JR北海道石勝線事故は第2の尼崎事故だ
―事故責任転嫁を許すな! 運転保安確立に向け闘おう
死者がでなかったのは奇跡
5月24日にJR北海道・石勝線のトンネル内で起きた特急列車「スーパーおおぞら14号」の炎上事故は、背筋が凍るような重大事故であった。
車両(6両編成)はトンネル内で一晩燃え続け、原型をとどめないほどに焼け落ちた。トンネル内の温度は1000度に達していたであろうと言われている。その状況を考えると死者がでなかったのは奇跡としか言いようがない。248名の乗員・乗客の多くが生命を奪われていてもおかしくない事態であった。事故が起きた第1ニニウトンネルが685mと比較的短かったのが幸いした。だが、本質的にはまさに第二の尼崎事故であった。
推進軸が脱落し、後部車両の燃料タンクを破損、漏れた軽油に引火したことが直接的な原因だと言われている。だが、「推進軸」とはエンジンから車輪に動力を伝えるものだ。それが脱落するなど本来ならあり得ないことである。それも、今回初めて起きたことではない。JR北海道では、94年5月に「スーパー北斗」の推進軸が脱落する事故が起きており、さらにはJR全社で合計すれば20件にも及ぶ同様の事故が起きている。自動車で言えば、あっちこっちで走行中にシャフトが落ちるような事故がホンボン起きているということであり、まさに異常事態である。
民営化の行き着いた結果
この事故の背景には間違いなく本質的な問題、安全の総崩壊と言うべき構造的問題がある。
JR北海道は、JR各社の中でも、きわだってスピードアップを追い求めてきた企業だ。理由は都市間を結ぶ航空網との競争に勝つことにあった。北海道はJR各社の中で最も経営基盤が厳しく、民営化に際して三島JRに設けられた「経営安定基金」の割合も、九州の3900億円、四国の2000億円に対し、6800億円と群をぬいて多かった。そもそも当初から黒字経営など無理なことを承知で民営化されたのだ。しかも、当初は年間500億円ほどあった基金の運用益も今は半分ほどに下がっている。「その減少分は合理化・効率化を進めて補っています」(JR北海道副社長・柿沼)。つまり、経営を成り立たせる唯一の手段として、ひたすらスピードアップと合理化に突き進んだのである。
限界こえたスピードアップ
1987年のJR北海道発足時点の特急列車は一日78本で、列車設定キロは2万904㎞、最高速度120㎞/hであった。現在の特急列車は一日148本、列車設定キロは3万1894㎞まで増加し、最高速度は130㎞/h以上の列車が134本。特急「はつかり」などは140㎞/h運転をしている。ほとんどの特急列車がNEXと同じかそれ以上の速度で運転しているということだ。
しかも、単に最高速度を上げただけではない。限界を越えた曲線通過速度の向上が追求された。そのために寒冷地用の振子気動車やその振子角度の拡大、自己操舵方式の台車、斜体傾斜装置等が開発され、現在はさらに曲線通過速度を向上させるために「振子+斜体傾斜装置」の車両(複合斜体傾斜システムと呼ばれている)が開発されている。これによって、300Rの曲線で本則+35㎞/hのスピードアップをするというのだ。 今回事故が起きた札幌―釧路間の運転時分は、民営化時点で平均4時間45分であったが、現在は3時間49分。実に1時間近くも短縮している。JR北海道は「これで飛行機に対する競争力が圧倒的になった」と豪語している。
また、94年に推進軸脱落事故を起こした「スーパー北斗」の札幌―函館間の評定速度は実に106㎞/hである。この区間は半分は曲線だと言われており、信じられない運転速度だ。JR北海道は、こうした無理なスピードアップにより札幌―函館間の航空航路を廃止に追い込んでいる。
「車両技術の限界への挑戦」
だがそれは、会社自身が「在来線における車両技術の限界への挑戦」「開発の限界の域に入った」(副社長・柿沼)と語るとおり、まさに技術的限度を越したものであった。技術的限度だけではない。鉄道事業本部長は、運転時分の大幅な短縮は「車両性能と運転操縦技術の向上により維持している」と言っている。車両にも運転士にも限界ギリギリの運転を強いているということだ。
そもそも電車に比べて重く、重心が高い気動車は曲線通過性能が劣る。しかも、「気動車では進行方向におかれている駆動軸から生じる影響のために振子車両はつくれないといわれていた」(今城光英大東文化大学教授/鉄道ピクトリアル・1988年8月号)ものであった。「スーパーおおぞら」や「スーパー北斗」の技術開発はこの無理をおして行なわれたのである。
気動車のエンジンは車体につり下げる形で搭載されている。推進軸はエンジンから車輪に動力を伝える部品だ。だが、振子列車は曲線では《図》のように、台車はレールと平行なままだが、車体は左右に振れながら走る。車体と台車を結ぶ推進軸には当然「ねじれ」が発生する。これが「気動車では振子車両はつくれない」と言われていた理由である。こうした構造上の無理と激しいスピードアップ、それによって発生する強い振動は、推進軸に何乗ものストレスを与えていたはずである。こうしたことを考えると、相次ぐ推進軸の脱落事故の背景には、無謀なスピードアップによる技術的な破たんがあることは明らかだと言わざるを得ない。
極限的な合理化・要員削減
そればかりではない。JR北海道では極限的な合理化・要員削減が進められてきた。JR北海道発足時の社員数は1万2955人であったが、現在は7267人である。社員数はまさに半減されている。合理化のためには、外注化・非正規雇用化をはじめ、線区ごとに独立採算を求める経営方式、深名線のようにローカル線のさらなる廃止、車両も車両メーカーから構体等を購入して自ら組み立てる方式の導入等、あらゆる手段がとられた。だがそれは、例えば、会社自身が線区ごとの独立採算制の導入について、「日高線管理所の場合は、修繕費を節約することでつじつまを合わせたために成功しなかった」と言っているように、現場の労働者や鉄道の安全にとって、無理に無理を強いるものであった。
今回事故を起こした車両について言えば、振子式の自己操舵台車が使われていたが、「可動部分が多くなった分保守が増えた」という。検修要員の配置数はわれわれには分からないが、大幅に削減されていたことは間違いない。
さらに、高速事業化に伴って、その費用を捻出するために、「北海道高速鉄道開発」という第三セクターの会社が作られ、車両はその会社が保有し、JRはそこから使用料を払って車両を借りて列車を運行するというような方式までがとられていた。これは「第二の分割・民営化」というべきものだ。こうして競争原理に突き進む中で、安全に対する責任の所在がどんどんあいまい化されていたことは間違いない。
安全を投げ捨てた非正規化
さらに、6月9日の新聞では「炎があがっているのを客室乗務員が目撃していたのに車掌に伝えていなかったことがJR北海道の調べでわかった」という記事が掲載されている。客室乗務員は車内販売などをしているが、ここにも重大な問題がある。
かつては、客室乗務員は車掌職が乗務していた。その他に物販業者の販売員が乗って車内販売を行なっていたのである。経費削減のために車掌を廃止し、車販は直営化して契約社員(非正規職)の女性労働者を乗務させるようになったのである。言うまでもなく、車掌が乗務していたときには非常時の対応等について日常的な訓練が行なわれていた。それが契約社員に置き換えられてしまってからは、車販などを行なう「サービス要員」とされてしまい、避難誘導の教育・訓練はおろか、非常時のマニュアルさえわたされていなかったという。これが現実なのだ。それは、グリーン車担当の車掌を廃止し「グリーンアテンダント」に変えてしまったJR東日本でも同じだ。否、もっと酷いかもしれない。東日本の場合はJRの契約社員ですらなく、外注会社の委託社員にしてしまっており、JRが業務を指示することすらできず、非常時対応どころの問題ではないのである。
さらに言えば、JR北海道は道内や東京からの「カートレイン」(フェリーのように自動車ごと列車に積みこむ列車)を運行するためにさらなる安全上の規制緩和も求めていたのである(それぞれの自動車がガソリンを積んでいるので規制緩和が必要になる)。この場合、最大の問題となるのがトンネル内での火災事故なのだ。実際、過去に英仏海峡トンネルでカートレインの火災事故が起きている。つまり、利益のためには、一旦起きたら多数の死傷者が出ることになるトンネル火災のことなど眼中にはなかったのである。
事故の根本原因は国鉄分割・民営化にある
結局、今回の事故の根本原因は分割・民営化そのものにある。民営化によって、経営が成り立ちようのない会社をつくり、ただひたすら競争原理に突っ走らせたのである。凄まじいスピードアップと労働強化、外注化や非正規化の中で、安全は徹底的に無視された。北海道で起きている重大事故を見ると、列車や保守用車両との衝突事故や脱線、今回のような部品脱落、レール破断が多い。こうしたところに「安全崩壊」の現実が鮮明に現われている。
マスコミ報道を見ると、JR北海道はいっさいの責任を当該労働者に転嫁しようとしている。絶対に事故責任の転嫁を許してはならない。いっさいの責任は資本にある。裁かれるべきはJR北海道であり、分割・民営化に手を貸した奴らだ。
だが、JR北海道内の労働組合からは事故責任追及、反合理化・運転保安確立に向けた闘いの声は全く聞こえない。問われているのは労働組合だ。当該の労働者を守れ! 運転保安確立に向け闘いに立ち上がろう。