(6153号からつづく)
やはりボルスタレス台車が原因か
「なぜ福知山線脱線事故は起ったのか」で川島令三氏は、
「(輪重ヌケによって)カーブで起こりがちな乗り上がり脱線ではなかった。……枕バネの変位度が高いのがボルスタレス台車である。そのために遠心力によってカーブの外側の枕バネが縮まり、内側が膨らんだ結果、車体を外側に傾かせて転倒脱線するに至ったのである」
と結論づけているが、これまで見てきたボルスタレス台車の特性や、尼崎で起きた恐るべき現実からすれば、この指摘は正鵠を射ていると考えられる。
事故現場の緩和曲線が、60mと規程ギリギリの延長しかなかったことも、空気バネ(枕バネ)に大きな変位を起こさせる要因となったであろう。だが問題 は、尼崎事故のような大惨事に至らずとも、多かれ少なかれ全ての列車がこのような条件のなかで走っているということだ。
ボルスタレス台車とレール
このように、不安定な空気バネの上に車体が乗っていることによって蛇行動を起こし、曲線でも遠心力によって車体が大きく振れ、運転士 が日常的に体感しているようにポイントなどでも強い横圧を受けて列車が走っている状態のなかで、レールと車輪・フランジとの間にも激しい横圧が生じている ことは間違いない。
湘南新宿ライナーが開通してから、フランジの異常磨耗が多発するという声が、小山車両センターや国府津車両センターから上がっているが、こうした現実も そのことを証明している。ちなみに湘南新宿ラインは、福知山線と同じで、小田急等の私鉄と熾烈に乗客の奪い合いをしている線である。
また、千葉でもそうだが、車両検修区で毎日朝から晩まで車輪を転削し続けなければならないなどということも、国鉄時代には無かったことだ。
レール破断が頻発する昨年来の非常事態、そして国鉄時代には考えられなかったようなレール側面の激しい磨耗や、踏面のシェリング、ゲージコーナーシェリ ングが無数に発生しているという現実。これは、検査(巡回)周期の大幅な延伸や丸投げ的外注化等による保守体制の過度な合理化、スピードアップやそれに伴 う急加速、急減速の影響ということが原因として考えられるが、それだけでなく、ボルスタレス台車自身の欠陥に起因するものだと見る必要があるのではないの か。
なぜこれほどレールが破壊されるのか
実際、車両の軽量化は、軌道や車輪に与える影響力を小さくするはずであり、とくにバネ下重量(レールに最も近い軸バネから下の重量 で、車軸・軸箱等の重量)を軽くすることが軌道破壊に与える影響力を小さくすると言われている(実際、ボルスタレス台車はバネ下重量も相当軽く設計されて いる)。
にも係わらず、なぜこれほどまでにレールが破壊されるのかは、ボルスタレス台車との関係ぬきには理解のしようのないものだ。蛇行動や空気バネの振幅による強い横圧の発生が、これまでの経験値や想定の域をこえてレールを痛めつけているのではないか。
しかもレールに傷などがあると、そこに著大な輪重が発生する。一度痛むと加速度的に悪化する可能性があるということだ。実際、われわれが指摘してレール 交換をさせた幕張車両センター脇の快速線にしろ、市川駅上り方の快速線にしろ、みるみるうちにレール状態が悪化している。
レール破断の原因について、鉄道総研は、
日本の高速鉄道におけるレール損傷の中で、特に問題となっているのはシェリング傷である。その発生や成長過程につ いては、これまで多くの調査・研究がなされ、かなりの知見が得られている。シェリングは、車輪から被る転がり接触疲労により発生し、水平裂が雨水の影響の 助けを得て成長し、その極く一部においてき裂の分岐が起こり、横裂になってレール破断に至ることが知られている。また水平裂の大きさと横裂の大きさに相関 は無く、き裂成長メカニズムも異なる。しかし、傷の成長速度については、ほとんどわかっていない。 |
としている(図4)が、台車の特性によって車輪がレールにどのような衝撃力を与えるのかという問題や、レールが損傷したときにそれが加速度的に進行する可能性をもつこと等も無視することはできないであろう。
車輪踏面、スラックの問題
また、ボルスタレス台車や蛇行動と関係して、「車輪踏面」(レールとの接触面)の問題がある。車輪はフランジから外側に向けてテー パー(勾配)がつけられている。かつての車輪は、「円錐踏面」と言って直線的にテーパーがつけられていたが、蛇行動を抑えるために205系以降は「円弧踏 面」「修正円弧踏面」と呼ばれる踏面形状が採用されている。車輪踏面が、レール踏面の丸みに添って緩い曲線に形成されているということだ。こうした踏面形 状は、蛇行動を抑えるためには有効でも、曲線通過時には強い横圧を発生させると言われている。また車輪踏面形状は、車両が安全に走行するために大変重要な 要素となるが、「高速走行安定性と曲線通過性能や脱線防止と分岐器通過のように両立させるは難しい条件がある」という。レールの異常磨耗やシェリングの多 発は、ボルスタレス台車の採用に伴い、蛇行動を抑えるために車輪踏面を変えたことも影響しているのではないか。
さらにもうひとつ、ボルスタレス台車ー円弧踏面の採用と関係して、「スラック」が横圧やレールにどのような影響を与えているのかという問題がある。
スラックとは、曲線の軌間をわずかに広げて、過大な横圧がかかることなくスムーズに曲がれるようにすることを言う。曲線では、遠心力によって、車輪が外 側に押しつけられるようになるが、車輪の踏面は斜めになっているので、軌間に若干の余裕を設けることによって、外側の車輪は半径が大きくなり、内側は小さ くなることで、その内輪差でスムーズに曲がれるようにするのである。
運輸省令上、スラックは次のように規定されている。「円曲線には、曲線半径、車両の固定軸距等を考慮し、軌道への過大な横圧を防止することができるス ラックを付けなければならない。ただし、曲線半径が大きい場合、車両の固定軸距が短い場合その他軌道への過大な横圧が生じるおそれのない場合は、この限り ではない」。つまりスラックとは、曲線における横圧防止対策、脱線防止対策として設けられるのである。
だが、JRになってから、そのスラックを無くしてしまったというのだ。われわれには何も明らかにされていないため、詳細は判らないが、団交で質した際 も、千葉支社は「今はそのようなものは設けていない」と回答している。なぜ無くしてしまったのか。想定の域を出ないが、やはりこれまで述べてきたような、 ボルスタレス台車の不安定な構造上の特性や円弧踏面が採用されたことがからんでいると思われる。ボルスタレス台車や円弧踏面の特性がスラックによって過大 な横圧がかかることを防止するという仕組みに適さなかったからではないのか。そして適合させるために「横圧の防止」という問題が切り捨てられ、無視された のではないか。
以上のようにボルスタレス台車は、それ自身の欠陥のみならず、レール側との関係でも深刻な影響を生み出していると考えられる。しかし、これまで述べてきたような問題が相乗的に重なったときに、どのような危険な事態を招くのかは何ひとつ検討された形跡がない。
そればかりか、こうした問題を団体交渉で議論しても、安全を真剣に追求しようという姿勢など全くなく、レールの側面がフランジとの接触によって11㎜も 削り込まれているというのに、「それはレールとフランジが馴染んでいるということでとくに問題はない」などという回答が返ってくるだけなのだ。