座 談 会 ――これからが正念場―― 国鉄闘争全国運動の発展を / 動労総連合を全国へ (参加者) 伊藤 晃(日本近代史研究者) |
1 国鉄改革法を打ち破った! 司会 闘いはこれから 田中 労働運動本来の姿 花輪 国鉄分割・民営化は、労働者に対する思想攻撃という面を持っていた。「先輩、闘うと言ってもそういう時代じゃない」とよく言われました。労働運動が押さえ込まれていると感じたんです。しかし、最高裁が不当労働行為を否定できないところまで追いこんだ。 伊藤 われわれの運動も、防御的な立場で戦術を選択し、裁判所や労働委員会をやむを得ず利用しますね。しかし今度の鉄建公団訴訟は攻撃的な運動が展開できた。執しつよう拗に新証拠を探し出し、署名運動や要請行動、集会で圧力をかけた。労働運動の本来の姿に帰った。 田中 これまでの判決では「不採用基準は具体的で合理的」で切られていた。しかし、われわれは、いつ誰がどういう判断で不採用基準をつくったのかを詳細に明らかにさせた。そして、国鉄分割・民営化、採用差別事件の根幹の部分を打ち砕いた。 それは労働運動の復権に向けたこれからの闘いにとって必ず大きな意味を持つと思います。国鉄分割・民営化反対闘争の総括にも関わることですが、国鉄改革法に真正面から立ち向かえなかった労働運動の側の弱さがあった。政治解決路線の背後にあったのはその問題です。だけど、戦線を揃えて正面から闘えば国鉄分割・民営化を粉砕できた。その確信をつかむことができました。 最後まで闘い抜いた 芹澤 裁判闘争としては一つの最終的な結論が出たことになるわけです。 田中 芹澤 僕は、動労千葉の大きな成果・教訓は、国鉄闘争全国運動だと思います。2010年に「国鉄闘争の火を消すな」の一点で闘いを広範に呼びかけて構築した。これは大きな成果。結局、他の闘争ではこの種のものができなかった。動労千葉が、ある意味でこれまでの闘いの狭さを自己批判して、労働組合運動を中心にして全国的な支援運動をつくりあげた。統一戦線運動といいましょうか。新しい試みで、いろんな経験を積み上げていった。 田中 今日は10万筆達成は難しいかなと思ったら、ばっと持ってきてくれたところがあった。 解雇撤回≠ェ核心 山本 東京東部です。東部地域だけで1万筆集めた。動労千葉を支援する会の運営委員会で「地域の労働組合に署名を呼びかけよう」と議論した。組合を訪問する過程で解雇撤回≠貫いて闘っていることの大きさを本当に感じた。訪れた労働組合は一つの分会で数人というところもあるけど本当に共感してくれた。新潟や神奈川もそういう感じです。 2 なぜ闘いを継続できたのか 田中 動労千葉以外が解雇撤回闘争の旗を降ろしてしまった2010年の時点で新しい闘いを提起するのは、これまでの労働運動の経験からすれば常識外れでした。あらかたの人は「そんなことは成り立たない」と思ったでしょう。普通ならこれで終わりです。でも三池闘争の歴史などを見直し、「闘いの継続に力を貸してほしい」と訴えた。これだけ多くの人が結集してくれて心から感謝しています。腹を括くくって全国に訴えて良かったと改めて思っています。 芹澤 全国運動って名前が良かったよ。響きがいい。幅広さを感じるし、みんなで手を携えて動労千葉の闘いを支えようと。気分の面では良い名称と思います。 伊藤 判決が出ればたいていは「これで終わった」となる。けれども今回の決定で誰もそうは思ってない。「これからだ」は共通している。 芹澤 新しい運動を追求する上で考える必要があると思いますが、国鉄が労働者のくびを切った事実はずっと存在し続ける。これに対する闘いはいくらでも組める。そういう性質のものだと思います。 闘いの成果と教訓 花輪 東京西部ユニオン鈴木コンクリート工業分会を支援してきました。中小の小さな争議でも、解雇撤回の要求を貫徹して非正規労働者の闘いを燃え上がらせる。そういう意味では、労働組合の基本姿勢を貫き通したところに鈴コン分会の勝利があったと思う。 伊藤 最初に署名運動に取り組んだとき、みんなゲリラ的な感覚だったと思います。しかし10万筆を達成して、むかし労働運動をやっていた感覚が多少は戻って来たのではないか。職場や組合を訪ねて話をすれば応答がある。その経験は大きい。署名運動は直接的には裁判所への圧力だけど、労働運動の感覚を復活させるきっかけにもなった。 山本 不当労働行為を確定させたことを大きくアピールしたい。国労闘争団の訴訟では、期待権への侵害と賠償だけでした。今度の判決は、不採用基準そのものが不当労働行為と言っている。これはすごいことです。それをでかい声で全国に知らせて新たな闘いへの結集を呼びかけたいですね。 田中 〈不当労働行為だと認めたのだから解雇を撤回しろ〉という当然の要求は絶対に譲れないものです。なぜなら、すべての労働者の権利、労働組合の存在意味に関わる問題だからです。特に、「解雇金銭解決」「解雇自由」が社会的問題になっていることもあり、本当に闘いはこれからだと思います。 花輪 金銭解決を認める認めないは最後は労働者の問題です。労働者が闘えば、これを認めない戦線ができる。労働組合が真価を問われるのは権利意識を持って闘うかどうかです。「職場復帰が闘いのメインスローガンだ」と闘っていけば、法律は吹っ飛びますよ。われわれの戦線が闘う労働組合の真価をどれだけ示していけるかにかかっている。 芹澤 この段階で闘った側からの国鉄闘争の総括が必要です。動労千葉が果たした役割は非常に大きい。かちとった権利の本質的な評価を整理して、闘い方も含めて教訓をまとめる。それを日本の労働運動全体に提供していく。非常に大事なことです。これは、いま闘われている権利闘争にも多くの教訓を提供していますよ。 暴き出した真実 山本 高裁も最高裁も井手文書に一言もふれてない。井手や葛西ら旧国鉄幹部とJR設立委員長が共謀して不採用規準を策定したことを自白した文書です。高裁で証拠として出し、『暴かれた真実』というパンフレットを2回出した。 田中 伊藤 それを扱えば社会保険庁など国鉄改革法を原型とする解雇がすべて問題になる。向こうもそれは防御線です。 芹澤 井手正敬はある意味で一番ワルです。井手は国鉄改革3人組として国鉄労働組合運動を握って悪行を行った張本人。 田中 3 国鉄闘争の今後とその展望 司会 次は〈国鉄闘争と現在・未来〉を考えたい。 安倍首相は、集団的自衛権行使を閣議決定して安保法制を衆院で強行採決しました。国会には連日、数万人の怒りの声が結集し時代が動き始めています。 教育労働者の闘い 伊藤 60年安保のことを思い出すのですが、64年に新幹線が開通して経済が上向きで国民的な一体性があり、池田内閣の所得倍増計画で切り抜けた。 いまはそういう一体性はなく、社会は壊れつつある。そういう状況に対して労働組合は何ができるか。確かに労働組合の改憲勢力化も進んでいる。労働運動をつぶさなければ戦争はできない。だから安倍政権も必死にやると思いますが、反撃する糸口は無数にある。そこをどうとらえるかが重要です。 花輪 安倍政権は日教組に焦点を合わせている。そういう観点も踏まえて戦略を立てていかないとまずい。古くて新しいスローガンですが「教え子を戦場に送らない」はいまも不変です。年配の人はすぐ反応するけど、労働組合すら忌きひ避する若い教員もいて、そのあたりが勝負かなと思います。 田中 都高教の大会でスローガンから「教え子を再び戦場に送るな」がなくなった。 芹澤 そうなんですか。 伊藤 深刻ですよ。 田中 修正動議が出たけど動議自体を取り扱わなかったそうです。 芹澤 どういう理由で… 田中 動議に瑕かし疵があるという理由です。なぜこんなことが始まっているのか。18歳選挙権が決まるとたちまち「政治的中立を守らない教員には罰則を」と言い出した。安倍政権は明らかに国鉄闘争、日教組、自治労を解体の対象にしている。それへの屈服でしょう。 戦争法案はすべての労働現場をそういう坩る つぼ堝に入れるものです。マスコミや教育だけでなく全部です。さらに新自由主義が社会を丸ごと崩壊させる。わたしはその渦中からこそ、新しいものが生まれてくるのだと考えています。労働運動が再び力を取り戻す可能性もそこにある。 4 現場から闘いの火をつける 田中 これからの闘いの方向として4つを考えています。 第一は、先ほど言ったことです。すべての労働者の権利の問題として解雇撤回闘争を貫く。 戦争と労働組合 特に改憲と戦争に向けた労働組合の再編攻撃について、起きている事実を現場に知らせ、それを打ち破る力が現場の労働者にあることを訴えたい。全労連なども含めてこの現実に完全に沈黙しています。この役割を国鉄闘争全国運動が果たさなければならない。 花輪 面従腹背というところがありますからね(笑)。 田中 国会には、戦争法案反対で10万人の怒りの声が結集していますが、こうした状況を土台で守りぬいてきたのは30年にわたる国鉄闘争の存在だったと思っています。 花輪 連合も一つの権力ですがそれを突き崩す力は現場にある。落語に倉の鼠ねずみあな穴から火事で丸焼けになる話があります。穴一つで連合支配は崩れていく。能書きよりも実践に力がある。「連合の方針に従っていいのか」「労働者の権利は守れるのか」と呼びかけることが大切です。 芹澤 連合運動と労働者の基本的要求が対立するのが今度の労働法制の改悪です。連合も簡単には同調できない。この闘争は安保法制とも結合する問題です。この共同闘争を前進させることがUAゼンセンや安倍政権の動きにくさびを打ち込む。 正規と非正規の団結 花輪 連合の最大の弱点が本工主義です。連合の運動論では、中小・下請けはまとめきれない。ここは私たちがつめていく必要がある。上から目線での救済主義では破は
たん綻する。 伊藤 正社員の立場でもいまの労働法制改悪は動揺する。動労千葉は、ある意味では、正規が非正規に転落することに抵抗する運動をやってきた。この外注化阻止の闘いは非正規労働者の組織化に直結した。その経験や考え方を総括していく必要がありますね。連合はそういう意味では矛盾に悩んでいる。 田中 動労千葉が持続している外注化・非正規化粉砕闘争は、まだ労働者全体の闘いになってない段階ですが、国鉄分割・民営化反対闘争の最も重要な継続だと思っています。僕はこの闘いをやるまで、〈本工と下請け、正規と非正規の連帯〉を主張する人たちを全然に信用しなかった。それがどれほど大変なことなのかは韓国民主労総などの闘いを見れば明らかで、軽々しく理屈だけで口にできることではないと考えていた。 外注化反対闘争を15年間、非妥協的に持続し徹底的に闘いぬいて、初めてともに闘うことができるんだということを具体的につかむことができた。これを広げていくことができるのかがこれからの最大の課題です。 花輪 言うは易く行うは難しでこれからが大変ですね。 田中 でも闘い続けた結果、JRでは外注化の構想全体をおそらく10年は遅らせた。外注化の最先端を担うべきJRが最後尾になっている。JRは車掌や運転士まで外注化しようとしている。安全問題も含め矛盾が吹き出すのはこれからです。解雇撤回闘争と並ぶ闘いの柱が外注化阻止闘争です。しかもその闘いは、労働法制の最後的解体攻撃との最先端を担うことになる闘いでもあると考えでいます。 外注化との闘い 芹澤 JRの職場課題に対する国労や他の労働組合の対応はどうなんですか。 田中 攻撃の全体像や見通しを組合員に知らせることすらしないのが現状です。それで全部ズルズル受け入れていく。 たとえば、7月から駅業務を委託していた会社の大再編が始まって、千葉ではJR千葉鉄道サービス(CTS)で駅業務をやっていた労働者がステーションサービス(JESS)という会社へ転籍になった。だけどそれを組合員に知らせない。 花輪 大きな企業は、たくさんの子会社をつくり、それをマネジメントして金を動かすだけ。業務を細分化し、実務をする会社ではいつでも労働者のクビをすげかえる。労働者の連帯が難しい仕組みになっている。ここを突いていかないと労働組合の団結は上滑りする。 田中 JRもそれを目指している。JR本体は、株と鉄道施設を保有するだけにする。鉄道業務を何層もの数百、数千の請負会社に委託している。 外注化と対決して分断を打破し、それを止める闘いに挑戦しています。まだ小さな芽かもしれないけど、動労千葉が外注化・非正規化と闘っているのを下請会社の労働者がみていてくれて動労千葉に加入し始めています。 5 労働組合の復権の可能性 田中 館山や銚子での取り組みも、単に特急列車廃止だけの問題ではなく、896都市消滅と言われるほど社会の崩壊が進む状況の中で、労働運動再生のひとつの道を探る取り組みだと思っています。地域崩壊への危機感が渦巻いています。現実に人が生きていけなくなっている。とても払えないような金額まで水道代が高こうとう騰し、公立病院や保健所、学校、公共機関がどんどん撤退し、働く場もない。国保まで崩壊しようとしている。まさに新自由主義が生み出した恐るべき現実です。 動労水戸の闘いもこの時代に決定的な問題を提起しています。 安倍政権は常磐線の全線開通を打ち出した。常磐線は福島原発の真横を走っている。これは復興の名による福島見殺し、復興の名による何ひとつ収束していない原発事故の恐るべき現実の隠いんぺい蔽、原発政策推進という点では最大級の攻撃です。すべて労働者に被曝を強制して国家が生き残ろうとしている。誰かが声をあげなければいけない。 動労総連合を全国へ 国鉄闘争全国運動を本格的に発展させたい。そして、組織拡大を実現し、動労総連合を全国につくりたいと考えています。時代が動き始めたと思うのです。新しい挑戦です。30年に及ぶ国鉄分割・民営化反対闘争の持つ位置は本当に大きいと思うし、労働運動全体を獲得する力を持っていると思うからです。 芹澤 動労千葉は、1047名解雇撤回の闘いの中から時代をどのようにみているのか。その基本的な見解を整理して明らかにしてほしい。それがみなさんに勇気を与える。 田中 簡単ではないですが今はチャンスだと思っています。支配体制の側がこれほど矛盾を抱えている時代はなかったのではないか。 芹澤 そういう受け止め方がなかなかできない。具体的行動を編み出していく運動を。 田中 敵の側が言うことに積極的な要素がまったくなくなっている。かつてなら幻想をふりまいて支配した。そういう意味でも労働者が力を取り戻す時が来ている。 花輪 経済的貧困だけでなく精神的な貧困もある。単に金の問題じゃなくて総体的に貧しさを打破する観点も必要かもしれないですね。 山本 昔は貧乏だった。いまは貧困。昔の貧乏は連帯感みたいなものもあったけど。 田中 新自由主義が社会的連帯を断ち切った。孤立と自己責任になっている。 山本 昔は労働組合がそれなりにあって職場や地域の関係もあった。それが今は絶たれている。動労千葉が解雇撤回をずっと闘っているのは一つの希望だと評価して「動労千葉を支援する会」に入ってくれた人もいる。
芹澤 動労千葉の闘いの歴史的な教訓は大きいと思っている。これだけ組織だって解雇反対を闘い、連帯を追求し、自らの力でも努力し、最高裁の最後までやり抜いた闘争は戦後史でもないのではないか。28年間、屈せず、なおかつこれからも闘い続けていく闘争は戦後はじめて。この歴史的な闘いを誇りに思い、学んだ多くのことを運動に返していく。ぜひ中間的なとりまとめをしていただきたい。 田中 8月23日に、上告棄却への報告・決起集会を行います。新しい出発点にしたい。これからも反動と対決し、紆余曲折を経ながら進むと思いますが、情勢は間違いなく変化し始めている。労働運動が甦る条件はあります。秋には、全国各地で網の目のように国鉄集会を開き、新しい闘いへの決起も訴えていきたい。 日韓労働者の連帯 もう一点、国鉄分割・民営化反対闘争の中から生まれた国際連帯闘争に大きな可能性があると感じています。今、韓国民主労組はゼネストに立ち上がっていますが、国鉄分割・民営化反対闘争の経験が一番通用したし、信頼関係をつくりだす最大の原動力でした。だから、この闘いの経験は必ず全体を獲得できると確信を持っています。 芹澤 これも動労千葉労働運動の大きな特徴だと思う。韓国労働運動と闘っている組合同士の連帯活動はあまりない。儀礼的なあいさつや交流はある。動労千葉は組合員レベルで行き来している。労働運動の大衆的闘争の中での国際的連帯を実践した経験として記録されるべきだと思います。 田中 闘いは何ひとつ終わっていない。動労千葉は新たな闘いに立ち上がる決意です。(了) |