分割・民営化型の大攻撃
JR東日本は、コロナ禍を逆手にとって、労働者の権利や労働条件、職場・仕事のあり方を一変させる大攻撃に踏み出している。“鉄道業務の衰退はもはや避けられない”“鉄道ありきでものを考えるな”と、鉄道の現場業務に何の価値もないように言いなして全部外注化・分社化し、そこで働く労働者を最底辺に落ちてゆく競争(転籍)に駆り立てようというのだ。そして、それを貫徹するために「労組なき企業、社会」を作ろうとする国鉄分割・民営化以来の労組破壊攻撃が職場に吹き荒れている。
加速する攻撃
深澤社長は「時計の針が10年早く回る」と言う。だから攻撃も10年分加速させるというのだ。コロナだけでなくAI化やDX(デジタル化による競争の優位性の確保)がその理由にされている。
“競争せよ! 競争せよ! 競争せよ! 利益、利益、利益!”――いったい鉄道とは何のためにあるのか。その社会的意味や公共性、働く者の権利といった、本来一番大切なはずの問題は、この会社の経営幹部の頭の中からは消え失せてしまっている。“ヒト起点”などと聞こえのいい言葉を並べながら、現場で働く者を駒のように使い捨て、突き落としていく。
だがこんなことをすれば、鉄道の安全は崩壊し、利用者の権利や地方は切り捨てられ、職場で働く人間は間違いなくボロボロになるまで壊されていく。
“鉄道崩壊”への坂道
その危機を報せるアラームはすでに鳴っている。
外注会社・CTSで採用された労働者の相次ぐ退職は歯止めがかからず、検修・構内業務外注化施策は完全に破たんしてしまっている。大々的なワンマン化の結果、お年寄りがドアに挟まれ転んで大怪我をするといった事態が相次いでいる。無人駅化・ワンマン化で列車を利用できなくなった障害者が、交通権の侵害を訴えて各地で裁判に訴えざるを得なくなっている。「最長10年で“スキルアップ”できない者は使い捨てる」方針の下で多くの運転士・車掌が毎日怯えながら仕事をしている現実。職場で精神疾患を患う仲間が後を断たないこと。
医療崩壊、社会崩壊が問題になっているが、JRは全く同じ道を突き進んでいる。
定昇停止のもつ意味
この間起きていることも、一つひとつは小さなことのように見えるかもしれないが、実は歴史を画するような攻撃だ。
例えば今春闘でJR東日本は“ベアゼロ”どころか定期昇給を止めた。三島JRや貨物会社ですら定昇は実施した。定昇停止は戦後の混乱期を除いて国鉄時代以来なかったことだ。定昇停止とはどんズバリ賃下げを意味する。本来なるべき賃金にならないのだ。しかもそれが一生影響する。それをJR東日本だけが突出してやったのだ。
その意図は明らかだ。「長期・終身雇用、年功制賃金を解体せよ」が財界の最大の要求になっている(『新成長戦略』)ことを受け、それを率先して実行して社会全体に広げようとしているのだ。JR東とトヨタ資本がその役割を率先して担っている。本質はここにある。コロナは口実に過ぎない。
それは労働者にとって、さらなる低賃金化と総非正規職化、無権利化を意味する。日本の賃金水準は今でさえ先進25ヵ国の中で最低レベルに落ち込んでいる。なぜそんなことが起きたのか? 労働運動が解体され、闘う力を失ったからだ。決定的な一撃になったのが34年前の国鉄分割・民営化だった。2千万人をこす非正規職労働者が生み出されたのも、その結果だ。
政府とJRは分割・民営化に優るとも劣らない大攻撃を労働者に仕掛けている。だがもう何もかもが限界だ。今度こそその攻撃を労働組合再生のチャンスに変えよう。
〝合理化即自宅待機〟
3月ダイ改でワンマン化強行によって何百人分もの車掌業務が廃止されたが、支社によってはその日から“自宅待機”が命じられている。これも重大な攻撃だ。
“合理化即自宅待機”など国鉄時代も含めてなかったことだ。今は賃金が100%支払われている。だが、会社の都合一つで勤務指定と同じように無期限に「休業」指定できる就業規則改悪が強行されている。賃金は「60%以上」で会社が判断するという。JR東日本ではすでに“雇用”ということがこれほどあやふやなものになってしまっている。コロナによって在宅勤務などが何か当たりまえのようになったことにかこつけて、労働者の権利を根こそぎ引き抜くような攻撃に踏み出したのだ。
しかも、このワンマン化攻撃は終わりではない。24年に向けた全面的なワンマン化、ドライバレス化攻撃の始まりを意味するものだ。それを貫徹するために運転士職・車掌職廃止というこれまでの価値観を粉砕するような攻撃を強行し、駅等に片道キップで配転し、管理者を“運転士”として動員する制度を作ったのだ。そして何より鉄道会社にとって最も象徴的な職種を真っ先に叩くことで、現業すべてを分社化し、労働者を転籍に駆り立てようとしているのだ。
労働者の未来を奪うな!
「同一労働同一賃金」に係わるCTSの就業規則改悪も、労働者全体の未来を左右するほど重大な攻撃だ。
本来なら、同じ仕事をしていれば正規職であろうと、非正規職であろうと賃金に差をつけてはならないというのがその主旨であるはずだ。だがJR―CTSはその意味を全く逆に、非正規職の仲間を一生超低賃金・無権利にしておく手段にしてしまった。
契約社員やパート社員は、就業規則上の「自己啓発、業務改善に努めなければならない」という項目の対象から外すというのがそのやり方だ。“自己啓発も業務改善も求めない”“だから同一労働ではない”“法廷最低賃金レベルなのは均衡のとれた処遇だ”! これがJRのやったことである。
CTSは約8割が非正規職だ。とくに小さな事業所では非正規の仲間たちが仕事を全部仕切って回している。それは、これからももちろん変わらない。就業規則の言葉だけを操って労働者の未来を打ち砕き、正規職の仲間たちも低賃金に同一化していく。これも財界が指導していることだ。JRは率先してその最も悪質なモデルを作って見せたのである。
(②に続く)