進行の指示運転の問題点F
ATS開放運転・電気的鎖錠・45q/h運転
再び東中野事故が!
これまで6号にわたって「場内信号機に対する進行の指示運転」の基本的な問題点を明らかにしてきたが、問題点は他にも数多くある。
ATS開放運転!
「進行の指示運転」では、無線による指示ひとつで、ATSの開放運転が公然と指導されるようになった。
故障した信号機ごとにATS−SNのNFBを切り、あるいはATS−Pのブレーキ開放スイッチを取り扱って、保安装置が全く無い状態で運転することになるのである。
ATSのNFBスイッチは、一九八七年の大月駅事故の後、その対策
として、安易に切ることはできないように封印されることになった。
だが会社は、喉元を過ぎれば熱さ
を忘れるかのように、無線による指示ひとつでその封印を破って開放扱いをしろ、ということを教育し始めたのである。
場内信号機故障時という、最も事故の起きる可能性の高い輸送混乱時・異常時に、場内という列車衝突も含む重大事故が起きる可能性が最も高い箇所で、無線ひとつでATSを切れ、と指示するほど危険なことはない。要するに「安全よりも効率優先」「とにかく列車を走らせろ」「駅も徹底的に合理化する、駅員が居るなどと思うな」「指令から無線で指示を受けたら何でも従え」───これが一切なのである。
「電気的鎖錠」?
ポイント鎖錠の考え方が変えられたことも問題だ。これまで場内信号機が故障として代用手信号を用いる場合は、駅係員が関係転てつ器を鎖錠しなければ、列車を動かすことができなかった。
しかし「進行の指示運転」の導入に伴って「電気的鎖錠」などという考え方が規程にもち込まれた。「電気的鎖錠」とは、連動装置の制御盤やCTC制御盤などで、軌道回路表示灯(ラインライト)の表示があれば、電気的に鎖錠されていると見なすということである。これまでのように、現場でポイントを機械的に鎖錠する必要はないということだ。
だが、制御盤での確認だけで本当にポイントが鎖錠されている称することができるのか。制御盤の故障などでポイントの開通と「ラインライト」の表示がくい違う可能性は百%ゼロだと言えるのか。CTC指令などが制御盤を見るだけで「鎖錠」と称したときに、確認ミスの発生などはどう防ぐのか。ミスがあったときに運転士の責任はどうなるのか。疑問点が次々と湧いてこざるを得ない。
45q/hで運転
さらに「進行の指示」を受けた場合の速度制限が「関係するポイント45q/h以下」とされたことも問題だ。
速度規制は「閉そく指示運転」(無閉そく運転)でも15q/h以下である。危険度は、場内信号機が故障した状態のなかで列車を場内に進行させることの方が格段に高い。しかし「関係するポイント45q/hだといのだ。ポイントを過ぎれば速度は無制限である。
会社は「代用手信号と同等の位置づけによる運転だから45q/hで構わない」としているが、これまで述べてきたように、前提条件が全く違うのである。代用手信号の場合は、駅員が直接進路を確認し、ポイントを鎖錠し、信号をだすのであり、しかも進行できるのは第二場内までである。あまりの暴論と言うしかない。
ちなみに会社は、「閉そく指示運転も、国土交通省令上は40q/h以下で良いことになっているが、JR東日本は15q/h以下としている」と、安全サイドにたった対応をしているかのように言っている。
だが、そんなことをしたら間違いなく東中野事故の再来となる。
再び東中野事故が
一九八八年の東中野事故は、場内及び閉そくの停止信号に対するロングの警報を受けた場合の取扱いについて、「輸送障害を増大させることになるので、最善の注意をはらって当該信号機に近づき、その信号機の閉そく区間内に停止すること」という指示文書を千葉支社がだしたことによって起きたものだ。千葉支社は、「輸送障害を増大させないために、停止信号を越えてから止めろ」というとんでもない指示をしたのである。
その結果起きたことは、列車衝突によって、乗客と平野運転士二名の尊い生命が奪われるという痛ましい事故であった。
この指示文書は事故の後、こっそりと撤回され、別の指示文書に差し替えられたが、「進行の指示運転」は、本質的にはこれと同じ、否もっとひどい指示だと言わざるを得ない。
「進行の指示運転」や 「閉そく指示運転も40q/hでもいい」などという主張は、東中野事故を再び起こせと言うに等しいものである。
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