勝負はこれからだ!
中野洋 動労千葉委員長 年表
破防法研究№56 1986年11月
今こそ捨て身の反撃を
国鉄分割・民営化をめぐる攻防は、あらゆる点でこの秋最大の正念場、決戦状況に入ったといえます。国労中央民同は、この局面を前に、もはや敵の攻撃をうち破ることはできないという敗北主義にとらわれ、「大胆な妥協」の名において分割.・民営化反対の旗も降そうとしている。しかし我々はそのようには考えない。動労千葉は、去る8月31日と9月1日に、第11回動労千葉定期大会を開いて、あくまでこの国鉄分割・民営化に反対し、第三波ストを辞さず、この秋のたたかいに決起することを決定しました。
国鉄再建監理委員会の答由から一年ちょっとが経過したが、この間、膨大な赤字をかかえた国鉄を改革しなくてはいけないという建て前をふりかざしながら、敵のやってきたことは、赤字なんかそっちのけで国鉄労働運動をつぶし、総評の中心組合であり戦後労働運動を背負って立っていた国労を叩きつぶすことであった。特徴的なことは、それが国鉄当局の手でおこなわれると同時に、直接的な推進勢力としての動労革マルの裏切りと鉄労、全施労が一緒になって国労を追いこむという構図で進展してきたということです。
そういう状況にあって、国労中央は、一貫して無方針・無指導のまま、国鉄職場は当局と動労革マルの一体となった職場攻撃にさらされ、何十人もの国鉄労働者が自殺に追いこまれ、一方国労組織からは1ヶ月に一万人という規模での脱退者が相次ぐような状況が強いられてきた。にもかかわらず、国労中央主流派は、これを打開するための方針をうち出すのではなく、逆に労使共同宣言に調印するという全面的投降の策動を進めていった。これがこの9月19日からの動きであるわけです。国労組合員にとってみれば、これは青天の霹靂ともいえる事態だったわけで、「こんなことが許せるか」ということで職場から決起がはじまり、国労組合員は活性化しはじめた。こうして9月24日の国労会館、国労中開をめぐる現場労働者のたたかい、さらに翌25日の国労千葉地本大会のたたかいで、この労使共同宣言策動はひとまず粉砕されたわけです。
動労千葉は、こういう状況のなかで、10月1日からは「時間外休日労働拒否。非協力安全確認」の順法闘争を展開し、10月12日の国鉄労働者の国会デモ、これを期しての強力順法闘争に突入しようと思っています。そして動労千葉とともに強力順法闘争をたたかおうと、全国の国鉄労働者に共同闘争を呼びかける。それぞれの職場に見合った形で、出来るところから、出来る形態で、それぞれが順法闘争に立ちあがる。その中で、動労千葉は第三波ストライキを準備してゆく。
いま敵が一番恐れているのは、国鉄労働者が捨て身になって反撃を開始するということ、国鉄内部からの反乱です。しかもその条件は全国の国鉄職場に充満している。敵は、国労のこれまでのような分割・民営化反対の動きですらめざわりで仕方がない。国労を全面降伏、全面解体に追い込もうとしている。これにたいし、「大胆な妥協」などしてもそれはいつそう惨めな奴隷への道でしかないことを現場の労働者はみんな知っている。もし、国鉄労働者が自分の生活と権利を守り、職場の仲間の団結を守ろうとするなら、捨て身の反乱をいま開始する以外にないわけです。しかし、たとえ少数でも、国鉄労働者が本当にハラをかためて創意的な闘いに起ちあがるなら、それは必ず中曽根を震撼させ、国鉄分割・民営化攻盤をガタガタにゆさぶり、勝利への道をひらくことができると私は確信しています。
国労の危機と労使共同宣言
国労中央民同はなぜ、労使共同宣言策動に走ったのか。七月以来の国労の動きをみるとそれははっきりする。
国労大会は7月22日から千葉で開かれて、分割・民営化攻撃にたいしてどういう対応をとるのか、内外から注目されていた。しかも大会を前に、国労の前委員長が武藤書簡なるものを出して、「この際大胆に妥協して労使共同宣言に調印しろ」なんて言いだしていたから、余計に、この大会の去就が注目されたんだけれど、結局、山崎委員長をはじめとする主流派は、「雇用と組織を守るためには 大胆な妥協も必要」「その戦術については中央執行委員会に一任」「労使共同宣言も辞さない」という方針を出した。つまり分割・民営化反対の旗を降すということです。
この全国大会では、しかし中央主流派の他に協会系、革固.系代議員がいて、これが全体の過半数を制していたのだから、修正動議を出してこの方針.を粉砕することはまったく可能だったんだけれど、彼らは国労中央民同の、「分裂も辞さない」という恫喝に屈して修正動議もひっこめてしまった。結局、これ以降、国労民同主流派が、この協会、革同の屈服に一定の自信をもって、労使共同宣言御印策動を強めていくんです。
しかし、国労の状態はどうかと言うと、分割・民営化反対の旗をとり下げても、毎月一万人を超える国労脱退者が相次いで、いかに「雇用と組織を守るため」の大胆な妥協路線を確定しても、組織の解体は止むどころか、いっそうの激しさを加えるという状態になってしまった。こういう形になっていくうちに、国労の各地本大会が始まって、北海道が先陣を切って柔軟路線を決めた。具体的には、広域配転を認める、組合でもアンケート調査をするんだということになった。それで北海道で組織は守れたかというと、北海道地本がそのことを決めた2、3日後に、北海道にある国鉄バスの集まりである自動車支部628名の組合員がそっくり国労をぬけて国鉄自動車労働組合をつくってしまうということが起きる。
これは北海道だけでなく、いま全国的に進んでいることだけれど、それぞれの職種ごとに労働組合がつくられて国労を脱退していくわけです。工事局関係では工事組合だとか、あるいは工場関係では車両労働組合だとか。たとえば大阪でも、この大会までは施設協議会の議長をやっていた人が、これを辞任して、大阪に帰って職種別の組合をつくっちゃうとか。要するに、いままでの民同左派の支持基盤だったような、施設、建築、電気、工事、工場といったところが、「国労にいたんじゃ雇用は守れない」ということを建て前にして次々と脱退していく。
いま毎月国労から一万以上の脱退者が出ている。もちろんこの一部は動労や鉄労に流れているけれど、しかし多くはこういう職種別組合として分裂している。彼らは国労中央民同と対立して国労から離れるというより、依然として民同そのものなんです。むしろ国労内の「大胆な妥協」派、屈服派の支持基盤が、どんどん国労を脱退していくということがいま起きている。だから、国労中央はなすすべもない。というより、なかば黙認の形をとる。「お前ら先に行くけど我々もあとから行くから」というように。これはもう、分裂というよりも国労の自己崩壊過程だね。
こういう国労の足許をみすかして、動労革マルのあくどい国労破壊攻撃が激化しているわけです。典型は、国労高崎なんかで起こっていることで、当初5000人ぐらいいた組合員がいまや3000を割って、過半数割れのトップバッターということでやられている。
動労革マルは.全国のモデルケースとして国労解体が進んだ例などと自慢をしている。どうなっているかというと、動労の組合員が革マルの幹部にそそのかされて、今まで運転士とか機関士、検査掛をやっていた連中が、当局の多能化教育の名のもとに転換教育されて、二週.間ぐらいで、どんどん営業だとか施設だとか、電力だとかの現場に送りこまれる。それで、そこにいる国労の労働者が玉つきになって余剰人員になる。そうすると当局は、それを皆人活センターに送りこむ。これを「血の入れかえ」と言っている。しかも、その過程で国労組合員一人一人にたいして、動労革マルが「このままじゃ雇用を守れんぞ。国労を脱退しろ」と恫喝を加えて、一人一人の労働者に、「お前は、いま当局のランキング表のA、B、C、D、Eで言うとDぐらいだ。だけど、いま国労をやめればCぐらいまで行ける」と。もう、明確に当局と結託して、動労革マルは国労つぶしを行っている。だけど、実際は、国労をやめても、動労や真国労にいくのはほとんどいない。
しかし、ここまでやられているのに、国労の分会役員が嘆いているのは、「国労に残って頑張ろうとは言えない」と言うんだ。全国大会でああいう方針を決めちゃったから。動揺している組合員に対し「この分割・民営化攻撃にたいして反撃しよう」「理不尽きわまりない攻撃に反撃しよう」というオルグができないという。国労の役員・活動家が国労に残ってくれ、と言いたくても言えない、これがいちばん辛い、と国労の役員が言っている。これは笑いごとではないですよ。
国労の存亡をかけた激突
こういうふうに状況が推移するなかで、9月19日に国労中央闘争委員会で労使共同宣言の調印を決定しようとしたがうまくいかずに、25日にもう一度開催ということになった。これが急拠24日開催に早められる。これは、政府や国鉄当局が25日からの国鉄国会をにらんで、24日24時をタイムリミットとして国労に屈服をせまっていた結果なんだ。
この過程は、社会党の田辺前書記長とか総評の真柄事務局長が一体となって国労に労使共同宣言調印を強制する過程でもあった。七月の国労大会の前に開かれた総評の全国大会で、国労の秋山企画部長が「総評に一切一任」とやっていたことがあって、社会党は政府自民党との折衝にのりだし、総評は国鉄総裁杉浦との折衝をつづけでいて、「国労の組織と雇用を守る」という大義名分のもとに労使共同宣言を締結して労使問の正常化をはかる路線が敷かれた。総評・社会党右派ブロックは、これを国労に強制し、山崎委員長以下、中央主流派民同がこれに追随して、革同、協会など左派を屈服させてこの路線で動きはじめたわけです。
しかも、当局側はこの労使共同宣言を結ぶにあたって、国労が国労でなくなるような屈服的な条件をつけている。一つは、いま国鉄当局の不当労働行為が600件あって、これを裁判所とか公労委への提訴案件として国労が準備していたわけだけれど、これを全部とり下げろと。二つめは、この間のすさまじい合理化、余剰人員づくりのなかでいま、国鉄の輸送の安全という問題が非常な危機にさらされているんだけれど、それにたいする点検・摘発行動というのを国労が展開していたのを、「国鉄は安全でないなどと表に出して言うのは国鉄にたいする誹謗中傷だから、これをやめろ」と言う。三つめは、反合理化などの運動方針案を修正しろと。要するに合理化、首切りを認めろ、広域配転も人活センターも希望退職も認めろということです。
それだけでなく、四つめには、以上三つの条件を国労中央だけでなく、国労各地本が大会を開いて決議をあげて承認しなければダメだ、といっている。当局は、「全地本がこの決議をあげたことを見極めたうえで労使共同宣言に調印する」と。
こういう当局の、きわめて傲慢不遜、組織介入もはなはだしい要求の本質が労使共同宣言調印策動の本質なわけで、このペテンな要求に屈服しようとする国労中央の本質は何かと言うと、国労が国労であるということに終止符をうつということなわけね。
労使共同宣言とは、そもそも無条件降伏なわけです。「組織と雇用を守る」とか言っているけれど、実際上、労使共同宣言に調印するということは、分割・民営化を認めま、41000人の清算事業団行き、首切りを認め、2万人の希望退職者を認めるということであって、そのうえで誰を41000人の清算事業団行きにするかということをめぐっておこっている話に過ぎない。「雇用と組織を守る」なんてまったくウソっばちなわけ。誰を清算事業団に入れるか。
これは『朝日』なんかでもスッパ抜いているけれど、要するに国労内左派を切りすてて、自分たち国労右派だけ残ろうということなんだ。
当局が四つ目の条件として「中央だけじゃなくて、全国27地本が全部、北は釧路から南は鹿児島まで、すべて大会で決議しろ」とは、そういうことを狙った条件なんです。なぜかと言えば、現実に職場で大変な攻撃がかけられ、それにたいして公労委だとか裁判所にたいしてさまざまな提訴をしてたたかいが始まっているときに、これを全部とり下げろという不法不当な攻撃を、現場の労働者がすべて認めなければいけないということなわけで、そんなことがうまくいくはずがない。さらには安全点検・摘発行動をやめて、危険なことが身の回りにまん延していても、それを見て見ないふりをしろと言うことでしょ。そんなことが国労の各地方本部で受け入れられるはずがない。そうするとどうなるかと言うと、づまり労使共同宣言の調印を拒否し、不当労働行為の提訴のとり下げ拒否、運動方針修正も拒否する地本や支部、分会は切り捨てるということを国労中央は考えているということです。労使共同宣言というのは、ことほどまでに、国労の組織を破壊し分裂させるための策動だということがはっきりした。そして、社会党、総評がこれを踏みきったということ。
こういうことが9月24日までに準備された。そして杉浦は、国労中闘の決定を待って山崎委員長とのトップ交渉に入るということまでセットされていた。国鉄本社で杉浦は待っていたのです。
こういう裏切りに現場の組合員活動家の怒りが爆発した。国労の東京、首都圏を中心とした組合員が大挙国労本部に押しかけ、事実上中闘委は粉砕されてしまった。この日はちょうど国労青年部が中央行動を展開する日であって、しかも総評青年協の「国鉄分割・民営化反対」の集会が日比谷野外音楽堂で開かれていて、そこに参加していた人も、この中闘粉砕のたたかいに合流し、国労中央は結局、臨時大会を開催して、全組合員に「労使共同宣言調印」路線をはからざるをえないところに追いつめられたんだ。
国労中央民同はもともと「労使共同宣言を結んだあと、中央委員会ぐらいにはかればうまくいく」ぐらいに考えていたのにそういかなかった。そういう点では、いま一度問題が全体化して、10月の9、10日の修善寺での臨時全国大会にむかって、さまざまな動きが開始されたということですね。
そしてその最初の動きが、翌25日の国鉄千葉地本大会だった。千葉地本の主流は青友会と言って、労使共同宣言調印策動派だ。しかし主流派は3分の1で、あとは協会、革同が占めていた。本部方針を粉砕することは十分に出来た。しかし彼らは、言うことは言うけれど「きれいに負ける」と称して、本部方針に渋々従うという方針しかとらなかった。それにたいして、この間、国労のなかで、動労千葉とともに国労もたちあがらなくてはいけない、という形で苦闘していたグループ(国労共闘)がこの大会で敢然と立ちあがって、委員長あいさつに抗議し、書記長の山間総括答弁を糾弾し弾劾する行動に決起した。かれらは、一般組合員の「労使共同宣言反対」の署名をもって参加した代議員だ。かれらの必死の形相と、「首切りに従えというのか」「こんなことで裏切られてたまるか」という強烈な迫力は大会全体を圧倒して、結果として「分割・民営化反対の旗を堅持する」「労使共同宣言については反対が圧倒的に多いことを本部に報告する」ということになった。これは労使共同宣言路線をつらぬこうとした国労中央民同に決定的ダメージを与え、臨時大会にむけての緒戦に勝利した大会となったわけです。 やっぱり現場の労働者の苦闘を体現してたたかえば勝利できるということを全国的にはっきりさせた。
起ちあがる国鉄労働者
今度の分割・民営化攻撃というのは、国鉄内に存在しているあらゆる左翼運動、左翼党派をいま存亡の試練に直面させている。これは帝国主義の危機を背景とした、一切のあいまいさをゆるさない攻撃で、この状況に直面したとき、いわゆる革同・共産党からはじまって、協会派など、国鉄内で一定の力をもってきた左翼がいかに無力な存在であるかがまさに暴露されつつある。ハッキリ言って、われわれ動労千葉の二波のストライキ以外は、分割・民営化攻撃という、どう考えても正当性のひとカケラもないような攻撃に対して、どこも立ち向かうことができないということは、そういうことを示している。
しかし、それでは国鉄労働運動はもう終りかというと決してそうではない。いま職場の多くの戦闘的国鉄労働者が、これまでの派閥やら党派やらいきがかりを超えて、流動化、戦闘、化しはじめている。これがが重要な点です。
一方では、それぞれの党派、たとえば革同のなかでも一部生き残 りを模索したりする部分が出てきて、それをめぐって収拾のつかない状態におちいっているところがある。東京なんかでも、革同系の拠点の分会役員なんかは全部、人活センターにもっていかれている。しかし一部もってかれていない部分があるわけ。これは当局に協力を誓った部分だ。あるいは、企業人教育終了者でつくられた、いわゆるマル生組織に、れっきとした共産党員が、分会の役員のまま入っているとか。こういう連.中に対して、すでに人活センターに送りこまれている労働者は当然反発する。こういうこと「人民のカ」「協会」とか、どこでもおこっている。要するに「国鉄内のあらゆる潮流は動労千葉をのぞいて全部生き残り策を講じはじめた」と、どこかの新聞が報道していたけれど、あれ
国労千葉地本の仲間 |
は当たらずと言えども遠からずなんだね。
だけど生き残り策を模索しても、この分割・民営化攻撃というのは、結局、国鉄労働運動解体の攻撃であり、清算事業団行きの41000人の首切りは仮借なくやる。だから、いまさら屈服してみたって、敵はもう全部コンピュータにインプットしているわけで、そんなものは通用しない。結局、そういう傾向のひとカケラも新会社にもちこまない、ということなわけでしょ。だから、そんなことをしていたら、今度は労働者同士がもう屈服の度合を競いあうということにしかならない。動労革マルのように。敵は、やっぱり戦後労働運動の屋台骨であった国鉄労働運動を短期間に解体するために、そこらあたりを徹底してやってきている。
しかし、こういう国労中央の無方針にもかかわらず、第一線の活動家はいままでの派閥や党派なんかの一切の垣根を取っ払って、現場で、一人でたたかいに立ちあがりはじめているんだ。だから、この間、動労干葉が二波のストライキの成果をひっさげて上映運動とか物資販売運動の協力を頼みにいくと、現場、分会レベルでは、どこだって気持ちよく動労千葉をうけ人れてくれる。それは党派如何を問わずに。そこでは、民同も、共産党も、協会も関係ない。それで動労千葉の話を非常に聞きたがり、ともに闘うことを誓うというような状況が、いまでてきている。たしかに国労が自壊過程に入ったというのは、われわれもみているけれど、じゃあ、それですべてなのかと言えば、まったくそうじやない。現場生産点におけるたたかいというのは、それぞれ完全に分断され孤立したたたかいとして展開されているけれど、やっぱりたたかいが、戦闘的かつまじめな労働者によって担われているというのはまぎれもない事実であって、だから、それをどう横につなげていくかということがいま問われている。ここに成功すれば、分割・民営化阻止のたたかいは、まったく可能なんだということだ。
とくに国労下部では、中央の無方針・無指導にたいする怒りが相 当強い。9月1日段階で、国労は13万人ちょっとと発表された。去年から比べると五万人も減っている。しかし見方を変えれば、現場で労働者がまったく裸にされて、国労をやめろ、国労にいれば首だという攻撃をうけながら、しかも国労中央はまったくの無方針という中で、なおかつ10万以上の労働者が国労の旗を守って頑張っているということは、ある意味じゃ奇跡なんじゃないか。僕はそう思う。これが他の組合だったら、とっくに瓦解しているよ。そういう意味.では、やっぱり国労は、自治労とか日教組なんかに比べても、職場の力関係とか職場における労働組合のつくり方、それから職場の組合活動家層の厚さ、日常的な職場闘争の展開等、比較にならないね。たとえば自治労なんか組合費のチェックオフをやられたら、積極的に組合費を納めるというふうにならないという。それだけで組合は大変な状況に追い込まれるている。いわゆる最後に残った総評御三家でもそうだ。国鉄労働者はやっぱり全然違う。動労千葉なんか、組合費は軽く一万円をオーバーしているけれど、それでも毎月、全員が財政担当者のところにもつてきて百パーセント完納です。国労はそこまでいかないが、でもだいたい同じようなことをやっている。そういう国鉄労働者が、いまの国労組織を支えているんだ。皆、名もなき活動家ですよ。それを国労中央は裏切り的なことしかやれないんだから。だから国鉄労働者の、動労革マルと鉄労、真国労にたいする憎しみはすごい。9・1事件(真国労革マルに対する鉄槌)のあとなんかで、国労で話されていることは、やっぱり基本的には拍手喝釆しているというのが現実だね。これは掛け値なしに、事実だから。やっぱり裏切り者に鉄槌が下ったと。みんな今か今かと待っていたと。ようやく起こったという感じで受け取められている。前だったら内ゲバ反対なんていっていた連中も、全然そんなことはいわない。これは国鉄労働者が、動労革マルや真国労の当局と一体となった攻撃に、裸のままさらされて、筆舌に尽くしがたい苦しみのなかでたたかっている、頑張っているというまぎれもない事実ゆえといえる。
だから、やっぱりここが国労の源泉だよ。国労の国労たるゆえんだ。だからこそ敵はいまこれをつぶそうとしている。われわれがいまここで共同闘争の呼びかけを発したのは、このまま放置しておいたら、この個々のたたかいも雲散霧消して終わりになってしまう。このすばらしい頑張りというのを、なんとしても陽の目をみさせなきゃいけないと心の底から思うからです。
敵の分裂が広がっている
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それともう一つ、この一年を通して、はっきりしてきたことは、敵の戦線内部で、むきだしの利害をめぐって分裂が開始されたということです。いままでは、あまり表に出なくて、敵の側は大同団結しているのに、味方の方がバラバラだった。味方のバラバラはまだ続いているけれど、しかしむこうの方もバラバラになってきた。まだできもしない来年4月の分割・民営化以降の労働組合の主導権をめぐって、鉄労と動労のあいだの反目がはじまっている。これは当局も完全にまきこんだ争いになっています。分割され民営化された新しい会社で労働組合の主導権をどこが握るのか。動労や鉄労がこのまま数をふやして、すんなり主導権を握るかといえば、問題はそんな単純じゃない。まず当局は管理者でこれを握ろうとしている。それでこのかん管理者のマル生組織みたいな、あるいは管理者に近い非現業の協議会みたいなものをさかんに模索している。
いまは、国鉄は公労法下にあるから、公労法上、助役とか管理者層は組合員になれない。これが全国で3万人いるといわれている。敗戦直後の公労法制定以前は、こういう連中も組合に入っていた。僕は、公労法なんて、敵さんの労務政策から言ったら絶対間違っていると思うんだけど、とにかくいまの国鉄の労働組合の中には職制層はいないわけです。国労にしろ動労にしろ。鉄労なんか、もともと労使協調組合だから、組合員がすぐに管理職試験をうけてあがっていっちゃう。それで自動的に鉄労をぬけちゃう。だから鉄労はちっとも力が強くならないともいえる。一方、国労や動労は、職制層はいなくて現場の労働者だけなわけで、だから組合がつねに左に行くというのも当たり前になる。
しかし、今度民営化されたら、いままで組合員になれなかった職制層が全部組合員になるわけで、それで当局も、現場の管理者を中心に拓創会だとか新生会だとかいろんな名前の会をつくらしてやってきている。やはり明確に来年4月以降の労働組合の主導権に重大な関心をもちはじめている。だから予行演習的に、全国に何百という相当小さいのも含めた会をつくらせているし、その他にも現場的には企業人教育の終了者でいわゆるマル生組織をつくらせて、生産性向上運動とか増収活動を展開させている。そうすると、これは動労革マルの思惑とも鉄労の思惑とも衝突するわけ。
動労対鉄労の対立も相当激化しています。7月に、動労、鉄労、全施労、真国労の反動四組合プラスαで国鉄改革労組協議会というものをつくったでしょ。この地方協議会がいま組織化されているけれど、これは動労が積極的なわけね。それで、長野をはじめとして、仙台だとか北海道だとか高崎だとかでつくられているんだけれど、動労は東京の改革協議会から鉄労を排除しちゃった。それで他の三組合でつくった。これは明らかに動労のひとつのふみきりなんだけれど、鉄労は、これに怒って、全国委員長、書記長会議のときに、他の地方協議会からも抜けろ、ぶつつぶせと指示したほど、鉄労と動労はいま緊張関係を深めている。
奴らはもともと改革協議会をつくって、分割・民営化後の一企業一組合構想の中で連合体に移行しようとしているわけだけれど、その発足時期も、動労は今年の10月にもというと、鉄労は、来年夏だといっている。結局、鉄労は新潟など一部では組織が強いけれど他では弱いところが多い。組織の地方的なかたよりが大きいわけです。だからこのまま、10月に連合体に移行したら、多くの地方で活動家が圧倒的に多い動労に主導権を握られちゃうという危機感がある。だから鉄労は「動労内革マルを来年3月31日までには、全部排除しろ」と当局に正式に申し入れをやったりしているわけです。
一方、鉄労に負けてはならないと、動労革マルは、「国労を国会開期前までに過半数割れに追いこんで、動労を五万に」をキャッチフレーズに必死になっている。「この世の中にあって、百害あって一利なしの国労を解体すべきだ」と称して、8月24日には、動労の全国三役会議を開き、各地方本部に国労解体のノルマを課した。この方針に従えないものは、役員であろうと解雇者であろうと新事業体に連れていかないと脅かしている。そして10月には、定期中央委員会をやってノルマを達成できなかった地本は責任をとってもらう、この方針に従わない地本は中央本部が直接入って執行権を停止するとまでいって脅しています。だから東京の職場では、毎日毎日動労の組合掲示板に、「今日、国労から何名加入」などということを出している。総評を脱退し、動労組織をあげて、国労解体攻撃一色に塗りつぶされたファシスト運動を具体化し、実践しているわけです。
しかしこういう、きわめて革マル的手口を使って国労脱退を実践させても、大半は動労には行かない。鉄労とかパイパン(組合に入らない者)とか全施労、協議会へ流れる。当局の側でも.ここまで分割・民営化を推進させ、国労を解体に追いこんでいる“功労者”は動労だから、その努力に報いなきゃいけないというのもあるけれど、やっぱり動労は革マルだということで、国労を脱退した奴をどこに入れさせるかということで、当局の職員局と運転局が争い内部亀裂がおきている。「動労はやっぱり革マルじゃないか」とか、「鉄労は何もやらないくせに文句ばっかりつけてくる」とか。
こういう当局内の派閥あらそいもからんで、もう動労革マルなんか公然と「鉄労に主導権握らしたら終りだ」なんていうし、鉄労は鉄労で「大体動労革マルは、やっぱりうさぎの顔をした狼だ、偽装だ。新しい会社に潜入させたら何のための国鉄改革やっているのか意味がなくなる。断固排除すべきだ」なんて公然と、地方の鉄労大会なんかでいっている。もう敵意丸出しなわけですね。表向きは、まあ三塚なんかのお声がかりだから、とニコニコしてて、ウラに回れば、「顔とハラは違う」なんて、動労松崎だっていっている。そもそも同じファシスト同士が相入れるはずがない。
一見強固にみえる敵の中でのこういう亀裂は、来年4月が近づけば近づくほど、ますます拡大してゆきます。9・1事件なんかがさらにそれを促進している。
動労松崎が、ごく最近のスト損害賠償取り下げ問題のレセプションを開いた席上、突如ストライキをやるといいだした。「このまま動労の要求を入れられずして、ちゃんとした経営が成りたたない新会社の場合にはストライキも辞さず」なんてことをいった。それで翌日になったら、動労書記長の福原が、あわててこれを訂正する記者会見をやっている。「あれは誤解。真意はそうじやない」と。これは完全に動労松崎が動揺と混乱と錯乱のなかにあることを示したものだ。“ここまで当局の言うなりに、労使共同宣言以来、鉄労に媚を売り、忠誠を誓い、第二次労使共同宣言まで結び、そうして国労解体、総評脱退までしたのに、なぜオレを信じてくれないんだ”と。結局いくらやったって、松崎を当局も鉄労も信頼してないということをみせつけられたわけですね。だってまだ1年も経っていないんだから、動労と鉄労が手を結んでから。あいつは来年4月をすぎるまで、不安で不安でしょうがない。ヘタすれば動労革マルはみな清算事業団にもっていかれるのではないかと。結局、裏切り者が陽の目をみたことはないわけよ、絶対に。
この大陰謀を許せるか
こういう状況にあって、敵は、11月のダイヤ改正時にさらに4万4千人の要員合理化を強行しようとしている。一方、9月11日からは臨時国会がはじまり、100本もの国鉄関連法案を308議席でおしきろうとしている。
いますでに、首切りのための余剰人員は3万8千人にも達しているわけだから、11月のダイ改で当局側の提案どおりにいくと、だいたい8万2千人ぐらいの余剰人員がでてしまうことになります。あとは、2月から来年の3月までのあいだに、非現業・管理職部門の1万1千人のクビを切って、これで、再建監理委員会の答申の18万4千人体制にもっていくと言うんですね。そして、この9万3千人にもなる余剰人員のうち2万人を希望退職させ、3万2千人は新会社に送りこむことになるけれども、残りの4万1千人は清算事業団行きとする。清算事業団に行かされる4万1千人は、三年後にはクビになるということです。
この11月ダイ改時につくられる4万4千人の余剰人員というのは、運転系統・営業系統から2万5千人、工場・自動車系統で1万2千人ぐらい、それと施設・電気の、すでに合理化を強行された6千人をふくめたもので、絶対に認めることはできない。しかも、いま全国的に問題になっている人材活用センターには、いま1万5千人ぐらい入れられているけれど、この11月合理化をゆるしたら、5万人以上を送りこむと当局はいっている。
だから、11月ダイ改時というのは最大の、いわば最後のたたかいになるかもしれない闘いだということです。つまり分割・民営化攻撃というのは、これから本格期を迎えるわけで、これまでは、分割・民営化攻撃は何ひとつ決まっていたわけじゃなくて、実際には、国労解体・合理化攻撃だけが先行していたわけ。その結果、たとえば駅のホームに職員がほとんどいなくなったとか、やたらとホームから人が落ちるとかという問題が発生した。
当局は、安全なんかより合理化を優先させているけど、要するに輸送業務は人の命を運んでいる。安全問題は非常に大切な問題なんです。いま、たとえばラッシュ時の国電なんか、客がひきもきらずに乗り降りするのに、駅員がいないものだから、もう車掌の勘だけでやらされている。今までは駅の案内係がうまく整理して安全確認を車掌に知らせてそれで車掌がうまくドアをしめて、それで走りだすという形になっていた。しかしそれだって何秒おきにやっているわけだから危険だった。ところがいまは、そういう人たちが合理化されて、余剰人員にまわされたり、人活センター送りになったりしていなくなつちゃった。それで車掌が一人で無理してやっているという状態になっている。
こんなことまでして、10万人からの首を切るというのが、この分割・民営化攻撃であるわけだ。「国鉄改革」という美辞麗句のもとで国鉄労働者を一切合切の悪ときめつけてやってきたにもかかわらず、現実には、こんな危険なことがはびこりはじめている。こういう10万人首切りが、この11月ダイヤ改正として提案されている状況のなかで、この秋は大変な決戦、正念場中の正念場にならざるを得ない。やはりここまできたら、労働組合の違いだとか、思想・信条の違いとか、あるいは過去のいきがかりとか、いろいろあるかもじれないけれど、もうそんなことはいっていられない。いまこそ現場労働者が分割・民営化反対の旗のもとに結束し、共同行動をとり、互いに経験を交流しながら、ひとつ、ひとつのたたかいの渦をつくりだす以外にないではないか。いま、何かたたかいが危機だ危機だといわれているが、私は、いまたたかいにたちあがれば、国労中央がいろいろいっているみたいに、国鉄の分割・民営化は事成れり、というふうにはけっしてならないと思っている。勝負はこれからです。これから、いくらでもわれわれのたたかい如何によっては、分割・民営化という希代の大陰謀を粉砕することは可能です。ここのところを全国の労働者に呼びかけたい。
敵は、この分割・民営化がかかえる大変な矛盾を、いまつぎからつぎへとさらしています。8月14日に運輸省が来年の概算要求をとりまとめようと、分割・民営化される来年4月1日以後の国鉄の概算を出したら、清算事業団も三島会社も、本州も全部赤字になる
といわざるをえなくなった。一番大きい赤字は清算事業団で、これが約1兆2千億、それと新幹線保有機構(リース)で約3500億ぐらい、総計約3兆円前後の膨大な赤字が生まれると。しかしこれではあまりに赤字が多すぎて政府にいくら概算要求するか未定だ、なんてことをヌケヌケと発表している。しかし3兆円なんて予算がでるわけないから、また借金しようというわけですね。財政融資からの資金流用ということで。そしてそれでも足りないから、民間からも借金してそれでやっていくんだなんてことをいっている。つまり、分割・民営化された初年度から、結局いまとなにひとつ事態はかわらずに、今までと同じように借金してやっていこうと、かれら自身がいっているわけですね。今まで国鉄として毎年毎年借金に追われているという事態をなくすということで始まった分割・民営化だったはずなのに、何ひとつかわらないことを自分でバクロしてしまった。これは決定的な敵のアキレス腱だ。だから、たった一ヵ月後には今度はどこも全部黒字でやっていけるなんて発表しているわけですね。
こういうやり方のなかに、財政再建などという大義名分がいかにいい加減なものか、明らかだと思う。それだけじゃなく、間違いなく赤字になる整備新幹線を新たにつくるというわけでしょ。去年までの累積赤字に本四架橋や青函トンネルの借金を上乗せして37兆円にしただけでなく、また平気で新たな借金を重ねて赤字を上乗せしている。つまり国鉄をここまで赤字化してきた当の責任者は何ひとつ反省していない。一体、中曽根の分割・民営化攻撃とは何なのか。これは「国鉄の改革」では絶対ない。国鉄分割・民営化が国鉄の改革などというのは、まったくデマである。
もう一つ。こういうデマのもとで、臨時国会で国鉄法案を通そうとしているんだが、その核心は国鉄改革法案二三条にある。これは、分割・民営化されたあと、いまいる27万国鉄労働者は、いったん全員が雇用契約を破棄する、つまり首にするというものです。そしてあらためて、運輸大臣が設立委員を任命して、この設立委貴に選別・再雇用の権利.を与えるという。そして新しい事業体・会社の労働条件、つまり賃金はいくらにするとか、勤務形態はどうするとか退職金はどうなるとか、その他もろもろのことは設立委員が決めるんだと。気に入らない奴はこなくてもよいと。これはもう完全に、過去の、民間なんかでたたかれた首切り反対とか合理化反対がかちとってきたものを全部ご破産にして、労働組合をつぶすために一切の面倒くさいことをとっぱらってしまおうということで考えだされたやり方だね。通常は、仮りに民間会社が倒産した場合、経営不振におちいって他の会社がのりこんできて名前がかわったって、今までの組合がむすんでいた労働協約は生きているわけだし、労働者だってそのままそっくり新会社に移行するわけね。しかしこういうやり方で、国鉄を単純に民間にしたんでは、労働組合を潰せないと考えたんだね。
それで表向きは財政再建のための分割・民営化などと言っておきながら、こういう恐しい悪知恵、ペテン的カラクリで組合をつぶそうとしている。これが国鉄改革法案の核心です。こんなデタラメなことをやって、それで初年度から3兆円の赤字だなんてヌケヌケと言わせておくわけにはいかない。
動労干葉は三たび決起する
だから、動労千葉としても、そういう状況下、第三波ストも辞さず.あらゆる戦術を駆使したたかいぬくことを決めたわけです。9月末から10月にかけて、そして11月ダイ改をめぐる合理化攻撃を争点にすえて、さしあたり、まず強力順法闘争で決起すると。それで国労傘下、動労傘下の支部、分会、個人にたいして、ともに立ちあがることを呼びかけ、共同闘争の陣形をつくりあげたい。そして10月12日には、国鉄労働者が主体となって国会闘争、国会デモを展開すると。そしてもう1つの闘争の条件.は、人活センターでの反乱の開始だね。最近、あちこちでハンストだとか分割・民営化反対.のデモだとか集会がもたれていることは非常に心強い。
いずれにしてもわれわれは、この分割・民営化を粉砕する道は、たんなるカンパニアじゃなくて、やはり国鉄労働者の実力決起を軸にすえたたかいを通して、広汎な労働者人民を結集していくという構図をつくらなければ勝利はきりひらけないと思っている。動労千葉は第一波、第二波とストライキをたたかってきたけれども、第三波は、やはり国労参加、動労内決起と結びついたたたかいとして実現しなければならないと思っている。そういう点で大変ではあると思うけど、やっぱりそれをのりこえないといけない。逆に言うと、この11月で全国5万が人活センター送りとなり法案が通ってしまうとどういう状況になるかと考えたら、やっぱりここで苦しくてももう一回組合員の職場からの決起ということをつくりあげて、もう一回動労千葉が前よりも飛躍していくということをつくりあげないといけないと思っている。そういうことを見すえて、決戦を切りひらいていこうというのが私の考え方ですね。
(1986年9月29日、談)
(なかの・ひろし国鉄千葉動力重労働組合委員長)
国鉄「分割・民営化」に至る経過 |