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国交省・事故調の中間報告を弾劾する
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9月6日、国土交通省の事故調査委員会が、尼崎事故に関する調査の中間報告を発表した。
「『これでは家族がなぜ、どういう状態で亡くなったのか、霊前に説明できない』……遺族らは『原因究明とはほど遠い内容』と不満をあらわにした」「『何人も納得させることはできない』と原因究明が不十分な内容に不快感を示し、自ら原因究明に乗り出さないJR西日本への怒りが噴き出した」──報告書は33ページからなる「経過報告」と3ページの「建議」からなっているが、何と言ったらいいのか、とにかく酷いものだ。事故原因を運転士個人の責任に転嫁し、闇から闇に処理してしまうためにつくられた報告としか考えられない。そして、意図的な記者会見によって、マスコミには「異常運転」などという言葉だけが踊っている。
徹底的に追究されなければいけないはずの本質的な問題については、経過報告にも、建議にも、ただのひと言も言及がないのだ。
例えば、あの時間帯・乗客数で15秒停車という、信じることのできないようなダイヤ設定を行なうことによって、スピードアップや私鉄との無謀な競争が行なわれていた実態はただのひと言も触れられていない。車両の極端な計量化やボルスタレス台車の問題についても、あれだけ問題となった「日勤教育」など、運転士に対する日常的な教育や職場管理の実態についても、全く何ひとつ言及がない。
経過報告に書かれているのは、モニター装置の解析を除けば、車両や周辺の被害状況はどうだったのか、運転士の当日の勤務はどのような行路だったのか、207系車両の諸元といったレベルに過ぎない。中間報告とはいえあまりに酷すぎる。すでに事故から4ヵ月以上が経っているのだ。まさに意図的としか考えられない内容だ。
「建議」では、「構ずべき施策」として4点が指摘されているが、次のとおり、こんな事で事故が防げると思っているのかと怒鳴りたくなるようなものだ。
(1) 曲線や分岐器に対する速度超過防止用のATSの設置。
(2) 防護無線の操作の簡素化と乗務員への教育の充実(尼崎事故の後に防護無線が作動していなかったことにふまえたもの)
(3) 列車の走行状況を正確に把握する装置の設置と活用(当該運転士が速度オーバーをしていたことや、04年度にJR西日本で、ATSによる非常ブレーキ作動が46件起きているこ とにふまえたもの)
(4) 速度計の精度向上(実際の速度より4q/h低く表示される場合があることを受けたもの)
これを見ればわかるとおり、一体これがあれほどの大惨事への対策なのかと目を疑いたくなるような御粗末なものに過ぎない。
この建議を受けて国土交通省は、10月中旬までに技術的な基準を定めるよう検討したり、「運転士の資質の維持管理を充実させるための新たな制度の創設」に向けた法案を次期通常国会に提出するとしている。
政府・国土交通省は、民営化−規制緩和、市場原理による安全の切り捨てという本質に責任が及ぶことを徹底して断ち切ろうとしている。JRは経営責任に問題が及ぶことを必死でおおい隠そうとしている。JR−国交省はまさに共犯者だ。このまま黙っていたら、本質的な問題は全て隠ぺいされ、これまで以上に徹底した職場管理、締めつけだけが強化されることになるのは間違いない。そして再び尼崎事故が繰り返される!そんなことを絶対に許してはならない。闘いなくして安全なし!
―この原点を今一度胸に刻もう。
JR西日本で、尼崎事故の現場に慰霊碑を建立する計画が進んでいるという。だが、その碑文には「106名の犠牲者」と刻まれるというのだ。
尼崎事故を、何がなんでも運転士一人の責任に帰して、真の原因に追及の手が及ぶことを隠ぺいしようという意図の余り、慰霊碑まで、犠牲者の人数から当該運転士を除いてしまおうというのである。こんな卑劣がまかり通っていいのか。断じて許せない!
だが、その慰霊碑建立について、国労も含めJR西日本傘下の各労組は、抗議するどころか、組合員から一人三千円のカンパを徴収するなど、会社と一体となって推進しているという。
ここにあるのは、牙を抜かれ、企業に追従することしかできなくなった腐り果てた姿だ。許してはならない。こんなことでは再び大惨事が起こる!