職場は大混乱 進行の指示運転の問題点②
運輸省令の抜本的改悪!
会社内部で大混乱
「場内信号機に対する進行の指示運転」は、会社内部に大混乱をもたらしている。 事前に行なわれた教育訓練のなかでも、指導員によって言うことが違い、区によって言うことが違い、当初言われていたことが後日訂正されるなど、教育を受けた日によって言うことが違い、運転士が疑問をぶつけても、現場の指導員や管理者では全く答えることができないという状態だ。それどころか基本的な部分で、本社と支社も言うことが違い、現場ではさらに食い違うという状態が、実施から一ヵ月半以上たつ今も続いている。 例えば11月12日に行なわれた千葉支社との交渉でも、場内信号機が複数ある場合の取扱いで、本社の見解と千葉支社の見解が全く食違って回答ができなくなり、団交は中断してしまっている。(「進行の指示運転」では、第一場内信号機の機外で進行の指示をされた場合、第二、第三場内は無視して停止位置まで運転するという取扱いとなっているが、仮に第一・第三場内が停止現示だったり、異線開通していた場合はどうするのか、という質問に対して、本社は「第二場内・第三場内信号機は見なくてよい」 言い放ったのに対して、千葉支社は「停止して指令の指示を受けてくれ」と個答した) また武蔵野線では、教育が終わったばかりにも係わらず、間違った「進行の指示運転」の指示が行なわれている。駅、指令も含めて全てが大混乱している。
現場では通用せず
結局、「進行の指示運転」が、運転保安や運転法規に関するこれまでの考え方を根本的に覆すものであり、会社自身がこれまで指導してきたことと一八〇度違う内容を指導せざるを得ないものであるために、会社内部で大混乱をきたしているのだ。 本社抹「絶対信号機という概念などない」とか、「第二場内・第三場内信号機は見なくてよい」、「進行の指示は信号にあたる」などと平然と言うことができても、現場に近くなればなるほど、こんな乱暴な主張は通用しようのないことだ。 運転取扱を変更するには、あらゆるケースを想定して議論を煮つめたうえで実施しなければならないのは当然のことだが、そのようなことすら全く行なわれていなかったことが明らかになっている。「進行の指示運転」なる取扱い自体が矛盾だらけで、一体何が正しい取扱いなのか、誰ひとり正確なところは説明できないという現状なのである。
省令の抜本的改悪
「進行の指示運転」の具体的な問題点の検討に入る前に、ここで前提的なことを確認しておきたい。 今回の運転取扱実施基準の変更は、運輸省令の改正に基づくものである。 「改正」と言えば聞こえはいいが、実際はまさに抜本改悪だ。この間声高に叫ばれるようになった「例外なき規制緩和」のかけ声はい社会の隅々にまで及び、運輸省令も「規制撤廃」を理由として今年4月に全面的な改訂が行なわれた。その際の基本的な考え方は次のようなものであった。 ① 素材・仕様・規格を詳細に指 定する基準から必要最低限の 性能基準へ移行する。② 社会的規制については、行 政の政策目的に沿った必要最 小限のものとする。 ⑨ 事前規制型の行政から事後 チェック型の行政に転換する 市場原理に委ねられるべきものは市場原理に委ね、国の関与を縮小するとともに、行政手法についても事前規制を合理化し事後チェックを充実する。 鉄道事業者の自主性、主体的判断を尊重できるものとする。 (運輸技術審議会答申) 要するに、全てを市場原理に委ね、規制は必要最小限にし、こと細かな決めごとはしない。概ねかくかくしかじかの性能をそなえていればよい、後は鉄道会社の自由な判断・裁量にまかせるということだ。しかも、事前規制はやめて事後チェック型に転換する、つまり事故が起きたら後で考えればよいというのである。 こうした考えのもとに、運輸省令の条文はごく簡素なものにされ、以前の省令に定められていたあらかたの内容は、「解釈基準」という名称で、それ自体改悪されたうえで、強制力を一切もたない付属資料のような扱いにされてしまったのである。
恐るべき発想!
ここには恐るべき発想の逆転がある。そもそも安全は、市場原理に委ねたりしたら間違いなく崩壊するからこそ、これまで運輸省令で、企業に詳細な規制をかけてきたのではなかったのか。 市場原理とは、利潤を生み、競争に勝つためにどれだけコストを抑えるのかという原理だ。一方 安全の確保」という課題は膨大な人的投資・物的投資を必要とするものであり、それ自体は利潤を生みださない。市場原理と安全は相反する水と油の関係にある。それを市場原理一辺倒の発想に転換しようというのだ。
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