歴史の転換点としての24春闘ー 闘いの総括(下)

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歴史の転換点としての24春闘ー 闘いの総括(上)

(2) “賃上げ連呼”が意味するもの(続き)

中小企業の大規模淘汰と地方切り捨て

結局、岸田政権は、万策尽きた危機の中で、日本資本主義の生き残りをかけた外科手術として、大規模な中小企業・地方企業の整理・淘汰と地方の全面的な切り捨て攻撃にうって出たのだ。だからこそ、中小企業対策をいっさい放置したまま「賃上げ」を叫びたてることができたのである。これが賃上げ連呼の背後にあるものだ。
しかもそれはこれから始まることではない。すでに開始されている攻撃だ。23年には5万社以上の中小企業が閉鎖・廃業に追い込まれている。とくに労働力不足が最も深刻な介護事業では、地方の在宅介護事業所が次々に閉鎖されているが、それは、厚労省が在宅介護の点数を大手事業者の利益率を基準に引き下げることによって、明らかに人為的に廃業に追い込んだ攻撃だ。そして今は何と介護に「生産性向上加算」などという制度が導入されている。タクシーのライドシェア導入も同じ脈絡の中での攻撃だ。
JRの廃線化を焦点にした地域丸ごと切り捨て攻撃も、単に鉄道だけの問題ではない。それを通して、学校、病院、バス路線、公共サービス、物流機能、商店街など地域を丸ごと撤退させようとしている。地方の公共交通の問題を扱っている政府の諮問委員会・「リデザイン実現会議」の報告には、「(公共サービスを無くすことによって)人口の穏やかな移動を促す」とまで書かれている。そうした攻撃の中心を担っているのが、JR東日本の富田(前会長)や元総務大臣・現日本郵便社長の増田だ。「すべての町は救えない」というスローガンを掲げ、人口問題を扱う「人口戦略会議」の報告では「744自治体が消滅の危機」と煽りたてているのだ。
起きていることは現代版「企業整備令」だ。企業整備令とは、1942年5月に、戦争遂行のために中小企業を整理・淘汰することを目的に出された国家総動員法に基づく勅令で、例えば織物商卸売同業組合は10分の1、出版業は4分の1に強制的に整理され、あるいは軍需産業に転換させられていった。
異次元緩和によって積み上がった1286兆円という世界最大の国の借金は、第二次大戦の敗戦時を遥かに上回るものだ。だからかつては15年戦争の最後の段階で起きたことが、戦時体制への準備段階で起きているのだ。

安保3文書改訂が転機

国家・社会のあり方が大転換しようとしている。そのきっかけとなったのは、安保3文書改訂(22年)であった。それは安全保障分野だけの問題ではなく、国家の性格を根本的に変えてしまうような意味をもつものであった。
安保3文書改訂にあたっては、「全省庁の予算が、防衛省・自衛隊などのニーズを踏まえ、総合的な防衛体制の強化のために効果的に活用される仕組みとすることが重要だ」(国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議)ということが確認されている。
これは大変なことを意味する。43兆円どころか「国力」のすべて、全省庁の予算を国防のために「効果的に活用」集中するために、防衛省・自衛隊が特権的な位置に立って全省庁をコントロールするというのだ。
しかもそれは、わずか1年ほどの間に驚くべき速度で社会経済のあり方を変えていった。防衛産業保護、武器の共同開発や輸出、経済安全保障等々が次々に法制化・決定され、三菱重工、石川島播磨など軍需産業の利益がたちまち何倍にもはね上がっていったのである。そして今年2月には、「安全保障と経済成長の好循環」(防衛力の抜本的強化に関する有識者会議)なる方針が打ち出されるに至っている。今や彼らのスローガンは「分配と成長の好循環」から「安全保障と経済成長の好循環」に変わったのだ。
「60年安保改訂以来の安保防衛問題の歴史的転換(アップグレード)」と言われる、4月10日の日米首脳会談・共同声明が、さらにこうした事態を加速させようとしている。

デジタル田園都市国家構想

さらに、こうした国家改造攻撃を推進する中心に座っているのが、「デジタル田園都市国家構想実現会議」なる組織だ。内閣官房に設置された岸田を議長とした諮問委員会で、「新たな国家ビジョンをつくる」ことを目的として、安保・外交政策以外の全分野を扱っている。鉄道の廃線化攻撃もこの国家構想実現会議の下で検討されていることはこの間述べてきたとおりだ。全体としてめざされているのは、国家のスクラップ&ビルドで、この下で地方自治体や生産性の低い企業・産業の大規模な淘汰が強行されようとしている。全省庁に及ぶ膨大な数の諮問委員会がつくられ、それによって国家改造攻撃が進められているが、その全体を束ねる位置にあるのがデジタル田園都市国家構想実現会議だ。
しかも、地方自治体を整理・淘汰するだけではなく、地方自治法改悪が示したように、国家機能のすべてが「有事」を基準として再編されようとしている。国は有事において、地方自治体の自治業務全般について網羅的に指揮権を行使できるというのだ。

(3) 戦後労働法制の解体
労組なき社会化攻撃

「新しい集団的労使関係」?

こうした事態と連動して、「労使自治を軸とした労働法制」「新しい集団的労使関係」と称して、労基法、労組法を軸とした戦後的労働法制、労働基本権を最後的に解体する攻撃が開始されている。それは、長年にわたって様々な場でくすぶり続けてきたことが、今年1月に経団連が「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を発表し、同月に厚労省に法改正に向けた研究会が設置されたことで、一気に表面化することになった問題だ。
経団連提言にはその目的が、①「労働基準法制による画一的規制の弊害を最低限にしていく」、②「生産性の改善・向上に資する労働法制に見直す必要がある」と書かれている。「労働条件や権利の維持・向上」「団結権の擁護」といった観点は消え失せて、完全ら資本のための労働法制にしようというのである。
具体的には、過半数組合がない企業の場合、①「労使協創協議制」という制度を創出して、社員代表にある種の団体交渉権のようなものを与える、②社員代表は「会社代表者との間で個々の労働者を規律する契約を締結する権限」をもつ、③その「契約」では、「就業規則の合理性推定や労働時間制度のデロゲーション(適用除外)を認めることも検討」する、④これまで社員代表は事業所単位の選出だったが、企業単位での手続きを可能とする、ということを法制化しようというのだ。すでに連合との間で協議が始まっている。

社友会路線の社会全体への拡大

これは、JRの労働組合なき社会化攻撃=社友会路線を法制化し、すべての労働者に適用しようとする攻撃だ。実際、この問題が検討されていた経団連労働法規委員会の委員長をJR東日本前会長の富田が務めるなどしてJRが主導し、自らそのモデルを作って見せ、そして社会全体に拡張しようとしているのである。
社友会に「個々の労働者を規律する契約を結ぶ権限」を与えるという。「デロゲーション」とは「適用除外」という意味で、これが実行に移されれば、社友会は労基法の適用除外、つまり労基法以下の「契約」を結び、それを合理的と推定する権限までもつことになる。しかも、事業所単位ではなく企業単位の手続きにするというのだ。そうやって選ばれた社員代表は、社友会がそうであるように、完全に会社の意のままに動くものとなっていくのは明らかだ。
そもそも団結権・団体交渉権・団体行動(争議)権は、労働組合だけがもつ権利だった。労働組合だからこそ、争議=「生産を阻害する行為」が正当なものとされ、資本と闘う力をもったのだ。それを根本から解体しようというのがこの攻撃の狙いだ。「労使自治」「新たな集団的労使関係」などと称して、その意味を真逆なものにしてしまおうとしている。社員代表は労働組合ではないから、不当労働行為=支配介入という概念も消失してしまう。資本のやりたい放題が横行し、労働者の権利は地に堕ちることになる。まさに現代版の産業報国会化攻撃だ。

労働組合が力を取り戻すとき

24春闘の背後で進行していたのは、このような事態であった。しかし、吹き荒れた新自由主義攻撃のことごとくが破たんし崩壊したところから、その矛盾を半ば暴力的に「解決」するような形でこれらの攻撃がでてきたことを見れば明らかなように、こんな攻撃は絶対に破産する。
今春闘を見ても明らかなように、その結果は賃下げの強制となっただけでなく、すでに限界をこえていた社会的格差(貧困の強制)を、さらに徹底して拡大するものでしかなかった。「賃上げ」と言っても、大企業トップから最低賃金ギリギリで働く非正規職の労働者まで、すべての場面で格差を広げていくものでしかなかったのが現実だ。大企業(とくに軍需産業!)は空前の利益に沸いている。物価高と円安の犠牲はすべて労働者にのしかかり、政治家は濡れ手に粟のように「政治資金」を集め脱税し放題で、これだけ社会問題になっても、ザルのような法律で誤魔化すことしかしない。こんな連中が「お国のためだ」と言って戦争を煽り、大軍拡を進め、労働者を戦争に引きずり込み、沖縄を戦場にしようとしている。そして肝心の労働組合は腐り果てている。
我慢の限界はもうとうに過ぎて怒りの声は地に満ちている。世界では労働者や学生の大反乱が始まっている。労働組合が力を取り戻す時が、間違いなくもうそこまで来ている。共に闘おう。

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