「9・11」情勢下の労働運動
2005年秋講演 中野洋
(国鉄千葉動力車労働組合前委員長))
戦後支配体制の崩壊
9月11日の総選挙で、日本の憲政史上初めて与党が3分の2の議席をとるという重大な事態に直面し、これから日本の世の中はどうなっていくのか、労働者はどうしていくべきか、を中心にお話ししたいと思います。
8月8日の解散、9月11日の総選挙結果をどうとらえるのか、現象面だけではなく、小泉=奥田体制といっていますが、小泉純一郎が首相になっての4年間、奥田というトヨタの会長が日本経団連の会長となり3年間、この課程で何が起こってきたのか。その本質をきちんと見抜かなくてはなりません。
8・8から9・11で起きたことは、一言でいうと戦後の支配体制が崩壊したということです。かつて中曽根総理大臣の時代、国鉄分割・民営化のときです が、彼は「戦後政治の総決算」という言葉を吐いたんです。国鉄を分割・民営化して国鉄の労働組合を解体すれば、総評を解散に追い込める、ということがその 狙いです。
当時の総評は、連合の前の労働組合のナショナルセンターですが、今の連合よりは闘ったナショナルセンターです。その総評を解散に追い込めれば、社会党もつぶせるということを、「戦後政治の総決算」と言ったのです。
今回は戦後の支配体制そのものが崩壊した、ということです。05年から07年にかけて、戦後最大の激動、世の中が一変するような状況に入ったという認識が必要です。05~07年は戦後最大の階級決戦となりました。
私は以前より05~07年は大きな変動、階級決戦のときと考えていました。それは、今年は戦後60年、労働基本法、地方自治法、教育基本法など、戦後を 律していた法律が全部60年目を迎えます。だから否応なしに大きな変動、決戦情勢になるのではないか、その背景はすでに経済成長が止まって大変深刻な経済 危機、そして国家財政も破綻的危機に直面しています。それは働くものにとって大変なことであるという認識からでした。
そのときはまさか8月解散、9月総選挙とは予想もしていませんでした。この3年間は選挙といえば、東京都議会議員選くらいで総選挙などない予定だったの です。与党である自民党、公明党は過半数を制しており、解散する必要がありません。だからこの3年間は「何でもあり」の小泉政治だと思っていましたが、 もっと激しいことが起きました。
クーデター的な議会制民主主義の解体
8月8日の衆院解散は、郵政民営化法案が参院で否決されたから、それも野党が反対して否決されたのではなく、与党である自民党の中から造反が出て否決されたからです。こんなことは今までありません。それも参院では予想をこえる大差です。
議会制民主主義を基本とする日本の戦後のあり方からいうと、自民党の造反で否決されたのだから、責任をとるのは自民党総裁である小泉純一郎です。しか し、彼は責任をとりませんでした。そして、議会を無視して、あたかも国民投票のようなやり方に打って出たのです。
だから私は、「クーデター的議会民主主義の解体」と言っているのですが、小泉首相は議会制民主主義を崩壊させた、自ら投げ捨てたのです。だから、これからの自民党は、議会制民主主義の党ではなくなります。
議会制民主主義の党とはどういうことかというと、今は資本主義社会ですね。 資本家階級が労働者階級を支配する階級社会です。だけど資本家が支配する階級であることがばれると困るので、実際は、大企業や資本家が儲かるようにできて いるのですが、「自民党も国民政党だ」と言ってごまかしているのです。民主主義にはいろんなものがあります。ブッシュも「自由と民主主義」と言って戦争を やっています。
民主主義の根本が議会制民主主義ですね。今の国会議員は資本家の代表ではなくて、国民の代表である。みなさんが選挙で選んだ代表によって政治が行われて いく。これが議会制民主主義ですね。これはブルジョア民主主義と言って、資本家が勝手につくった民主主義ですが、その中心は議会制民主主義です。つまり国 会や地方の市議会議員選挙で代表が選ばれ、政治を行うという制度です。
その議会制民主主義から言えば、国会を解散するのじゃなくて、小泉首相は自民党総裁として責任をとってやめなくちゃいけません。自分の党内で言うことを 聞かない奴がいるのだから。労働組合だってそういうときは委員長が辞任します。それを開き直って、衆院を解散した。衆院では可決されたのにですよ。これは 明らかに議会制民主主義を否定し、破壊したのです。
与党が改憲発議可能な3分の2以上の議席に
これは戦後の日本のあり方を根本的に崩したと見なければなりません。小泉首相は、「郵政民営化是か非か」「官から民へ」「官は悪で民は善」と言って、み んなをちょろまかしたわけでしょ。「民」というと国民とか民衆という言葉を連想しますが、違いますね。株式会社にするということです。「株式会社にする」 とは全然言いません。
郵政民営化は難しい問題がたくさんあります。350兆円もの世界最大の金融機関ですから。そんなことは一言も言わないで、「郵政労働者が国家公務員である必要はない。民間のサラリーマンでいいじゃないか」と言うわけです。
しかし、よくよく見ると、与党の票は49・2%、反対した党の票は50・2%、だから「郵政民営化是か非か」とやって、賛成は50%とんとんなのです。 民意は五分五分なのです。だけど議席は自公が3分の2をとってしまった。3分の2をとってしまったということは、どんな法律でも通ってしまうということで す。参院で否決されても、もう一回衆院に戻して3分の2をとれば、法案は通ってしまいます。
もう一つは、憲法を変えることを発議できます。
かつて総評は選挙を一生懸命やっていました。私は当時若かったので、「労働運動をまじめにやらないで選挙ばかりやっているのはナンセンスだ」と言ってい ました。当時太田薫議長、岩井章事務局長ですが、「議席の三分の一を確保できなければ憲法は守れない」というのが、当時の綱領的スローガンでした。だか ら、すべての労働組合が組合活動をやめても選挙をやりました。
それを当時は批判しましたが、労働組合の代表が国会で三分の一議席をとって憲法を守るというのは説得力があったと、今になれば思いますね。われわれは労 働者が報われる社会にしよう、労働者は社会の主人公だ、労働者の社会をつくろう、つまり革命をやろうということでしょう。そのときに国会で三分の一くらい の議席を持ってなくてはダメですよね、当時の社会党がそうだったかどうかは別として。その3分の1の壁がボーンと割られたということです。これは戦慄すべ きことです。
郵政民営化は全逓つぶしが狙い
それから民主党から共産党まで、郵政民営化が郵政労働者の首切りである、全逓という日本の戦後労働運動に歴史を刻んだ労働組合をたたきつぶす攻撃である ということを誰も言いません。「郵政公社の方がいいんだ」とか「アメリカから押しつけられた」とか言うけれど、ことの本質ではないのですよ。奥田ビジョン とか、「骨太の方針2005」とかを見ると、郵政を民営化しないとその先はいかないのです。
たとえば、 税制を変えて大増税をするとか、地方公務員を民営化するとか、いろいろなことが山積している中で、郵政民営化ができないと進まないわけです。それを真正面 から問題にする政党がありません。それが「小泉劇場」「刺客」などのムードを作り上げた最大の原因です。いずれにしても、これで戦後のあり方が根本的に変 わった、戦後の価値観がひっくり返ったということを見なくてはなりません。
その結果どういうことが起きるのか、反対派をたたくということが起きてくるでしょう。自民党で粛正が始まっています。たとえば亀井静香、自民党の領袖で しょう。亀井は運輸大臣のときに何回か会ったことがありますが、したたかな政治家です。自民党が下野したとき、社会党と結託して村山自社政権をつくった中 心人物が亀井静香です。節操がないと言えば節操がないのですね。今までの政敵でしょ自民党と社会党とは、その社会党の委員長を「内閣総理大臣にするから一 緒に手を組もう」と、社会党はそれに乗って自分たちの方針を180度転換して、結果として見るも無惨になくなってしまった。自民党は政権に残ってその延長 に小泉内閣がある。
そんなしたたかな連中が自民党にはごろごろいました。自民党は資本家の利害を代表する政党であることは間違いありませんが、もう一面で社会民主主義的側面を持っていました。だから戦後ずっと政権を維持してきたのです。
国鉄1047人闘争をめぐって当時運輸大臣だった亀井静香に会ったのですが、当時スチュワーデスのパート化の問題があり、彼が一人で反対していました。 「社会党や共産党はだらしない。一番だらしないのは労働組合だ。スチュワーデスがパートにされることに何で反対しないんだ。飛行機というのは多くの人の命 を預かっている。だから反対なんだ。」と言っていました。
そういう連中が「刺客」に落とされて、「小泉チルドレン」なんて憲法を読んだことがあるのかというのが国会で多数を占めました。小泉の命令一過何でもやるという連中です。まさに脆弱、ガラス細工のようなものです。
民主党を見てごらんなさい。前原代表、鳩山幹事長、両方とも自民党よりも強烈な改憲派です。だから、今構造改革を自民党と競い合っています。公務員の首 切りを自民党と競っているというわけです。「官公労はダメだ」「クビを切れ」と言われながら、連合傘下の自治労や全逓は民主党を支持しています。おかしな 話です。
これを見ても戦後の世の中は終わりだと思います。私は社会党は徹底的に労働者に依存すべきだったと思います。労働者は6000万人いるのです。中途半端だったからよくなかったのです。民主党内の旧社会党系も排除されています。
敵は労働者の団結を恐れている
最大の反対狩りは、労働組合を叩きつぶすということです。今の労働組合をみると、「叩きつぶしてもしょうがないじゃないか」と現場の組合員は思っているでしょう。だけど違うのです。ここを叩きつぶさないと、日本の権力者は枕を高くして寝てられないのです。
NTT労組なんかはとっくに改憲勢力になっているのではと思うとそうでもなくて、今年初めて沖縄大会で改憲方針を出しました。全逓も今年の奈良大会で改 憲方針を初めて出したのです。日教組は出せませんでした。去年、今年の3月全国で教育労働者のみなさんが「日の丸・君が代」の強制に反対して不起立闘争を やり、ものすごい反響でした。この状況の中で、日教組は護憲の旗を降ろすことができなかったのです。自治労も平和基本法を出して改憲派になろうとしました が、沖縄をはじめ宮城などが修正動議を出し、激烈な反対討議があって、わけのわからないうちに終わって、改憲派に全部は転換できないという状況でしょう。
その結果が10月の連合大会で、本来なら改憲派を明示するところでしたが、提案しませんでした。だって日教組が委員長代行で、連合最大の100万自治労がすっきりと改憲派になってないからです。これはいいことです。
われわれ労働者は、自分の所属している労働組合を「ダサイ存在」と思っているかも知れませんが、敵はそう思っていません。労働組合である以上、いつ団結 して牙をむいておそってくるかも知れないと思っているのです。なぜならこの世の中は、資本主義ですが、社会を動かしているのは労働者だからです。動労千葉 がストライキをやれば電車が止まります。止まると言うことは、われわれがいなかったら鉄道は動かないということでしょ。
そこを日本の労働者は忘れています。自分たちがいるからこの世の中が成り立っていると思っていません。「労働者は社会の主人公」とか言われても、「何 言ってるんだ、使われているんだ。企業あってこそ生きていけるんだ」と思っています。それは逆なんだね。労働者こそ世の中を動かしている、だからこそこの 労働者をおそれているのが政府であり、資本家です。
だから労働者を団結させないためにありとあらゆることをやってきていますこの60年間。労働組合の幹部を籠絡するためにどれほどの金を使ったのか。私の知っている組合の役員難で家まで建ててもらったからね。
それでも足りないから労働組合を分裂させる、労働組合を丸ごと労資協調にしていく、あるいは労働組合を結成させない。憲法28条で労働3件を認められて いながら、労働組合の役員であることを堂々と言えない状況があります。親が労働組合の役員をやっているというだけで、子どもの就職だって難しくなってしま う。世の中がそういう風に見る、それも思想攻撃です。それほど敵は労働者の団結を恐怖している、それを一番分かっていないのが労働者なのです。
これは労働組合の幹部の責任が大きい、それを考えると小泉は全逓労働者のクビを切ると、真正面から言った。国鉄分割・民営化のときもこれほど露骨には言 われなかった。それに対して全逓は一言も反論できなかったでしょう。名称をJPUに変えて、これも屈服した証拠です。「おとなしくしますから何とかクビに はしないで下さい。」それではダメですよ。
国鉄分割・民営化のときもそうです。国労の幹部は「分割民営化はできるはずはない」とみんな思っていたのです。絶対やってくると思ったのは、私とJR総 連の松崎です。向こうは転向して手先になった。私は「徹底抗戦しかない」と闘って、40人がクビを切られました。だけど、私はみなさんの前で偉そうなこと が言える。松崎は何をやっているか、脱税だ、贈収賄だと言われて逃げ回っています。そういう風にはなりたくないですね。そんな風になるなら最初からやるな と思いますよ。
敵は労働組合の恐ろしさをよく知っているということ、それを私は今日仙台の仲間たちに言いたい、だから小泉は3分の2をとったけれど、これを打倒できる 力は労働組合の団結しかないということなのです。誰がどう見てもそうです。だから、11・6に本当に集まってほしい、日本の労働組合が全体でそうなってな い、みんな右に寄ってやられちゃっているから、たたかう気概のある人たち、小泉のやり方に怒りを持っている人たちが力をあわせてほしい。
今東京では街頭での反応がすごいです、2ヶ月前から11・6のチケットが売れて、討論になります。動労千葉が尼ヶ崎事故に対して、安全運転闘争をやりま した。選挙の最中です。ビラまきをやって訴えたら、反響がものすごかった。動労千葉のメールには、「OOの線路が壊れているから何とかしてくれ」とか送ら れてきたり、 JRの支社、本社とか国土交通省にはばんばん抗議の電話が入った、中には警察に「JRが人殺しをしようとしている、警察が取り締まれ」と真 剣に電話した人までいました。私も何十年と労働運動をしていますが、こんなことは初めてです。抗議電話なんて全然ありません。終いには向こうが謝ってきま した。
日教組、自治労、全逓、国鉄が最大の焦点
いよいよ本格的な労働組合つぶしが始まる。その争点は日教組、自治労、全逓、国鉄です。やられているところが反撃しなかったらダメです。この労働組合は 全部「官」です。「官」というのは国家の末端機構です。戦前は町役場の人たちは赤紙を配り、戦争反対の人たちを摘発していたのです。だから「お役人」と 言ったのです。郵便局だってそうです。地域のことを郵便配達の人は全部知っているのだから。学校の先生が「天皇陛下のために死ね」と教えたから、みんな特 攻隊に行ったのでしょう。こういうところに戦後労働組合ができて、「地方自治守れ」「反戦平和」とかやっているでしょう。こんなことがある間は戦争なんて できるはずがありません。
そして終身雇用制で、一定の賃金も退職金もある。だけど、私らの頃は民の方がよかったんです。同窓会のときに「国鉄で働いている」なんて言えなかったも のね、恥ずかしくて。私が「国鉄労働者だ」と言えるようになったのは、組合運動を始めてからです。それまでは言えなかったよね。
だから、1965年に当時の池田勇人首相と総評の太田薫議長がトップ会談で決めたのは、官公労の賃金は「民間準拠」です。それ以来ずっと「民間準拠」で す。民間の方がいいから、「民間準拠」だったわけです。だから民間がストライキをやるときに、支援ストライキをやりました。私鉄がストライキをやるときは 必ず国鉄もストライキをやる、なぜならそれで自分たちの賃金も決まってしまうからです。「民間準拠」というのは、官がいかに悪いかということなのです。国 鉄のいいところは全国どこでもただで乗れることだけでした。JRになったらそれも無くなってしまいました。郵政労働者の既得権なんてなにがありますか。こ き使われているだけでしょ。
労働者を分断する階級支配
にもかかわらず、「官」が悪くて「民」がいいなんていう宣伝にみんながのせられているというのは、労働者への分断政策の一環です。小泉の4年間で、非正 規労働者が非常に増えています。1995年に日経連が「終身雇用制を解体する」と出しました。終身雇用制と、年功序列型賃金と企業内組合を「三種の神器」 と言って、日本が驚異的な経済成長を遂げて経済大国になった原因だと世界のエコノミストが言っています。「日本の労働者はどうしてこんなに働くのか」と世 界から視察にきたくらいです。
それを解体して、非正規雇用者が37%、今はもっと増えているでしょう。しかも24歳以下の若い労働者の非正規雇用者の率は50%近い、二人に一人は非 正規雇用者です。そういう人たちは常に不安定な、いつクビを着られるか分からない状況においこまれています。今回小泉を支持した若い人は圧倒的に多いで しょう。あたかも郵便局の労働者たちがいいと思っているのですよ。これが労働者への分断政策にのったということです。本来は同じ労働者なのです。郵便局の 労働者だって深夜勤(ふかやきん)なんてひどいよ、過労死が出てる、自殺者まで出ているのですよ。しかもたいした給料じゃないんだ。
階級支配というのはそう、本当に悪い奴に怒りがいかないで、自分よりちょっといい奴を憎む、こういうのが階級支配です。これにまんまとのせられたわけで す。これも労働組合のリーダーが悪い、私も含めて。ちゃんと労働組合が運動をしていないからだと思っています。何よりも労働者の本当の利益を代表する政党 がいなくなってしまったからじゃないですか。
労働者の団結をいかに敵はおそれているのか。その禍根を断つために、敵が今一斉に始めている反対派狩りの最大の焦点は、旧官公労の日教組、自治労、全 逓、国鉄です。これは憲法9条改憲問題と一体です。憲法9条を書き換えたら日本は戦争をする国になってしまう。これに危機感を持っている人たちは、ここの 労働者と一緒にたたかうとしなければダメです。
東京なんかの市民運動では、「労働組合の旗を降ろせ」なんていう市民運動なんかまで出ています。それで「イラク戦争反対」? 労働組合が立ち上がらなくて反対できるはずがないじゃありませんか。そういうことが出てきているのも、労働組合の責任もある。
小泉政権はガラス細工でもろい
小泉政権の性格は非常に凶暴でファシスト性を持っているが、もう一面で脆弱性を持っている。ガラス細工のような弱さを持っています。
偉そうなことを言っていますが、創価学会が支持しなければあれほどの票はとれません。創価学会があれだけのことをやったって50対50、きわめて脆弱な のです。議席は3分の2でもガラス細工のようなもろさを持っている、しかも、先ほどお話ししたように懐の深さが無くなっています。イエスマンばっかり、こ ういう党派は弱いですよ。
それから、政治と財界が非常に緊密化しています。今回の選挙も、マスコミが報道しているように奥田と相談して決めています。そして、トヨタが全社を挙げ て自民党を応援しました。これは初めてですよ。大企業は今までは、金を出すとか、自分たちの企業内労働組合の代表の応援をするとかしかやらなかったので す。企業があまり政治に口出しすると反発を食うから、やらなかったのです。今回はトヨタは、社長、副社長がはちまき締めて自民党の宣伝カーに乗りました。 下請け、孫請け総動員してやったのでしょう。これはちょっと特異な存在です。奥田も大変な危機感を持ったのでしょう。
この結果、憲法9条を変えていくという情勢が切迫しています。すでに憲法特別委員会ができました。国民投票法案は来年の通常国会で提案されるでしょう。教育基本法の改悪も出てくるでしょう。「奥田ビジョン」の貫徹という方向で進むでしょう。
「奥田ビジョン」でむき出しの階級社会に
これからはむき出しの階級社会になるということです。大企業の利益のためにはなりふりかまわない。9月の16日に経団連が「06年度税制提言」というの を出しています。小渕内閣のとき20%の減税をやりました。これをやめて、企業に減税をしろと言っています。企業はどうなっているのですか、トヨタなんて 1兆円の純利益をあげているでしょう。東証上場一部の会社の3分の1が純利益をあげている、こんなことは初めてです。労働者をリストラした結果です。
その上で、「税金をもっと安くしろ」「そうしないと海外に言っちゃうぞ」て、言っています。税金が高いから逃げちゃうなんていう連中こそ非国民じゃない か、「日の丸・君が代」に反対する先生を「非国民」だなんて言って、こっちの方がよっぽど非国民じゃないか。小泉は「おまえらは非国民だ。帰ってくるな」 なんて言えないのですよ。
「税金を安くしろ」だけじゃない、「年金や健康保険料の半分を出すのもいやだ」と言っています。だったら資本家であることをやめればいいのです。私も本当にそれを見てびっくりしました。
むき出しの階級社会になる、その端緒な例がライブドアの日本放送の買収事件、楽天のTBS買収事件、村上ファンドの阪神電鉄買収事件です。今貧富の差が 拡大しています。銀座に行って見なさい、高級ブランドが軒並みに、バンバン店を出して大盛況です。スーパーは安売り競争でどんどんつぶれています。労働者 の賃金がどんどん下がって、年収200万以下の世帯が5分の1になっています。アメリカの後を5年遅れで追いかけています。
今金もうけをしている連中は、人の金を集めて運用して利ざやを稼ぐヘッジファンド、パソコンを駆使して情報を売る楽天とかライブドアとか、何も世の中の 役に立つものをつくっているわけじゃない連中、こいつらだけが金儲けをしている。こいつらだけがいい思いをしているのです。
だからトヨタなんかも、大衆車中心から高級車にシフトを変えたと、つまり大金持ちに売れればいいという戦略です。70年頃は労働者は自家用車なんてほと んど持てなかった、テレビと電気洗濯機と冷蔵庫が「三種の神器」と言われていたのです。今は、みなさん自家用車を持っているでしょう。それが日本の仕組み だったのです。良くも悪くも平等社会、護送船団方式、資本家同士もあまりけんかしない、労働者同士もあまり差をつけないようにする。
ところが、去年の高額納税者の第1位、労働者ですよ、ヘッジファンドの。何十億と税金を納めたということは、毎月何百億と稼いでいるということですよ。 おかしいじゃないですか。どうしてそんなに稼げるのか。一方で年収200万以下の収入しかない人が20%もいる、こういう世の中に日本はなっている、それ を押し隠しているのです。こういう構造をしっかりと見すえてひっくり返していくことが重要になっていると思います。
戦争と革命の時代がきた
いずれにしても4大産別の労働組合つぶしと、「奥田ビジョン」を徹底させ、貧富の差の拡大を進めていくことになるでしょう。財界はむき出しで、「企業を優遇しろ」という要求を突きつけます。そのために労働者はどんどん権利を剥奪されます。
国と地方自治体の借金は1000兆円を越したと言われています。どうやって返すのですか。1000兆円でどんな金額ですか、日本の国家予算の十何年分、1年に1兆円づつ返して、10世紀かかるのです。利息も含めれば20世紀でしょう。
だけど、チャラにする方法があるのです。二つあります。多少のインフレや増税ではダメです。戦争です。歴史は証明しています。もう一つは革命です。労働者が権力をとる、労働者が日本の国を支配することです。
たとえば私が総理大臣になったら、1000兆円はチャラにします。だって、ほとんど銀行や大企業からの借金だから、労働者の分は返します。大銀行や大企 業の持っている国債なんて紙だから、切っちゃえばいい、燃しちゃえばいいのです。革命を起こして権力をとればできます。
戦争か革命以外にない、だから今戦争に向かっています。戦争に向かうためには抵抗勢力を粉砕する以外にない、そういう構造に入っています。それが05~07年の焦点です。
労働基本権を奪う労働契約法
「骨太の方針2005」にふれる時間もあまりありませんが、「小さい政府」をつくると言っています。これは建前で、実際にはできるはずはありません。 言っていることは「資金の流れをよくする」、これは郵政民営化ですね。それから「仕事の流れをよくする」、これは中央から地方へ、「地方自治体勝手にやっ ていきなさい、金はやりませんよ」ということです。それから、「人の組織を変える」、この三つです。
すべての労働者の労働基本権を解体していく攻撃が始まろうとしています。特に、労働契約法の提言が4月7日に出されました。「解雇は仮に無効であったと しても金銭で解決できる」という法律をつくろうというものです。本山労組のように解雇を撤回させて、金まで取るというのは図々しいということです。
今度の鉄建公団訴訟の判決もこのような流れに沿ったものです。不当労働行為は認めたけれど、解雇は有効である、だから500万円出す、というものです。解雇は無効だと裁判所が認めても、金で解決できるというシステムをつくるのが労働契約法です。
次にホワイトカラー・エグゼンプション制の導入、ホワイトカラーには8時間労働制を適用しないということです。恐ろしいことです。「ホワイトカラー」て どこまでいうのでしょう。市役所の労働者はネクタイして背広を着ているから「ホワイトカラー」ですか。要するに、労働基準法を適用しない範囲をどんどん増 やしていく、「ホワイトカラー」という抽象的で幅広い概念で、労基法の適用外にしていく、これが労働契約法です。
もう一つ、「労使の自主的決定権を持たせる」という名の下に、労使委員会をつくると書いている。日本の労働組合の組織率が20%を割ってしまいました。 それで、労働組合のないところが増えましたから、一見正当かのように見えるけれど、これは労働組合の否定論です。労働組合が無くても労使委員会があればい いということです。
労使委員会には団体交渉権はありません。労働組合の場合には団結権、団体交渉権、団体行動権という争議権が与えられていますが、労使委員会にはないので す。労働組合を無くしちゃおう、ということですね。これを労働契約法の名の下に、厚生労働省に提言が出ています。07年国会に提出するという話も出ていま す。
そこまできていますから、労働者には容赦しないということです。自分たちは労働組合はつくらないで逆らわないから堪忍してくれ、といってもダメ、労働組合があっても労資協調で一生懸命働くからと言ってもダメ、そういうところまできています。
アメリカ経済の危機、世界恐慌の危機
それだけ敵が危機だということです。アメリカは、「双子の赤字」と言われているでしょ。プラザ合意ができたのが1985年、今から20年前です。このと き何を決めたのかというと、円高・ドル安です。アメリカが貿易赤字だから、円を高くしたのです。私が学生のときは1ドル=360円でした。1972年に変 動相場制になりました。この当時1ドル=240円です。今は1ドル=110円、一番ひどいときは1ドル=80円までいきました。半分以下になった訳で、輸 出する業者は収入が半分以下になったのです。
それでは、日本の資本家たちはどうして生き残ったのか。労働者を徹底的にリストラしたからですよ。それで生き残ってきた。にもかかわらず、アメリカの貿易赤字、経常赤字はどんどん増えています。それがなんと1兆ドル=110円を超えています。
アメリカは毎年100兆円ずつ借金が増えて、そこにイラクの戦費などが積み重なります。ハリケーンの被害でも膨大な金がかかります。アメリカはどうなっ ちゃうのですか。もう戦争をどんどん広げる以外ありません。だからトランスフォーメーションで、北朝鮮に戦争をやろうとしているわけでしょう。そういう方 向に行かざるを得ないのです。
そういう状況で、アメリカには4000万、5000万の労働者には健康保険がありません。だから病院にも行けません。今までは退職者の分まで企業が払っ ていましたが、それが企業にとって大変な負担になっています。GM(ゼネラル・モータース)では、健康保険料の問題で争議に入っています。
トヨタはGMを買収できる力があります。だけど、それをやったら戦争になってしまう、だからトヨタは自分の車の値段を上げてまでGMを売ろうとしていま す。本来の市場原理、弱肉強食なら買収しちゃえばいいのです。そうしたらアメリカはどうなりますか、クライスラーはすでにダイムラー・ベンツに買収されて います。その上トヨタがGMを買収したら、経済摩擦は大変なことになってしまいます。だから買収しないだけなのです。
それほどアメリカは大変な危機に直面しております。イラク侵略戦争もうまくいってません。泥沼から足を引き抜けないでしょう。ますます危機が深刻化する中で、日本の情勢もあるということなのです。
いよいよ労働組合、労働者の出番がきた
日本の中で労働組合はまったく負け戦ばっかりで、たいしたことがないのかというと、そんなに捨てたものではありません。「日の丸・君が代」への不起立闘争は非常に頑張りました。本山の勝利は大きいです。動労千葉も結構やりました。
そういう中で、連合が改憲連合にならなかったのは大きいと思っています。もう一年息がつなげるな、がんばらなくてはいけないと思っています。
そういう中で労働者はどうしなければならないか。今の状況の中で労働者がくよくよしたことを考えないで、誇りを高く持つ、自分たちが社会を動かしている のだ、社会の主人公なのだ、いつまでも資本家に食わしてもらっているなんて脳がないじゃないかと思ってほしい。そして、世界中で労働者の闘いが起こってい るということに確信を持ってもらいたい。そうすれば結構いけるのではないかと思います。
理論なくして闘いなし、闘いなくして理論なし
あと、私が40数年間、労働組合をやってきた経験から言うと、核心は、労働者は勉強しなければダメということです。動労千葉の組合員も勉強が大嫌いで す。『俺たちは鉄路に生きる』という本がありますが、私はうちの組合員に読ませたい、自分たちが闘ってきた歴史ですから。
ところが組合員が読まないのですよ。「30年も40年も、耳にタコができるほど聞かされてきたから読まなくてもいい」というのです。耳学問ではダメ、 ちゃんと自分が読んで勉強する、実践する、その中で新しい論理をつくっていかなくてはなりません。敵も労働者を分断するために一生懸命勉強しているわけで すから、それに労働者が勝つためには、やっぱり勉強しなければいけないと思います。
私の今の肩書きは、動労千葉の労働者学習センターの校長先生、代表です。毎月やっていますし、周辺からも多くの労働者が学習にきていますが、これをきちんとやっていくということが本当に大事です。
労働者を絶対に信頼する
それから、労働者を絶対に信頼してほしい。労働組合は、労働者が集まっているから労働組合というのです。その労働者を信頼しなくては成り立ちません。変 な奴もいっぱいいます。変わり者もいるし、気の合わないのもいるし、一緒に酒を飲みたくない奴もいますよ。だけど労働者は労働者でしょう。そこは一番大事 なことで、ちゃんとしなければと私はやってきたつもりです。
労働組合の団結は、一人ではできないが、一人がいないとできない
もう一つだけ、労働者というのは所詮労働組合をやる以外に脳のない連中なのです。他に何かありますか。働いてなんぼの生活をやっているのでしょう。私は ずっとそう思ってやってきました。われわれ今から資本家になれますか。多くの労働者は、労働運動をやる以外に脳がない、そういう風に考えると、労働運動も 面白くなってきます。
ここはぜひまじめに考えてもらいたいと思います。
戦争と民営化と対決する国際的団結を、
動労千葉はこの間、アメリカ西海岸のILWUローカル10(国際港湾倉庫労働組合)というアメリカでもっとも強い労働組合と共闘することになって、今年 で4年目です。韓国民主労総は、世界でもっとも戦闘的な闘いをやっている労働組合です。世界で唯一、非正規雇用労働者を正規雇用にせよとストライキをやっ ている組合です。ここと動労千葉は仲がいいです。
「動労千葉は過激派だからつきあわない方がいい」なんて、日本から行って言う連中もいるようですが、「我々は動労千葉ときちんと共闘したい」と、11月 6日にも民主労総から20数名が参加します。「文化的交流をやろう」といわれて困っています。日本の労働運動にはインターナショナル以外歌がないし、踊り もないしね。韓国はすごいよ、踊り踊ったり、歌ったり、大騒ぎですよ。アメリカも、演説の合間にロックン・ロールにラップですよ。これから学んでつくりま しょう。交流もそこまで親密になってきました。
これは、唯一動労千葉が国鉄の分割・民営化に反対して闘った労働組合であると、評価してくれているからです。闘った労働組合しか評価しません。そういう人たちが大量に参加するのが、今年の11・6集会です。
11・6日比谷を小泉打倒の大集会に
9・11総選挙でがらっと状況が変わりました。ここで労働者が団結する姿を見せないと、ガタガタにされてしまいます。ぜひ11・6を小泉打倒の11・6にしたい、そしてもっと国際連帯を強める11・6にしたい。
やはり、多くの労働者が労働者の団結で、労働組合を闘う労働組合にすることが、小泉打倒の鍵なのだということに確信を持ってもらいたいのです。
小泉のやり方に怒りを持った労働者が全部日比谷公園に集まって、いっぱいにして、これから小泉を打倒するぞとときの声を上げるような労働者の集会にした いと思います。今日参集された仙台の仲間のみなさんも、一人でも多くの参加をお願いします。そして、11月13日の民主労総の集会に動労千葉も派遣します ので、みなさんも一緒にソウルに行きましょう。