2 厚労省の新時代研報告書と労基研報告書
①厚労省報告書が打ちだしたもの
厚労省が出した2つの報告書は、内容が多岐にわたるだけでなく、労働者の意識の変化や労働組合の衰退によって「抜本的見直し」が必要になったかのように問題をすりかえて描きだしているため、大変分かりづらいものになっている。が、その内容はだいたい次の6点にまとめることができる。
第1は、労基法の基本原理、規制原理そのものを解体しようとしていることである。それは「労働者」「事業(場)」といった労基法の基礎をなす概念の見直し議論にはじまり、労働条件の最低基準を一律に定めることによって、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たす」ことを確認した労基法第一条(労働条件の原則)の見直し議論に至るもの(そのように明示はしていないが内容的にはそうした議論が展開されている)で、労基法を全く別ものにしてしまおうとしている。第2は、議論の中心に「労使コミュニケーション」という概念を置くことによって、労資間には歴然たる力関係の差があるという労働法制の大前提を否定し、労働基本権(団結権、団交権、争議権)そのものを解体しようとしていることである。厚労省は「将来的課題」とか色々言い訳をしているが論理的には明らかに解体しようとしている。第3は、労働組合の衰退、組織率の低下を口実として、労働組合類似(まがい)の過半数代表制度を整備することによって、労働組合を社会から駆逐しようとしていることである。第4は、それと一体で、企業の事情に合わせて、労基法による規制の例外(適用除外)を認めていく仕組み(デロゲーション)の創設が最大の課題とされていることである。すべてがデロゲーションの観点から語られ、デロゲーションが至上命題とされていると言っても過言ではない。第5は、労基法の根幹をなす労働時間規制のさらなる柔軟化で、ここには休憩、休日、年休、割増賃金規制、副業・兼業等の問題が含まれる。第6は、労働基準監督行政の見直しである。監督行政は現在でも著しく形骸化してしまっているが、報告書では「事業者が自主的に法令遵守状況をチェックできる仕組みを確立する」と言って企業の「自主性」にまかせてしまおうとしている。
②労基法を換骨奪胎
労基法第一条を解体
第1の点について厚労省の報告書は、「(現在の労働関係法制が)働き方の変化・多様化に必ずしも対応できない部分も生じている」と言って、労基法の基本原理、規制原理を全く違うものに置き換えようとしている。報告書は、今後の労働基準法制の目的を「心身の健康を『守る』こと」にすると言っている。実はそれ自体が重大な後退なのだが、それに続けて「『守る』にとどまらず、働く人の働き方やキャリア形成の希望を叶え、よりよい職業生活を送ることができるよう『支える』ことについても適切に効力を発揮するよう見直す」「自発的な能力開発とキャリア形成を『支える』」というのだ。さらには、労働時間等の規制は「健康の守り方」の一つにすぎないものとし、「守り方」自体を労働者自身が選択できるものにすると主張する。しかもそれがデロゲーション(労基法の規制以下で働くこと)と一体で語られているのである。
これはまさに労基法を解体する企みに他ならない。先にも述べたように労基法は第一条で、①労働条件の最低基準を一律に、②刑罰を伴う強行規定として定めることによって、③人たるに値する生活を営むための必要を満たすことを目的とし、④さらには「この法律で定める基準は最低のものであって労働関係の当事者は…その向上をはかるために務めなければいけない」ことを定めている。「自発的な能力開発とキャリア形成を支える」ことが労基法の目的であっていいはずはない。労基法が労働者保護法ではなく、労働者を無限に競争に駆り立てていくための法律にされようとしている。目的を「心身の健康維持」(しかも労働者の選択=自己責任によるそれ)にきり縮めてしまうことも許せない。現実は精神障害による労災認定が過去最多となっているのだ。一体どの口がこんなことを言っているのか、と言うしかない。
「事業場」概念を解体
それだけではない。報告書は、労基法における「労働者」「事業(場)」という概念まで再検討しなければならないと主張する。規制緩和・柔軟化によって自らが雇用を徹底的に破壊した結果、正規・非正規、フリーランス、プラットホームワーク、ギグワーク等「多用な働き方」が生まれたことを理由にして、今度は「労働者」の概念まで変えてしまおうという議論をする。盗人猛々しいとしか言いようのないやり方だが、さすがに厚労省も労働者概念については、「実態が多様化しているといっても、その抽象的属性までもが大きく変わっているわけではない」「本来『労働者』として雇用すべき者を請負業者として扱うといった、法を潜脱しようとする事案も生じている」と、一応慎重な姿勢を崩してはいない。が、問題は「事業場」概念の方で、こっちは本気で手をつけようとしている。この問題が重要なのは、労基法が「事業場単位適用原則」を採用しており、これを変えれば労基法は土台から崩れることになるからである。
そもそも、労働者の権利や労働条件は業務や職場が限定されていることによってはじめて成立するもので、だから労基法の事業場単位主義をとっている。勤務指定、年休取得単位、職場代表の選出、安全衛生委員会の開催、36協定等の適用、就業規則改訂の際の意見聴取、労働基準の監督等はすべて事業場単位で行われる。だから形骸化されてしまっているとはいえ、最も身近な問題で言えば、労働者を他の事業場に配転するときは発令行為が必要で、最低それに対する苦情処理等の手続きを経なければできないし、あるいは労働組合が著しく弱体化してしまった現実の中でも職場ごとに過半数代表を獲得することが重要な抵抗の手段となってきたのである。それを覆すことの意味するところは、労働者の無権利化であり、労働組合の解体に他ならない。
JR東日本による既成事実化
この問題がとくに重大なのは、JR東日本が先走る形で、「事業場」概念の解体に踏み出していることにある。JR東日本はこの7月の組織の大再編を予定しているが、それに合わせて、事業本部(数百㎞に及ぶ広大なエリア)を「一事業所」とするというとんでもない提案をしてきたのだ。これは「労組なき社会化」攻撃に踏み出した2018年以来、「融合化」と称して現業の職名をすべて廃止する等して数年がかりで周到に準備されてきたものであった。そこには国鉄分割・民営化で総評をつぶした上に、今度は労基法そのものをつぶそうという、悪どい意図があらわとなっている。
これは、さすがに厚労省も少なくとも現時点では「待った」をかけざるを得ず一旦は頓挫した。『労基研報告』では、「事業場単位を原則として維持しつつ、…労使の合意により、手続きを企業単位や複数事業場単位で行うことも選択肢になる」というにとどめているが、JR東日本と経団連は強行姿勢であることを忘れてはならない。またそれだけでなく、この4月からJR東日本が導入した新人事・賃金制度は、退職金制度の廃止、「基本給」「定期昇給」という概念の廃止、一般社員も含めた株式報酬制度導入等、戦後的労資関係の破壊という点で大きなエピックをなす攻撃であること、あらゆる方向から労働関係法制を切り崩してゆく攻撃が進められていることを忘れてはならない。(つづく)
当面するスケジュール
●新宿反戦メーデー2026
5月1日(金) 14時 新宿駅東口広場
●団結潮干狩り
5月2日(土)10時 木更津市・江川海岸
●OB会第37回総会
5月17日(日)15時 DC会館
●動労総連合第39回定期中央員会
5月10日(日)13時 DC会館
●労働学校「『共産党宣言』を読む」
5月23日(土)13時 DC会館
●65歳以降雇用延長裁判
5月27日(水)16時 千葉地裁

