国交省の廃線提言を弾劾する @
●ローカル線大虐殺
国交省検討会は、7月25日、地方ローカル線の存廃について提言をとりまとめ公表した。その内容は、鉄道事業者または地方自治体から要請があった場合、国が「特定線区再構築協議会」(仮称)を設置し、合理的な期限(最長3年)を設けて存廃を決定するというものだ。その対象となる「目安」は「輸送密度1千人未満、かつピーク時の1時間当たりの輸送人員500人未満」とされた。それはJRの営業キロ全体の22%に当たる。膨大な線区が廃線化の対象にされたのである。
当初検討されていた廃線化の基準=4千人未満(全体の57%)、2千人未満(全体の39%)は、各地の自治体から噴きあがった激しい怒りの声の前に、引き下げざるを得なかったが、攻撃の本質は何ひとつ変わっていない。この間の経緯を見れば明らかなように、このような形で国が廃線化を容認すれば、「1千人未満」を越えて廃線化攻撃がエスカレートしていくことは明らかだ。ローカル線大虐殺≠ェ始まろうとしている。
●国交省すら無視して突進
その3日後、JR東日本は、国交省の「目安」を無視する形で、「輸送密度2千人未満」の線区について収支を初公表した。それは、35路線66線区・全営業キロの35%に及ぶ線区だ。「JR西日本を参考にして2千人にした」「JR東西2社はローカル線見直しを今年の最重点課題とし、首脳同士が水面下で会談するなど足並みをそろえて動いた」(読売)というのである。JRは国交省基準すら無視して前のめりで廃線化に突き進もうとしている。
廃線化はすでに既成事実としてどんどん進められている。JR北海道で言えば、深名線、江差線、留萌線、石勝線、札沼線、日高線等が廃線化されているし、西日本では、可部線、三江線等。東日本でも、山田線、大船渡線、気仙沼線、只見線等が廃線に追い込まれている(経営移管を含む)。今回の国交省提言は、そうした既成事実を、国家政策としてより大々的に推し進めるために追認し、制度化しようとするものだ。
●JR・国交省による強制廃線化攻撃
提言は「鉄道事業者または地方自治体の要請を受けて国が協議会を設置し、3年以内に結論を出す」としているが、JR(鉄道事業者)側から矢継ぎ早に「要請」が出されることは明らかだ。逆に沿線自治体から出されるケースは通常考えられない。そもそも今回の国交省提言は、「これまで廃線を警戒する沿線自治体がJRとの協議に積極的に応じないケースが多かった」ことから、新たな制度をつくる必要性が生じて検討が始まったものだというのである。つまり提言は沿線自治体を強制的に協議に引きずり込むために作られた強制廃線化攻撃≠ノ他ならない。JRと国がグルになって廃線化・バス転換が地方に強制されようとしている。
しかも事態は加速度をつけて進む可能性がある。この間も新潟県などを襲った集中豪雨災害で線路が流される等の被害が相次いでいるが、この間JRがとってきた政策は、それをもっけの幸いとして、何年にもわたって復旧の手をつけようとせず、沿線自治体がしびれをきらして、「バスでもいいから走らせてくれ」「鉄道設備は自治体が持つから列車を走らせ区くれ」と言うまで待つという卑劣なやり方であった。只見線の「上下分離」などがその典型である。今回の攻撃によってこうしたやり方が、いわば国のお墨付きの下に極めて迅速に進むことになるのだ。
●「エリア一括」廃線化!
「ピーク時の1時間当たりの輸送人員500人未満」という、提言に盛り込まれた「基準」も歯止めになることはない。それは、通勤・通学輸送を担っている線区、とくに沿線に学校がある場合を想定したものだが、この間地方で進行した現実を見れば、むしろ「廃校」と「廃線」がセットで進められる可能性の方が大きいと考えられる。この20年、毎年540校もの小中高校が廃校化されその流れは今も止まっていないのだ。
しかもそれは単なる懸念ではない。国交省はその冒頭から「(この提言は)岸田政権が進める『デジタル田園都市国家構想』の実現に不可欠」のものだとうたっている。その「国家構想」では公共交通については、「エリア一括して運行委託する場合」に、国は地方自治体に「長期安定的な支援」を行うとしているのだ。一定のエリア丸ごと(一括して)バス転換しなければ「安定的な支援」はしないというのである。それを「遠隔教育」「遠隔医療」と一体で進めるというのがこの「国家構想」だ。
千葉で廃線化の対象とされた久留里線沿線では、4校の小学校が1校に集約されたり、3校の中学校が1校に集約されたりして、現状ですら子供たちが学校に通うことが困難になっている。地方自治体がスクールバスを出して長時間かけて子供たちを拾って学校に降ろしていくことでかろうじてなりたっているのだ。このギリギリの限界状況をさらに壊そうというのが国交省検討会路線であり、新国家構想なのである。(続く) |