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新自由主義ー分割・民営化攻撃の 破たんと廃線化攻撃 (中)

 2月11日、国鉄集会の前段で、JRの廃線化攻撃と闘う各地の仲間が集まって、闘いの路線形成に向けた活動者会議が 開かれました。その場での田中顧問の提起を3回に分けて掲載します。(第2回)
新自由主義ー分割・民営化攻撃の 破たんと廃線化攻撃 (上)

(2) 新自由主義大崩壊と鉄道廃線化攻撃の構図 @

 日本の『限界国家』化ということがマスコミでもくり返し取り上げられています。新自由主義攻撃の中で社会(日本資本主義)の総崩れが始まっているということです。
 大きな第2の問題は、いったい何が起きようとしているのか? 廃線化問題がなぜ急浮上するに至ったのか? その構図についてです。

賃上げ連呼の異様な光景

 第1に、この間、岸田政権や財界が「賃上げ」を連呼し叫びたてるという異様な光景が生まれていますが、それはいったい何を意味するのかという問題です。
岸田首相は施政方針演説で「公的賃上げ」を18回も連呼した。また経団連が毎年出す経労委報告は、「賃金引き上げは企業の社会的責務」だとか「昨年にも増す熱量で」とか、書き出しから賃上げのアジテーションみたいになっています。「構造的な賃金引き上げの歯車を加速できるかどうかに、日本経済の未来がかかっているとの極めて強い危機感がある」と言うのです。いったいこれはどういうことなのか?
 政府・財界が賃上げを連呼する直接のきっかけとなったのは43兆円の大軍拡でした。空前の大軍拡に踏みだしながら、30年も賃金を下げ続けた結果、防衛増税を真正面から言い出すこともできない現実に直面したのです。
 それだけでなく、ハタと気が付いてみたら、社会のすべてが足元から崩れ落ちようとしていた。万策尽きてしまったような現実の中にあることに気付いたわけです。賃上げの連呼はそれへの悲鳴です。

「労働力再生産」の崩壊

 最低賃金ギリギリで働いている労働者が全体の20〜25%。とくに地方の賃金水準が深刻です。しかも地方からは、「選択と集中」路線の中で、公的事業所などが次々に撤退していった。
 かつて国鉄時代の職員採用はほとんど地方からでした。千葉や船橋から国鉄に入ってくる者は滅多にいなかった。新小岩機関区や津田沼電車区が機関士や運転士の養成区で、業務量が多く独身寮などもある都市部の職場に配属され、順番待ちで地元の職場に戻っていくというのがパターンでした。私が青年部長をやっている頃の青年部の一番の要求は、いつ地元の職場、つまり勝浦や館山、銚子運転区に戻れるのか、ということでした。当時の国鉄職員数は40万人です。国鉄一つで地方にそれだけの雇用を生んでいた。そうしたことを全部つぶした結果が地方崩壊であり少子化です。
 当時だって、子どもを育てることができたのは、田舎にじいちゃん、ばあちゃんがいたからです。それを壊してしまった。しかもカツカツの超低賃金。前例がない急速な人口減少は、新自由主義によって人為的に生み出されたものです。生まれてこないという形で殺され続けてきたのです。労働力の再生産もできなくなり、資本主義としてすべてが崩壊しようとしています。

「発展途上国並みの賃金で国際競争力」論の破綻

 第2の問題ですが、経労委報告は、日本の労働生産性が先進国中最低の水準に落ちていることに危機感をあらわにしています。そして「アウトプット(企業利益)を最大化せよ」「そのために必要なのは徹底した雇用柔軟化だ」と言うのです。 それは雇用と賃金の破壊をさらに進めることを意味するものですが、一方で新自由主義が完全に破綻したことを示すものでもあります。
 かつて「発展途上国並みの賃金にして国際競争に勝利する」と言ったのは、経団連会長だった奥田碩ですが、それは日本的新自由主義の基本路線でした。実際、賃金は「発展途上国並み」になった。今の日本の賃金水準は欧米の半分ぐらいです。けれど国際競争力は地に落ちたばかりか、社会が崩壊しようとしている。これはどう考えても労働者を痛めつけ過ぎた結果です。すべてが破綻しようとしている。

「労働力問題」の現実

 第3に、「労働力問題」と言われていることの意味を考えてみたいと思います。先程も述べたように、それは自然現象のようなものでなく人為的に生み出されたことです。経団連自身が、瓦解しようとしている業種として、医療・福祉・介護、育児、製造、建設、交通・運輸、小売りサービス、農林・水産、警備等をあげています。もうすべてが崩壊しようとしている。
 JRでもダイヤを組むことができなくなるような要員体制の危機が迫っています。今年から来年にかけて国鉄採用者の65歳退職がピークを迎え、しかも、融合化攻撃や、ブラック企業第1位(JR東日本)にランクされる現実の中で若年退職者が激増しているのです。 しかしJRはそれをも逆手にとって攻撃をエスカレートさせているので蟻地獄のような状態になっています。それが廃線化攻撃に拍車をかけようとしています。
 こんな現実の中で外国人労働者が200万人を突破しました。30人に1人が外国人労働者という形で日本社会が成立している。この10年間で3倍に増えています。しかし、賃金水準が余りにも低く、しかも特定技能だとか労働者としての権利すら全否定されるような現実の中で、いつそれがパタリと止まって引き揚げてしまうかもしれない。財界はそのことに危機感をあらわにしています。そうなったら文字通り“崩壊”です。

「すべての町は救えない」

 第4に、全国896の地方自治体が消滅の危機に立っているという問題がある。増田元総務大臣がショッキングな報告を出しているわけです。その増田がJR東日本の冨田とともにデジタル田園都市国家構想実現会議のメンバーに入っています。
増田は「すべての町は救えない」と言って「人口ダム論」を打ち出した。「人口減少を食い止めるダムをつくる」と言うのです。それを「地方中核都市」と名付け、それ以下の自治体は淘汰してそこで人口減少を食い止める。地方中核都市は10万人規模とされ、デジタル田園都市国家構想や、リ・デザイン実現会議の報告にも明記されています。
 これでは房総半島の半分は切り捨ての対象になってしまう。でもそれが彼らの構想の根源にあるものです。 リ・デザイン実現会議の資料には「生活サービス施設や公共交通を維持することが困難・・・・居住を公共交通沿線や日常生活の拠点に緩やかに誘導する」と露骨に書かれています。これは今、能登半島で激甚に起きていることです。地方に住む権利などもうないんだと言うことです。
 これが「選択と集中」です。「選択」とは、どちらかを選べということではなく、英語で言うとselection、淘汰なんです。東日本大震災の時にJR東海の葛西らは、「福島に必要なのは終末期医療だ」と露骨に叫んでいました。

廃線化攻撃のエスカレート

 さて第5に、こうした中で、「維持困難な線区」と称してJRの廃線問題が出てくるわけです。この1年余りの間にも攻撃はどんどんエスカレートしています。 国交省検討会は「輸送密度4千人未満の鉄道は維持困難」という前提で議論を始めました。それはJR全体の実に57%に当たるもので、さすがに激甚すぎるというので、最終的には輸送密度1千人未満の線区をさしあたり「再構築」の対象にするという提言を出します。これは全路線の22%に当たります。
しかし、JR東日本や西日本は納得しなかったのでしょう。輸送密度2千人未満の線区名を「維持できない」と発表します。
 その後のリ・デザイン実現会議が23年9月に設置されるわけですが、そこで出された基準は、JRの意向通りボンとエスカレートして2千人未満になっていました。これはJR全体の39%にあたる線区が廃線化の対象となったことを意味します。

国主導の強制廃線化

 国交省検討会は、議論の入り口は「危機感の共有」であり、出口は「公有民営化」か「モード転換」であると、議論の冒頭に明記しました。公有民営化とは上下分離や第三セクター化を意味し、モード転換は廃線化・バス転換を意味します。 しかし、今回の攻撃は、地方交付税措置などで事実上国が三セク鉄道の赤字を穴埋めするようなことはもうしないぞ、ということでもあり、地方の現実を考えれば、事実上“廃線一択”を突き付けたに等しいものです。現実問題として第三セクター化で地方の鉄道をどうにかできるということはありません。
 また「再構築協議会」は、地方自治体を強制的に廃線協議に引きずり込み、全責任を地方に押し付ける形で国が廃線を強制する仕組みです。それは地方自治を解体する攻撃でもあったわけですが、この通常国会には地方自治法改悪案が提出されようとしています。
 辺野古の米軍基地建設問題に対する沖縄県の抵抗なども踏まえ、国があらゆることを地方自治体に命令できるようにするというのです。
こうしたことを含め、廃線化問題は国家の在り方そのものの大転換を孕む問題なのです。

(続く)

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