進行の指示運転の問題点⑤
「第2場内信号機は見なくてよい!」
本社回答は覆った!
信号を見るな!
「進行の指示運転」は「所定の停止位置まで一括指示する」という取扱いとなり、それがさらに重大な問題を引き起こすことになる。千葉運転区で配布された資料でも「信号による運転方法ではないので、場内信号機が複数あるときでも、その現示に係わらず指示された番線の停止位置まで運転を行なう」と記載されているように、例えば、第一場内の機外で進行の指示を受けた場合は、第二場内、第三場内はどんな現示であろうと、信号を無視して停止位置まで進行せよという運転取扱いになる。まさに「信号を無視しろ」という指導が日常的に行なわれ、実行されることになるのだ。 この点に関してもJR東日本本社は、言うにこと欠いて「無視するというのではなく、第二場内、第三場内信号機は見なくていいということだ」と回答した。無視しろというよりもっと悪い。指令から指示を受けた場合は信号を見なくていいというのだ。鉄道の歴史が始まって以来前代未聞の回答である。 だが、第一場内で進行の指示を受けて列車を進めたとする。例えその ときは、第二場内は進行現示だったとしても、何らかの事態が発生して急に停止信号に変わるとことは充分ありうる話しである。あるいは違線開通ということもありうる。警戒信号が現示されていることもありうることだ。運転士はその信号現示が目に入ったとしても、見なかったことにして突っ走れというのだ。
「閉そく」の概念もどこへ!
しかもここには、「進行の指示は信号にあたる」「代用手信号と同等の位置づけにある」とJRが自ら主張したこととの関係でも明らかな矛盾がある。進行の指示が代用手信号にあたるのだとすれば、閉そく区間はあくまでも第二場内までのはずだ。無視していいなどという根拠は何ひとつないのだ。 また、停止位置までを一閉そく区間とするのであれば、閉そく区間の 変更の取り扱いをしなければならないし、運転士にして見れば、停止位置(停止目標)を少しでも出てしまえば、「閉そく違反」という重大事故の責任を着せられかねないことになる。 JRは「閉そく違反とはしない。 閉そく区間の変更ではない」としているが、やっていることと言っていることが自己矛盾をきたしている。 要するにJRは、「閉そく」や「防護区間」という最も基本的な概念をつき崩してしまったのである。実際現場で配られている文書には「進行の指示運転は信号機の防護区間にとらわれず、……運転する方法です」などと書かれている。列車の安全確保に関する運転取扱いの基本中の基本が解体されてしまったのだ。
注意力による運転
こうした発想は「閉そく指示運転」にも表れている。閉そく指示運転の場合、取扱い自体はこれまでと変更はないが、新国土交通省令では、これまでのように「閉そくによる運転方法の特殊な取扱い」ではなく、新たに「運転士の注意力による運転方法」として位置づけられている。 JRはこれを「(運転士の注意力による運転が)閉そくによる運転と同等の、一運転方法として確立されたものである」と解説している。これはとんでもないことだ。運転士の注意力による運転なるものが、閉そく方式と同等の運転方法だというのである。こんな発想が拡大解釈されたら恐るべきことになりかねない。
本社回答は覆った
冒頭でも触れたように、この問題で職場は大混乱し、職場ごとに見解がくい違い、支社も回答ができなくなり、団交は中断してしまった。 未だ運転士には統一した指示がなされていない。こんな状態であること自身が運転保安上極めて深刻なことだが、さすがに現場は「信号を無視しろ」「信号を見るな」とは指導できないのである。 結局千葉支社は、12月25日に再開された団交で本社の回答をくつがえしてしまった。支社としては信号を見なくていいとか、信号を無視していいとは言えないというのである。仮に第二場内信号機が停止現示だった場合は、信号現示に従って機外で停止し、指令に連絡し指示を受けてほしいというのだ。
自己矛盾に陥る!
これ自体はある意味で当然の判断だといえるが、「進行の指示運転」という自ら決めたことの基本の部分を自分で否定してしまったに等しいことだ。JRは、これがどれほど重大な問題をはらんでいるかを自認してしまったのである。 しかも、実施から三ヵ月経ってようやく回答がでてくるという状態は、会社内部でまともな議論ひとつしていなかったということだ。しかし千葉支社でも未だ現場の運転士には何ひとつ徹底されていないし、他支社ではこのような議論すら行なわれず、別なことが指導されているのが実態だ。JRの安全に対する構えは一体どうなってしまったのか。
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