「更衣時間」に関するJR東日本の提案について
〜更衣時間を労働時間として取り扱う〜
JR東日本は、制服への更衣時間を労働時間として取扱うという提案を行ってきた。始業後5分間、終業前5分間を更衣時間とするという提案である。なお実施時期は次期ダイ改としている。
これは昨年3月、最高裁で「作業服や保護具の装着とその後の作業場または準備体操場までの移動時間は、義務付けられ会社の指揮命令下におかれたものであり、労働基準法上の労働時間に該当する」という趣旨の判決がだされたことに基づくものである。
提案された内容は・・・
@更衣時間の取扱いは、現行の始終業時刻内に更衣時間を前後5分づつとることを基本とし、
A乗務員や作業ダイヤ上時間内にとれない場合は、始業時刻を5分早め、終業時刻を5分遅くするかたちで更衣時間をとる(「L形勤務」という新たな勤務種別を導入)。
Bまた交代制勤務(泊勤務)で前項の「L形勤務」を適用した場合は、途中の休憩時間を10分間増やして労働時間を調整する。 |
というのが提案の骨子で、さらに更衣時間は次のような取扱いとなる。
@出勤時刻が9時のところ、9時3分の出勤して更衣を2分間で済ませ、実作業開始時刻に間に合った場合、或いは制服を着て出勤し、実作業開始時刻に間に合った場合は、欠勤・遅刻にしない。
A終業の場面も同様に、退区時刻の5分前に終業点呼が終わることになるが、2分で着替えてすぐ帰っても欠勤にはしない。 |
当然のことだ!
このように更衣時間を労働時間として見るのは常識的に考えても当然のことである。これまでのJRの対応の不当性が最高裁判決というかたちで浮きぼりになったのだ。これまでJR東日本の終業規則では「社員は、始業時刻前に出勤し、自ら出務表になつ印し・・・始業時刻には実作業に就かなければならない」などという極めて不当な定めとなっていたのだ。
これまでと比べればこの提案は確かに一歩前進であるが、JR東日本にして見れば、最高裁判決までだされてこのまま放置しておけば、過去に遡って賃金請求が行われるという事態にもなりかねないため、あわてて検討して提案したというのが実情であろう。
最高裁判決の内容
だが、最高裁判決にも、今度のJR東日本の提案にもまだ多くの問題点があるのも事実だ。
最高裁判決は、どこまでを労働時間として見るのかについては「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」ものであり、労働時間は就業規則等の定めによって決定しうるものではないことを明らかにした点で大きな意味をもっている。つまり先のJR東日本のような就業規則の定めは違法だとしたのである。
しかし、その一方では休憩時間の前後に作業服や保護具の一部を着脱する行為などについては「使用者は休憩時間を自由に使用できる状態に置けば足りるものと解されるから・・・特段の事情のない限り労基法上の労働時間には該当しない」とした。
また作業後の洗身等の時間も「洗身等を行うことは義務付けられておらず、洗身等をしなければ通勤が著しく困難とまではいえなかった」という理由で同様の判断をしている。
会社提案の問題点
JR東日本の提案について言えば、@更衣時間を「勤務したものとしてとして取扱う」とする等、他の労働時間とは区別した「みなし時間」的に
位置付けられており、最高裁判決の精神に抵抗していること、A少なくとも泊勤務における仮眠時間前後の着替え時間は労働時間として取扱うべきであること、B「L(ロング)形勤務」の導入など、
更衣時間を労働時間とした分だけ、これまで以上に長時間拘束となる場合が生じること、C交代制勤務(泊勤務)に「L形勤務」を適用した場合、途中の休憩時間を10分増やすかたちで労働時間の調整をしているが、今でも休憩時間に実際は休憩できないような現状があるなかで、実質的に休憩時間としての意味をもつものとなるのか、等の問題点がある。
1. 基本的な考え方
1勤務につき、私服から制服への更衣時間、制服から私服への更衣時間をそれぞれ5分間、労働時間として取扱う。また、安全保護具・工具類等の着装・脱離については、実作業時間内において労働時間として取扱う。
2. 具体的な労働時間の取扱い
(1)制服の更衣のため、1勤務につき、実作業時間前に5分間、実作業時間終了時刻後に5分間を、勤務したものとして取扱う。
※制服の定めのある社員については始業時刻の5分後を実作業開始時刻、終業時刻の5分前を実作業終了時刻とする。
(2)出勤したものの就業を拒否した場合の労働時間はゼロとする。
(3)乗務員勤務を適用する者については、準備時間前に5分、整理時間後に5分を「その他時間」として、運用行路表の指定する。 |
参考資料(画像)
@新勤務形適用の選択肢/A新しい労働時間のイメージ図
A新しい労働時間のイメージ図
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