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サブプライムローンの破綻と〈世界金融大恐慌〉の危機

 アメリカから始まったサブプライムローン関連証券の暴落が、世界を震撼させています。サブプライムローン問題とは何か。鎌倉孝夫さん(埼玉大名誉教授/労働学校講師)のインタビュー記事を「百万人署名運動全国通信126号」より転載させていただきました。

証券ギャンブルの破産

 サブプライムローンの破綻によって金融恐慌が始まりました。これは、戦後最大の危機といってよいと思います。第二次世界大戦につながった1929年恐慌に匹敵するようなパニックがおこる可能性があります。29年恐慌は、基本産業企業の株価が暴落したことから始まり、それが銀行倒産など金融危機をもたらしましたが、今回は、アメリカの住宅バブルの崩壊によって、それ自体価値増殖根拠もない証券(借金の支払いの権利を金融商品にしたもの)の暴落から始まっているとこうに重大な特徴があります。
 サブプライムローンとは、アメリカで通常の融資を受けられる人々(プライム層)ではなく、「信用力が低い」低所得者の人々(サブプライム層)向けの住宅ローンです。このローンは、当初2年は優遇金利で(年6〜7%)、その後は金利が約2倍に上昇する設定になっています。
 なぜ所得の少ない人々がこのサブプライムローンを利用するのでしょうか?それは、「ローンで買った住宅が値上がりする」という宣伝で低金利のローンへの借り換えが望めると言われたからです。サブプライムローンで購入した住宅の値上がりによって含み益が生まれ、それを担保に借り換えで再度住宅ローンを組み、その資金をサブプライムローンの返済に充て、さらに消費に回すという仕組みです。
 自分が稼ぐ賃金だけではローンの支払いがとうてい困難な低所得者に対してこのような住宅ローンの貸付が強引に行われ、それによって住宅販売がさらにつくりだされました。こうして2003年以降「住宅ブーム」「住宅バブル」がつくられてきましたが、06年半ば以降、価格上昇も頭打ちとなり、下落に転じ、ローン返済に行き詰まるという事態が続出したのです。
 この焦げつき=損失は、全世界に広まりました。なぜなら、ローン債権を組み合わせたり分割したりして金融商品にして、世界中に売りさばいたからです。サブプライムローン問題の重要な特徴は、ローン債権の証券化、そして証券化の積み上げにあります。
 新自由主義政策が進行する中で、証券売買(証券ギャンブル)を通して利得をあげることが全世界的に拡大しました。実体経済に関係する産業基盤をもった株式の売買ではなくて、ローンの返済というほとんど基盤のないものまでも証券化し、擬制的価格をつけて、売買を通し利益を得ようとする虚構のシステムがつくりだ士れたのです。これが今、全面的に破産しつつあるのです。

巨額の損失とドル大暴落

 アメリカ経済は、世界経済はどうなるのか。第1に、金融機関の損失です。金融機関はサブプライムローン関連の証券を大量にもっています。それが昨年夏から暴落し、売れない状況になりました。直接関嘩する証券は1・3兆ドル。関連するものを含めると全部で約13兆ドル(約1300兆円)になります。これはアメリカのGDP(国内総生産高)に匹敵する額です。07年12月期発表で、アメリカの最大の銀行シティークループが286億ドル、メリルリンチが225億ドル、大手7社全体の損失額が757億ドル。それがどんどん増えています。
 金融保険会社(モノライン)にも危機が生じています。証券の買い手は、証券の損失を補填するために保険を掛けているため、金融保険会社から保険金が支払われていきます。この金融保険会社がガタガタになり、倒産の危機に陥っています。また、サブプライムローン関連の証券だけをあっかつている証券会社ベアースターンズが倒産寸前となり、FRB(米・中央銀行のこと)の資金をバックにJPモルガンチエース
が救済に入っています。
 第2に、世界同時的な株の大暴落です。実体経済が不況になりつつある中で、金融機関だけではなく、産業企業の株価も下落しています。
 第3に、実体経済の不況です。損失を受けた金融機関は労働者のクビを切ります。シティークループが9千人、メリルリンチが4千人の首切りを発表。全産業で失業者が激増しつつあります。失業が増大すると労働者の購買力が減り、消費需要も減ります。07年に220万件の住宅が差し押さえの対象になり、08年は200万件が差し押さえの対象になると言われています。住宅価格下落で、ローンの借り換えもできず、ホームエクイティーローン(住宅を担保にした融資制度)も激減し、消費が減っています。
 第4に、物価上昇です。世界的な過剰マネーの投機先が、株式・証券から原油、穀物、金、希少金属等の実物投機に回っています。一番わかりやすいのは石油です。投機によって価格がどんどん上昇しています。3月には1バレル110ドルを超えました。07年1月時1バレル50ドルの2倍になりました。トウモロコシ、小麦、大豆などの穀物も暴騰しています。生活に関わる商品価格は軒並み上昇し、消費者物価か世界的に上がっています。世界のあちこちで食糧暴動が起こっています。
 そして第5に、ドルの大暴落です。ドル体制はもはや崩壊寸前です。ドルの信用がなくなるということは、ドルを軸にしたアメリカ帝国主義支配の終焉を意味します。
 日本はどうか。08年3月期の大手金融6グループのサブプライムローン関連の証券損失額が1兆5千億円になっています。昨年12月までは6千億円。それが2倍以上になりました。一番損失の大きいのかみずほグループで5650億円。地方銀行、信用組合、農林中央金庫までもかこの証券に投資し、巨額の損失を出しています。
 日本はサブプライムローン関連の直接的な損失より、円高と株暴落が厳しい。円高とアメリカの不況によって輸出が確実に停滞します。1ドル90円くらいになれば、企業はさらに激しいリストラや賃下げを強行してきます。物価上昇による消費停滞は内需を縮小し、輸出依存を高めながら、輸出も減少する−悪循環は増すばかりです。これは労働者人民にとって生きられない、耐えられない事態です。

サミットでも打つ手がない

 4月8日、lMF(国際通貨基金)は、サブプライムローン関係の証券の損失額か全部で5650億ドルに達するという試算を報告しました。それに関連した証券をあわせると今後2年間で9450億ドル、約97兆円の損失になると予測しています。
 中央銀行総裁会議G7が、07年10月、08年2月、4月に行われましたが、統一的な対応が全くできていません。できるのは、金融機関を救済するために、中央銀行が資金供給を増やすということくらいです。アメリカFRB中央銀行と、各国の中央銀行が協調して資金供給を増やす。これで短期資金をいつでも借りて支払うことができる。これを去年から3回やりました。とこうが過剰マネーによる投機的なギャンブルを抑えなければいけないのに、この対策は投機マネーをさらに増やす結果になっています。それが実物投機にまわり、物価の上昇になってしまっています。
 公定歩合を下げることでも、西ヨーロッパ諸国はインフレ対策の必要上、利子率利下げを求めるアメリカの要請に応えられません。日本も超低金利を続けているので、これ以上の利下げは無理です。西ヨーロッパ、日本は、アメリカに公的資金注入を求めています。
 ということで、さらに過剰マネーを増やすマネー供給の増大しか対策はありませんが、その下でドル価値はさらに下がり、ユーロが拡大していきます。イラク戦争の経済的契機は、サタムフセインが石油の輸出代金をユーロ建てにしようとしたことにもあった。今、朝鮮がユーロ建てにしている。中国もそうなりつつある。通貨面での、ドルとユーロの激突です。それに象徴されるように、ヨーロッパの資本とアメリカの資本(その中に日本は組み込まれている)が対立し、世界の市場の争奪戦になっています。各国の利害が対立しているから、7月G8サミットでも統一的対応はとれないでしょう。

資本主義に未来はない

 現代資本主義は、「新自由主義」政策をとって公的事業の民営化と規制緩和による資本の自由な流動を促進し、金融の自由化を進めてきました。
 日本は小泉政権時にアメリカ型の金融システムに転換し、保険、貸付、証券の3つの分野の垣根もなくしました。最大の問題は証券です。現代資本主義は証券投資の自由を全世界的に拡大しました。実体経済に回らない過剰マネーが世界的に累積しており、これが証券などの投機に回っています。新自由主義政策の推進によって、世界的な証券投機と証券ギャンブルがいっきに増えました。“擬制”的経済の世界的拡大です。
 それがいま全面的に崩壊しつつあるということです。今回の問題は、全世界の証券取引、売買の価格の根拠は、アメリカの低所得者のローン支払いにあり、低所得者が家賃か払えないことで、全世界の証券市場が暴薄するという、擬制的経済の虚構性が暴露されたことです。まさに実体経済を縮小解体した上で成立する擬制的金融資本の支配下では、経済は維持しえないこと、そこではすべての矛盾は労働者人民に転嫁され、人民の生活が破壊され尽くしてしまうことが明らかにされました。
 資本と労働者の対立的関係をはっきりさせ、資本に支配されるのではなく、労働者人民・農民は生きるために団結し、人間生活の基盤である実体経済を再生させ、社会を変えていきましょう。

大失業と戦争の時代に通用する新しい世代の動労千葉を創りあげよう!
 
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