トランプ再登場は何を意味するか?

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「ナチスもどき」の政権としての再登場

1月20日、アメリカでトランプ政権が誕生した。その陣容は「信奉者」で固められた「ナチス政権もどき」と言われる度外れたものだ。その一方で、「国家反逆罪で訴追する」「殺害する」と予告してきた反トランプ派の者は、元参謀本部議長を含め、次々に追放・解雇されている。
そしてそれは、政府機関だけでなく、労働組合への弾圧や反イスラエル団体の閉鎖等へと拡大されようとしている。アメリカからは、伝統的に労働組合の結成や運動が抑圧されてきた南部では、労組活動家が命の危険にさらされているという訴えが届いている。1月20日、アメリカの労働者たちは全国各地で一斉に反トランプの闘いに起ちあがっている。
その一方で、トランプの再登場は「労働者たちを見捨てた民主党が労働者階級から見捨てられた」(バーニー・サンダース)結果でもある。アメリカ的「民主主義」、既成の秩序の枠組みは崩れ落ち、非和解的な階級的激突が始まろうとしている。

移民排撃、国会襲撃事件への「恩赦」

トランプは就任初日から独裁者としてふるまっている。サインした大統領令の中には、「史上最大の強制送還作戦」と称する移民の摘発、南部国境地域への非常事態宣布と軍の派遣、連邦議会襲撃事件で訴追・収監された1500人への恩赦が含まれ、禁固22年の刑を受けている極右団体幹部らが次々に釈放されている。この事件では5人が死亡しており、「恩赦」自体がファッショ的クーデターに他ならない。
こうした剥出しの暴力を背景として、没落が進む中間層や小ブルジョア層の不満や絶望感、現状打破への欲求等を糾合し、それを移民や中国への敵意や排外主義、「偉大なアメリカをとり戻す」という愛国心に組織していくのがトランプ政権だ。それをイーロン・マスクやジェフ・ベソスなどのIT大富豪・「テクノファシストギャング」たちが巨額の資金を提供して支えている。上位1%の企業が、労働者へのすさまじい犠牲の上に、アメリカの全資産の97%占有している。昨年8月の株価暴落では「マグニフィセント7」(ハイテク7社)の株価が一気に360兆円ふき飛んでおり、迫り来る巨大バブル崩壊に怯えトランプと結びついて「外への侵略戦争、内への階級戦争」に訴えているのだ。

トランプを押し上げたもの

トランプを大統領に押し上げたのは、もはや唯一の世界の基軸国としての「偉大な」力も威信も喪失し、国内の階級支配もこれまで通りに維持することができなくなったアメリカ帝国主義の歴史的な没落だ。最先端のテック企業や軍需産業、コロナで莫大な利益をあげた医薬品企業を筆頭に株価だけが天井知らずに上がり続ける一方で、アメリカの製造業は壊滅的状態で、戦時下の歴史的インフレの中で、平均的な労働者の実質賃金は50年前より下がっており、何万という子供たちが栄養失調や飢餓に苦しんでいるのだ。医療や社会保障制度も崩壊状態で、コロナ危機下では世界最悪の120万の死者を出し、平均寿命は世界48位で先進国中最低レベルに落ち込んでいる。さらには犯罪や薬物中毒が蔓延し、刑務所入監者数は200万人に達し、それは全世界の刑務所人口の25%にも相当する。そしてここでも「刑務所民営化」によって巨額の利益をあげている連中がいるのだ。ひとことで言えば社会が壊れてしまっている。アメリカの歴史的没落、帝国主義の矛盾の爆発的噴出、出口なき危機。こうした現実こそがトランプを再登場させ、対中国侵略戦争への突進を生み出しているのである。

中国侵略戦争への突進、関税戦争

トランプは、中国から入国を禁止されている人物を国務大臣(外務大臣)にすえ、「全兵力を中国に集中せよ」と主張する人物を国防長官にすえるなど、外交・防衛に係わる人事を対中国最強行派で固め、自らの最大の政策として、国家の存亡をかけて対中国全面対決を軸とした「関税戦争」踏み出すと宣言している。トランプは、なりふりかまわず対抗的に軍事的緊張を高める中国・周近平政権を餌食にする形で中国侵略戦争をますます激化させようとしているのだ。
中国、グリーンランド、メキシコ、カナダ、パナマ運河等についてトランプがやっていることは、かつて領土・植民地の拡張に突き進み、世界の分割・再分割をめぐって2度の世界戦争を引き起こした論理と全く同じものだ。
トランプは、日欧に対しても関税の恫喝をかけ、防衛費GDP3%や米駐留費のさらなる負担等を要求するとしている。世界中が戦々恐々としているが、それは結局インフレをさらに亢進させ、世界中を大激動の中にたたきこむものだ。

激動の25年を労働運動復権の年に

石破政権には、グラグラになりながら、財源の確保すらできないままさらなる大軍拡に突き進む以外の道は残されていない。しかし、貧困・格差、生活の困窮は限度をこえており、医療・介護・社会保障、公共交通、地域社会等、労働者が生きてゆく前提としての社会がものすごい速度で破壊され崩れだしている。怒りの声は充満している。われわれは、トランプ政権の再登場とともに歴史の岐路に立ったのだ。労働運動の再生・復権を目指し激動の25年を闘いぬこう。

1月18日、ワシントンで女性の権利、人種、その他の憲法上の権利を主張する数千人がトランプ氏の大統領就任に抗議するデモを行った。
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