日本経団連「御手洗ビジョン」許すな
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企業部門の立ち直りはめざましい。ヒト、モノ、カネの三つの過剰にあえいでいた1990年代とは様変わりし、引き締まった筋肉質の企業体質が形成されている。嵐の日々は過ぎ、そこここに木漏れ日が射している。 |
清貧は尊敬すべき信念の一つであり、倫理性を欠いた際限のない蓄財は、貪欲や拝金主義として斥けなければならない。経団連の主張は企業エゴに偏っているとの見方があるが、全く謬見(間違った見方)である。 |
労働者を襲った現実
財界がこのように言う過程で労働者に起きたのは次のような現実であった。
◆正規労働者は439万人減少し、非正規労働者が662万人増加。24歳以下の青年労働者では実に48%が非正規職だ。◆全法人企業の賃金(年収)は375万円から325万円に減り、資本金1千万以下の企業では236万円から219万円に減った。派遣労働者は8割が年収3百万円以下。パート・アルバイトの9割が2百万円以下だ。◆今や5世帯に1世帯が年収2百万円以下で生活し、3世帯に1世帯が3百万円以下で生活している。◆生活保護世帯は百万世帯を超した(142万人)。さらにワーキングプアと呼ばれる働いても生活保護水準に達しない世帯が552万世帯に登ると言われている。◆OECD(経済協力開発機構)の報告書では、日本は先進国中世界第2位の貧困大国になり、◆4人に1人の子供たちが給食や学費の援助を受けている。◆年間の自殺者が3万4千人。10年前と比べ1万人も増えた。 |
民営化、規制緩和を軸とした弱肉強食政策が労働者にもたらしたのはこうした現実だ。その一方で一部上場企業は空前の利益をあげ続けた。労働者から徹底的に搾りとることによって財界は肥え太ったのだ。何が清貧だ。何が木漏れ日が射しているだ。「貪欲」「拝金主義」とはお前たちのことだ!
経済格差は当然!合理的!?
さらに、奥田ビジョンは次のように言う。
われわれの前で道は大きく二手に分かれている。一方には(格差社会等の)弊害が最も小さくなる道を主張するひとびと(弊害重視派)がいる。他方には、ベストのシナリオにチャレンジするひとびと(成長重視派)がいる。 |
日本にとって、弊害をなるべく小さくとどめようとする政策選択は不可能である。 |
希望の国では、……結果の平等は求められない。公正な競争の結果としての経済的な受益の違いは経済活動の源泉として是認される。 |
「07年経労委報告」ではもっと露骨だ。
公正な競争の結果として経済的な格差が生じることは当然のことである。所得格差は個々人の能力や仕事・役割・貢献度の差異等の合理的事由による場合が多い。 |
これは労働者への宣戦布告だ
格差など当然、合理的なものだ、個人の能力の問題だと言い放ち、もっと徹底的に蹴落とすというのだ。これが御手洗の言う「希望の国」だ。それは、労働者の生きる権利を打ち砕いて、独占資本だけが肥え太る、資本にとっての「希望の国」に他ならない。
これは労働者に対する宣戦布告だ。何が「公正な競争」か。この間、政府と財界がグルになってやったことは、派遣労働の全面的解禁だとか、有期雇用の拡大だとか、労働者を非正規職に突き落とす労働法制の改悪であった。公正な競争どころか、絶対這い上がれないようにルールそのものを変えてしまったのだ。何百万人という労働者に首切り・リストラの嵐を強制し、非正規職に突き落としたのだ。
しかも御手洗は、「偽装請負」で社会的な問題になったキャノンの会長だが「法律の方がおかしい」と完全に開き直って、偽装請負がやりたい放題にできるように派遣法を変えろと政府に迫っているのだ。
「レーガン改革」が一条の光?
さらに御手洗は次のように言っている。
私にとってもっとも印象深かったのは1981年のレーガン大統領の登場である。レーガン大統領が掲げた「強いアメリカの復興」は、暗闇に射し込む一条の光だった。 |
当時、レーガンがやったのは、航空・通信・金融分野などにおける徹底した規制緩和、民営化、大規模な企業減税、徹底的な労働組合破壊攻撃であった。そして、それを貫徹するために、就任早々、見せしめ的に血祭りにあげたのが航空管制官労組(PATCO)だった。
航空管制官労組は、選挙で共和党・レーガンを支持した最も保守的な労組だったが、労働強化と激しいストレスによって、鬱病などを発症する者が激増するなかで、止むに止まれず、労働時間の短縮などを求めてストライキにたちあがった。レーガンはこれに対して軍や退役軍人をスト破りに動員して徹底的な弾圧を加え、1万3千人全員を解雇したのだ。しかも「国民のくず」というキャンペーンをはってブラックリストを回し、どこにも再就職できないようにしたのである。多くの労働組合がこの弾圧に震え上がった。「レーガン改革」はその恐怖を背景に推し進められたのである。
その結果、独占資本は空前の利益をあげた。だがその一方で、わずか数年にうちに、「1930年代の貧困時代の光景が甦った」と言われる事態が生み出されたのだ。
御手洗はこれに習って同じことをやろうとしている。それが御手洗ビジョンの本質だ。
万策尽きた日本経済の危機
背景にあるのは、後のない危機だ。
日本の財政は、先進国中最悪の状態になっている。…… 政府は、財政的に持続可能性を欠く状態となっている。……市場からの信任に問題が生ずれば、国債金利の上昇、国債費の増加、財政状況の悪化という悪循環を引き起こしかねない。 |
07年経労委報告でも次のようにも言っている。
▼米経済の景気減速の懸念など今後を不安視する声も高まっており、米国への輸出依存度が高い日本企業にとっては懸念材料。▼日本企業のEU域内における存在感は薄い。▼東アジア諸国は、引き続き着実な発展を遂げているが、日本は中国を中心とした経済統合の動きにおされている。▼BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)に対する日本の対応は、中国を除いて後手に回っている。▼(少子化・労働力不足で)日本は最終的にデフォルト(破産)する。 |
このように全てがデッドロックに突き当たっていることを自認し、激しい危機感をもって、労働者への全面攻撃を宣言するのである。
愛国心で痛みに耐えろ!
御手洗ビジョンで提起されている具体的内容について批判する余裕はないが、▼規制は最小限とする方向で労働市場改革を進める、▼労働関係諸制度の総点検・全面的な見直し、▼公務員制度改革をはじめとして抜本的な行政改革・徹底した歳出削減、▼公務員制度の根幹に関わる改革にまで踏み込む、▼市場化テスト等による官製事業の民間開放、▼大増税と、他方での「国家間競争に劣後しない税制」と称する企業減税、▼社会保障制度の解体、▼2015年をめどとした道州制の導入…… 等、全ての労働者を熱湯に放りこもうとするものだ。
とくに公的部門の民営化について口を極めてわめいている。「パブリックビジネス市場の確立」などと称して、社会の全てを資本のカネ設けの餌食にするということだ。これに基づいて、週刊誌ではすでに、4百万人の公務員の内、2百万人がワーキングプアに転落するという特集が組まれている。また、「道州制導入」は民主主義を根底から解体するものだ。
さらには、教育改革に関連して「美徳や公徳心の涵養」を求め、次のように言う。
美徳や公徳心は、愛国心という肥沃な大地から萌え出る。…… 愛国心は改革を徹底していく前提でもある。これからわれわれが進む道は決して平坦ではない。石くれやいばらも多く、痛みも覚悟しなければならない。国民に国を愛する心がなければ、「希望の国」に至る道筋を歩み続けることはできない。 |
要するに、これから労働者を徹底的に痛めつけるからこそ、絶対反乱など起こさないように愛国心を植えつけろというのだ。
改憲?財界の政治的突出
最後に、冒頭でも触れたように、御手洗ビジョンの最大の特徴は、財界がこれまでのレベルを遥かにこえて、政治的に突出しているということだ。「政治は全て財界の利害によってコントロールする」という構えだ。
政治寄付や候補者支援にはじまり、安全保障政策の再定義・日米同盟強化・防衛力の整備、「東アジア共同体」の形成、官邸機能の強化をはじめとする統治機能の抜本改革、そして何よりも改憲を政府に要求している。
▼憲法の歴史的価値をたな卸しする。 ▼2010年代初頭までに憲法改正の実現をめざす。 ▼憲法上、自衛隊の保持を明確化する。 ▼集団的自衛権を行使できることを明らかにする。 ▼憲法改正要件の緩和を行なう。 |
御手洗ビジョンの結論は、自治労、日教組など労働運動を壊滅させるということだ。労働者をナメきっている。安倍?御手洗に労働者の怒りの声を叩きつけよう。07春闘に立ち上がろう。