4月19日、共謀罪の法案(組織犯罪処罰法改正案)審議が衆議院で開始された。これは、戦前の治安維持法と同質の、戦争国家化に向けた重大な攻撃だ。
すべて警察権力の意のまま
安倍政権はこの法案を「テロ等準備罪」と呼び「重大な犯罪を行うことを目的とする組織的犯罪集団に限定」「一般の人は対象にならない」などと説明している。しかし、すべて真っ赤なウソだ。
まず、すべてを判断するのは警察権力だ。当事者がどんなに否定しようと、警察権力が「犯罪目的の団体だ」と判断しさえすれば良いのだ。「当初は正当な団体だったが、今は組織的犯罪集団だ」ということさえ可能だ。
実際、法務大臣が、「もともと正当な活動を行っていた団体も、犯罪目的の団体に一変した場合には組織的犯罪集団」「活動が一変したかを判断する主体は捜査機関」「もとの団体の性質は関係ない」と明言している。
計画の具体性・現実性や、準備行為の要件も、何の縛りにもならない。すでに日時や場所などを特定しなくても、「共謀した事実」さえ証明されればいいという判例がある。そして、「準備行為」とは、具体的にはお金を下ろす、物品を購入する、新幹線で移動する、といった日常的な行為だ。
さらに、「共謀罪」が成立すれば、次は「どうやって捜査するか」が必ず問題になる。「共謀」の段階で事態を掴むには、日常的な盗聴や通信傍受が不可欠だ。当然、それを容認しろという話になる。
警察権力は、自由に盗聴・監視を行い、それを使って「組織的犯罪集団だ」「共謀だ」「準備行為だ」と好き勝手に言いがかりをつけられる。誰を「犯罪者」に仕立て上げるかも、誰を逮捕・拘束するかも完全に警察権力の意のままだ。
また、「話し合いがあった」「準備行為があった」という内部からの密告があれば、実行前でも共謀罪に問える。「他のやつを売れば見逃してやる」と言う形で裏切りを強制し、団結を破壊するために利用されることも間違いない。
労働運動の弾圧が真の目的
安倍政権は、この法案の目的を、「テロ対策のため」「この法律がなければオリンピックを開けない」といってみたり、「国際組織犯罪防止条約批准のために必要」と説明したりしている。
しかし、その説明は、挙げれば切りがないほどに矛盾だらけだ。
法案の真の目的は明らかに労働組合や市民運動団体への弾圧だ。
共謀罪は労働組合にとって死活問題だ。今でもちょっとした争議や座り込みで、弾圧が加えられている。共謀罪ができれば、組合が闘争方針を決定した時点で刑事罰の対象にされるということだ。
動労千葉の場合で考えれば、国鉄分割・民営化反対の第一波ストでは、方針を決定した大会で誰が賛成の発言をしたかということが、解雇か停職かの分かれ道になった。ジェット燃料輸送阻止闘争でも、当時の瀬戸山法務大臣が、「順法闘争に刑事罰を適用しろ」と発言したり、マスコミが「労働組合の範疇を著しく逸脱している」と報道したりした。
もし共謀罪があれば、大会で方針を決定した時点で刑事罰の対象になっていたということだ。
たとえ裁判で無罪になる場合でも、警察権力による弾圧は好き勝手にできる。まさに、労働組合の存在そのものを否定する攻撃だ。
また、市民運動などで「安保法制は違憲だという訴訟を起こそう」と相談すれば、「偽証罪の共謀罪」に問われかねないという。
労働組合を根絶し、政権の意に従わない者を弾圧し黙らせることこそ、共謀罪の真の目的なのだ。
改憲・戦争と一体の攻撃
そして、この攻撃は改憲・戦争と完全に一体だ。共謀罪は、「思想・信条の自由」などの憲法の規定に明らかに違反する。だからこそ、改憲によって合憲化することが絶対に必要になるのだ。
同時に、共謀罪によって改憲反対派を徹底的に弾圧し、黙らせることで改憲を強行する。あらゆる個人・団体を戦争に反対できなくさせ、戦争協力を強制する。そうして国家総動員を実現し、戦争国家にしようとしているのだ。
この攻撃が、朝鮮半島をめぐる戦争情勢と一体でかけられていることには重大な意味がある。
戦前の治安維持法は当初、「労働運動、市民運動、研究者は関係ない」と言われていた。しかし、そのすべてが治安維持法によって弾圧の対象にされた。労働組合は産業報国会となり、侵略戦争に加担する役割を果たした。
われわれは、この歴史を絶対に繰り返してはならない。共謀罪成立は絶対に許してはならない。戦争への道は絶対に止めなければならない。これは、労働組合の重大な任務だ。労働者の団結した力こそ、戦争を止める力だ。全力で闘いにたちあがろう。