現会議
もう一方の「デジタル田園都市国家構想」ですが、内閣官房に設置された岸田を議長とする諮問委員会で、安保・外交政策以外の全分野を扱い、新たな国家構想をつくることを目的としています。すでに「総合戦略」が打ち出されていますが、廃線化問題を主導する「地域の公共交通リ・デザイン実現会議」は、この「国家構想実現会議」の下部機関と位置づけられています。デジタルとか田園とかは、いわばとってつけたもので、竹中平蔵が国鉄分割・民営化時の中曽根の主張になぞらえて「国家改造計画だ」と言っているように、国家構想であることが核心です。全体としてめざされているのは、国家のスクラップ&ビルド、戦前の表現で言えば「高度国防国家」の樹立です。また後にも述べますが、JR資本はこういう関係の中での中でその中心を担っているのだということを押さえておくことが大事だと思います。

(続く)

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