歴史の転換点としての24春闘ー 闘いの総括

(1) 24春闘スト—我々が立ち向かったもの

大山鳴動して底無しの賃下げ

物価が歯止めを失ったように上がり続けている。6月からは政府の補助金が打ち切られ電気・ガス料金がまた値上がりした。住宅ローン金利もいよいよ本格的に上がり始めている。われわれの生活はもう限界だ。
24春闘は、政府や財界、日銀までが「賃上げ」を連呼する中で闘われたが、その結果は惨たんたるものであった。労働者には止まるところを知らない実質賃金の下落だけがのしかかっているというのに、それが「33年ぶりの賃上げ水準」だと、実感とは真逆の宣伝がされていく。大企業の正規職の賃上げ額ですら物価上昇には到底追いつかず、中小企業や非正規で働く労働者の多くはほとんどゼロに等しい回答であった。CTS契約社員は時給わずか30円増という回答だ。ふざけるな! 怒りの声が沸き上がる。

時代に抗するストライキ

動労千葉は、24春闘を「反戦春闘」「組織拡大春闘」と位置づけて、ダイ改阻止闘争と結合して3月15~16日にかけて渾身の力を込めてストライキに立ち上がった。
労働者が堪え難い生活苦に苦しんでいるというのに、連合は政府や財界との一体化を深めるばかりで、文字通り何もしなかった。連合・芳野会長の岸田政権との癒着ぶりは吐き気をもよおすほどだ。30年も賃金が下がり続けるという、世界に例を見ない現実を労働者に強制した責任の半分は連合にある。こんな連中にこれ以上“労働組合”など名のらせてはいけない。
43兆円の大軍拡や安保三文書改訂以降、岸田政権はもはや後戻りがきかないような形で「戦争のできる国」に向かって突き進んでいる。政府や財界による賃上げの連呼は、事態の経緯を見れば明らかなように、空前の大軍拡やそのための大増税がきっかけとなって始まったものであった。「増税メガネ」と呼ばれ、その批判をかわすために「減税」「給付」を打ち出してもやればやるほど支持率が急降下していく。そこに政治資金問題の深い闇が重なって政権基盤はグラグラに揺らいでいた。そんな中で叫び立てられた「賃上げ」には、誰もが「何なんだこれは?」という強烈な違和感を感じていた。それは戦争体制やさらなる攻撃の中に労働者を巻き込んでいくための策略ではないか、と。
今春闘はこのような事態の中で闘われた。求められていたのは労働運動の変革である。そして48時間のストライキは、この時代に立ち向かうわれわれの決意表明であった。

破綻し始めたJR大再編攻撃

また今春闘は、ダイ改をめぐっても大きな転機をなす闘いとなった。京葉線の快速列車廃止をめぐって沿線自治体や住民の激しい怒りの声が噴き出し、JRがダイ改の「見直し」を迫られるという前代未聞の事態が起きたのである。その後「みどりの窓口廃止計画を凍結する」と発表せざるを得なくなったことも含め、「鉄道ありきでものを考えるな」と称して進められてきた「IT企業化」なる路線が、乗客の怒りが爆発するという形をとってあっちこっちから破たんし始めたのだ。しかし社会の眼に曝されない職場ではその攻撃は、執拗に続き労働者を苦しめている。今次ダイ改でも、融合化・統括センター化によって千葉運輸区までが消滅し、JR発足以来最大の乗務員合理化が強行され、検査派出が廃止・縮小されるなど、JRは攻撃をエスカレートさせている。だが、職場でも攻撃は「若年退職の激増」という形をとって破たんし始めている。
京葉線問題で沿線自治体が断固として声をあげたのも、われわれが長年にわたって、内房や外房で地域ぐるみの闘いを組織してきた活動の基礎があったからこそ実現したものだ。こうした状況下で闘われた24春闘ストライキが、JRの現場で働く労働者の気持ちに響いていることは間違いない。「本当は俺たちがやらなければいけない闘いだ。声をあげてくれて感謝している」という声が寄せられている。またわれわれは、今春闘の全過程を通して、ストライキが社会的に支持される時代がやってきたことをひしひしと感じとることができた。JRの職場に闘う労働組合を甦らせよう。

(2) “賃上げ連呼”が意味するもの

「賃上げ」論の正体

今春闘で起きたことは、これまで安倍政権の下で「官製春闘」と呼ばれたものとは明らかに次元の違うものであった。賃上げ連呼は、43兆円の大軍拡をきっかけにして叫ばれるようになっただけではない。もう一つの背景には、新自由主義攻撃が文字通り全面的に破たんし、ハタと気がついてみたら社会のすべてが足元から崩れ落ちようとしている現実に直面していたという問題がある。
『24年版経労委報告』(春闘に臨むにあたっての財界側の方針)は、その冒頭から次のように述べている。
「構造的な賃金引き上げの歯車を加速できるかどうかに、日本経済の趨勢・未来がかかっているとの極めて強い危機感がある」と。
これは一体何なのか? これまでは「賃金を上げたら日本経済が国際競争に負ける」「日本の企業の99・7%を占める中小企業には賃上げなどする余力はない」と言ってきたのではなかったのか? それが今春闘では、「賃上げを加速できなかったら日本経済が深刻な危機に陥る」と真逆の主張をするようになったのだ。
結論から言えば、政府・財界は、400万社と言われる中小企業の大規模な整理・淘汰と、地方をカネ食い虫だと丸ごと切り捨てていく国家改造攻撃に踏み出したのである。それが賃上げ論の正体だ。それと大軍拡・戦争国家化は表裏一体の関係にある。JRの廃線化攻撃もそれに便乗し、促進するものだ。

「労働生産性向上」への突進

経労委報告が最も強調しているのは、日本の「労働生産性」が先進国中最低にまで落ち込んでいることへのすさまじい危機感である。別掲の図表が冒頭に掲げられ、すべての議論がそこから始められている。


「発展途上国並みの賃金にして国際競争に勝つ」(奥田)というのが日本型新自由主義の基本路線であったが、それが完全に破産したのである。賃金は「発展途上国並み」になったにも係わらず、労働生産性は地に落ちてしまった。このままでは日本は国際競争からずり落ちる。そうした危機感がむき出しにされているのだ。しかしそれは、労働者を痛めつけすぎたことの必然的結果に他ならない。
「アウトプット(付加価値・企業利益)の最大化」「インプット(労働投入)のさらなる効率化」「働き方改革フェーズⅡの推進」「中小企業の生産性向上」「地方企業の生産性向上」等が全編にわたって叫びたてられている。
「働き方改革フェーズⅡ」とは、これまで進めてきた雇用や賃金の破壊攻撃(インプット)を前提に、新たな段階に入るという意味で、以前に閣議決定された内容を見ると、「雇用の多様化・柔軟化」を進めることが核心だとされている。具体的には「働く場所・労働時間の柔軟化」「時間と賃金の対応関係の柔軟化」「兼業・副業、雇用主の複数化」「フリーランス等雇用契約の柔軟化」「解雇規制の柔軟化」「労働移動の促進」を図るというのだ。労働者をさらなる競争に駆り立て、無権利化する。これはJRで進められている融合化攻撃そのものだ。
また、「中小企業・地方企業の生産性向上」については、「自律的・自発的な」という枕言葉が必ずつけられている。自己責任で生産性を上げられない企業はつぶれても仕方ないということだ。

 労働力の再生産が崩壊

第2の問題は、急激に進む人口減少・労働力問題である。経労委報告が危機感を顕わにして述べている。「経済・社会機能の維持・確保」ができなくなる瀬戸際に立っているというのだ。そして、瓦解しようとしている産業のリストが掲げられている。
①介護・看護、②宿泊・飲食、③運輸、④その他サービス、⑤建設、⑥製造、⑦卸売・小売、⑧金融・保険・不動産、⑨情報通信・・・・(深刻さ順/学校など公的部門や農林水産業などは含まれていない)。
まさに、社会のすべてが崩れ落ちようとしているということだ。しかも、人口減少は断じて自然現象ではない。新自由主義攻撃によって人為的に生み出されたものだ。労働者の超低賃金化や、「選択と集中」と称する棄民政策によって地方を衰退させ、破壊してきたことの結果に他ならない。しかも社会のあり方を抜本的に刷新する以外にもはや解決は不可能だ。ここでも行き着いた結論は、国家のスクラップ&ビルド、すなわち中小企業の大規模淘汰と地方切り捨てだ。

 外国人労働者問題

経労委報告は第3に、労働力問題に関連して、外国人労働者の問題を多くのページをさいて取り上げている。日本で働く外国人労働者は急増しており、この春には200万人を越えた。労働者全体の30人にひとりが外国人労働者で、日本の社会、われわれの生活は外国人労働者によって支えられていると言っても過言ではない。
しかし、この問題でも経労委報告は危機感を顕わにしている。外国人労働者が増えているといっても、人数的にも最も多く、現場の様々なエッセンシャルワークを支えている「技能実習」や「留学」(資格外労働)は減りはじめている。労働条件の酷さ、国に送金することもできない超低賃金・円安、安価な労働力としては利用しても絶対に定住させない、難民認定も基本的に全く認めないという、世界に例をみない排他的で差別的、反人道的な日本の入管政策の中で、外国人労働者が日本から逃げ出しはじめているのだ。労働力の海外流失が始まっており、そうした流れがどこかで雪崩をうつ可能性すらありうる。まさに「経済・社会機能の維持・確保」が崩壊しようとしており、政府・財界はこうした事態に背筋を凍らしているのだ。

中小企業の大規模淘汰と地方切り捨て

結局、岸田政権は、万策尽きた危機の中で、日本資本主義の生き残りをかけた外科手術として、大規模な中小企業・地方企業の整理・淘汰と地方の全面的な切り捨て攻撃にうって出たのだ。だからこそ、中小企業対策をいっさい放置したまま「賃上げ」を叫びたてることができたのである。これが賃上げ連呼の背後にあるものだ。
しかもそれはこれから始まることではない。すでに開始されている攻撃だ。23年には5万社以上の中小企業が閉鎖・廃業に追い込まれている。とくに労働力不足が最も深刻な介護事業では、地方の在宅介護事業所が次々に閉鎖されているが、それは、厚労省が在宅介護の点数を大手事業者の利益率を基準に引き下げることによって、明らかに人為的に廃業に追い込んだ攻撃だ。そして今は何と介護に「生産性向上加算」などという制度が導入されている。タクシーのライドシェア導入も同じ脈絡の中での攻撃だ。
JRの廃線化を焦点にした地域丸ごと切り捨て攻撃も、単に鉄道だけの問題ではない。それを通して、学校、病院、バス路線、公共サービス、物流機能、商店街など地域を丸ごと撤退させようとしている。地方の公共交通の問題を扱っている政府の諮問委員会・「リデザイン実現会議」の報告には、「(公共サービスを無くすことによって)人口の穏やかな移動を促す」とまで書かれている。そうした攻撃の中心を担っているのが、JR東日本の富田(前会長)や元総務大臣・現日本郵便社長の増田だ。「すべての町は救えない」というスローガンを掲げ、人口問題を扱う「人口戦略会議」の報告では「744自治体が消滅の危機」と煽りたてているのだ。
起きていることは現代版「企業整備令」だ。企業整備令とは、1942年5月に、戦争遂行のために中小企業を整理・淘汰することを目的に出された国家総動員法に基づく勅令で、例えば織物商卸売同業組合は10分の1、出版業は4分の1に強制的に整理され、あるいは軍需産業に転換させられていった。
異次元緩和によって積み上がった1286兆円という世界最大の国の借金は、第二次大戦の敗戦時を遥かに上回るものだ。だからかつては15年戦争の最後の段階で起きたことが、戦時体制への準備段階で起きているのだ。

安保3文書改訂が転機

国家・社会のあり方が大転換しようとしている。そのきっかけとなったのは、安保3文書改訂(22年)であった。それは安全保障分野だけの問題ではなく、国家の性格を根本的に変えてしまうような意味をもつものであった。
安保3文書改訂にあたっては、「全省庁の予算が、防衛省・自衛隊などのニーズを踏まえ、総合的な防衛体制の強化のために効果的に活用される仕組みとすることが重要だ」(国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議)ということが確認されている。
これは大変なことを意味する。43兆円どころか「国力」のすべて、全省庁の予算を国防のために「効果的に活用」集中するために、防衛省・自衛隊が特権的な位置に立って全省庁をコントロールするというのだ。
しかもそれは、わずか1年ほどの間に驚くべき速度で社会経済のあり方を変えていった。防衛産業保護、武器の共同開発や輸出、経済安全保障等々が次々に法制化・決定され、三菱重工、石川島播磨など軍需産業の利益がたちまち何倍にもはね上がっていったのである。そして今年2月には、「安全保障と経済成長の好循環」(防衛力の抜本的強化に関する有識者会議)なる方針が打ち出されるに至っている。今や彼らのスローガンは「分配と成長の好循環」から「安全保障と経済成長の好循環」に変わったのだ。
「60年安保改訂以来の安保防衛問題の歴史的転換(アップグレード)」と言われる、4月10日の日米首脳会談・共同声明が、さらにこうした事態を加速させようとしている。

デジタル田園都市国家構想

さらに、こうした国家改造攻撃を推進する中心に座っているのが、「デジタル田園都市国家構想実現会議」なる組織だ。内閣官房に設置された岸田を議長とした諮問委員会で、「新たな国家ビジョンをつくる」ことを目的として、安保・外交政策以外の全分野を扱っている。鉄道の廃線化攻撃もこの国家構想実現会議の下で検討されていることはこの間述べてきたとおりだ。全体としてめざされているのは、国家のスクラップ&ビルドで、この下で地方自治体や生産性の低い企業・産業の大規模な淘汰が強行されようとしている。全省庁に及ぶ膨大な数の諮問委員会がつくられ、それによって国家改造攻撃が進められているが、その全体を束ねる位置にあるのがデジタル田園都市国家構想実現会議だ。
しかも、地方自治体を整理・淘汰するだけではなく、地方自治法改悪が示したように、国家機能のすべてが「有事」を基準として再編されようとしている。国は有事において、地方自治体の自治業務全般について網羅的に指揮権を行使できるというのだ。

(3) 戦後労働法制の解体
労組なき社会化攻撃

「新しい集団的労使関係」?

こうした事態と連動して、「労使自治を軸とした労働法制」「新しい集団的労使関係」と称して、労基法、労組法を軸とした戦後的労働法制、労働基本権を最後的に解体する攻撃が開始されている。それは、長年にわたって様々な場でくすぶり続けてきたことが、今年1月に経団連が「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を発表し、同月に厚労省に法改正に向けた研究会が設置されたことで、一気に表面化することになった問題だ。
経団連提言にはその目的が、①「労働基準法制による画一的規制の弊害を最低限にしていく」、②「生産性の改善・向上に資する労働法制に見直す必要がある」と書かれている。「労働条件や権利の維持・向上」「団結権の擁護」といった観点は消え失せて、完全ら資本のための労働法制にしようというのである。
具体的には、過半数組合がない企業の場合、①「労使協創協議制」という制度を創出して、社員代表にある種の団体交渉権のようなものを与える、②社員代表は「会社代表者との間で個々の労働者を規律する契約を締結する権限」をもつ、③その「契約」では、「就業規則の合理性推定や労働時間制度のデロゲーション(適用除外)を認めることも検討」する、④これまで社員代表は事業所単位の選出だったが、企業単位での手続きを可能とする、ということを法制化しようというのだ。すでに連合との間で協議が始まっている。

社友会路線の社会全体への拡大

これは、JRの労働組合なき社会化攻撃=社友会路線を法制化し、すべての労働者に適用しようとする攻撃だ。実際、この問題が検討されていた経団連労働法規委員会の委員長をJR東日本前会長の富田が務めるなどしてJRが主導し、自らそのモデルを作って見せ、そして社会全体に拡張しようとしているのである。
社友会に「個々の労働者を規律する契約を結ぶ権限」を与えるという。「デロゲーション」とは「適用除外」という意味で、これが実行に移されれば、社友会は労基法の適用除外、つまり労基法以下の「契約」を結び、それを合理的と推定する権限までもつことになる。しかも、事業所単位ではなく企業単位の手続きにするというのだ。そうやって選ばれた社員代表は、社友会がそうであるように、完全に会社の意のままに動くものとなっていくのは明らかだ。
そもそも団結権・団体交渉権・団体行動(争議)権は、労働組合だけがもつ権利だった。労働組合だからこそ、争議=「生産を阻害する行為」が正当なものとされ、資本と闘う力をもったのだ。それを根本から解体しようというのがこの攻撃の狙いだ。「労使自治」「新たな集団的労使関係」などと称して、その意味を真逆なものにしてしまおうとしている。社員代表は労働組合ではないから、不当労働行為=支配介入という概念も消失してしまう。資本のやりたい放題が横行し、労働者の権利は地に堕ちることになる。まさに現代版の産業報国会化攻撃だ。

労働組合が力を取り戻すとき

24春闘の背後で進行していたのは、このような事態であった。しかし、吹き荒れた新自由主義攻撃のことごとくが破たんし崩壊したところから、その矛盾を半ば暴力的に「解決」するような形でこれらの攻撃がでてきたことを見れば明らかなように、こんな攻撃は絶対に破産する。
今春闘を見ても明らかなように、その結果は賃下げの強制となっただけでなく、すでに限界をこえていた社会的格差(貧困の強制)を、さらに徹底して拡大するものでしかなかった。「賃上げ」と言っても、大企業トップから最低賃金ギリギリで働く非正規職の労働者まで、すべての場面で格差を広げていくものでしかなかったのが現実だ。大企業(とくに軍需産業!)は空前の利益に沸いている。物価高と円安の犠牲はすべて労働者にのしかかり、政治家は濡れ手に粟のように「政治資金」を集め脱税し放題で、これだけ社会問題になっても、ザルのような法律で誤魔化すことしかしない。こんな連中が「お国のためだ」と言って戦争を煽り、大軍拡を進め、労働者を戦争に引きずり込み、沖縄を戦場にしようとしている。そして肝心の労働組合は腐り果てている。
我慢の限界はもうとうに過ぎて怒りの声は地に満ちている。世界では労働者や学生の大反乱が始まっている。労働組合が力を取り戻す時が、間違いなくもうそこまで来ている。共に闘おう。

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