トルコにおける労働組合結成の現実と課題:制度的障壁と労働者の闘い
はじめに:労働者の権利とトルコの現状
現代の労働環境において、より高い賃金、良好な労働条件、社会保障、そして雇用の安定(仕事の保障)を手に入れるための最低限の条件は、労働組合に加入し、団体交渉協約(労働協約)の適用を受けて働くことである [00:26]。トルコの「労働組合および団体労働協約法」は、労働者に対して組合を結成する権利、組合に加入する権利、そして団体交渉を行う権利を法的に認めている [00:37]。
労働者が組合に加入する際の手続き自体は、表面上は非常に簡素化されている。政府の電子サービス(e-Devlet)にログインし、自分が働く事業所の属する産業部門(業種)で権限を持つ組合のリストを確認し、その中から一つを選んで加入手続きを行うだけで完了する [00:49]。
しかし、このような簡易な手続きが存在するにもかかわらず、最も誇張された統計(公式発表)においてさえ、トルコにおける組合加入労働者の割合はわずか14%前後にとどまっている [01:11]。この数字は、トルコの労働者が組合による権利保障を望んでいないことを意味するのだろうか。決してそうではない。トルコ全土で繰り広げられている組合結成の試み、ストライキや抵抗運動、そして組合闘争に身を投じる労働者数の増加は、労働者たちが「組合に入り、組合のある環境で働きたい」と強く願っていることを明確に示している [01:23], [01:33], [01:44]。
労働者が組合を求めているにもかかわらず加入率が低い最大の理由は、組合結成や活動を著しく困難にしている「法的な障壁」と「事実上の妨害(実態としての障壁)」が立ちはだかっているからである [01:44]。世界中のどの国でも労働者の前には一定の組合規制や障壁が存在するが、トルコにおける障壁は他国に比べて極めて高く、複雑で、労働者にとって過酷なものとなっている [02:01]。
1. トルコにおける労働組合結成を阻む「二重の障壁」
トルコで組合が会社(事業所)側と団体交渉を行い、協約を締結する「正当な権限(特許)」を得るためには、法的に設定された厳しいハードルをクリアしなければならない。これが「産業部門障壁」と「事業所障壁」の二重の構造である。
① 産業部門(業種)別の最低組織率障壁(全国バー)
トルコでは、その組合が該当する産業部門(例えば金属、繊維、化学など)で働く全労働者の少なくとも1%以上を組織(組合員化)していなければ、そもそも団体交渉の権限(特許)を申請することすらできない [02:19]。全国規模での最低シェアを要求されるため、特定の地域や特定の企業だけで強固な組織を作っても、全国での比率が1%に満たなければ法的な交渉権は与えられない。
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他国との比較: イギリス、米国、イタリア、ベルギーなどの国々には、このような「産業部門別の一律の最低組織率障壁(バー)」は存在しない [02:41]。例えば米国では、団体交渉の単位(ユニット)として指定された一つの事業所、特定の部門、あるいはセクター内の労働者が結集すれば、自分たちの組合を結成し交渉を行うことができる [02:52]。
② 事業所(企業)単位での過半数障壁
全国の産業部門で1%の障壁をクリアしたとしても、次に個別の事業所で権限を得るための高いハードルがある。トルコの法律では、特定の事業所で組合が団体交渉権を得るために、その事業所で働く全労働者の「50%+1人(過半数)」の支持(加入)を集めなければならない [03:03]。
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他国との比較: イギリスなどでは、組合が事業所全体で一律に過半数を確保する必要はない。工場内の異なる部門、特定の職種、あるいは別々の事業所(キャンパス)ごとに「団体交渉ユニット(単位)」を柔軟に設定することができる [03:13]。そして、その指定されたユニット内で50%の労働者が組合に加入していれば、その範囲における団体交渉の権限が認められる [03:25]。トルコの一律的な過半数要件は、非正規職の混在や企業の肥大化に伴い、達成が極めて困難な条件となっている。
2. 行政手続きと使用者による司法を利用した「引き延ばし戦術」
仮に組合が上記の厳しい条件をクリアし、事業所内での組織化に成功した場合でも、すぐに団体交渉が始められるわけではない。ここからさらに、行政と使用者(経営側)による二重の妨害プロセスが始まる。
① 労働社会保障省への申請と経営者の異議申し立て権
組合は事業所で組織化を達成した後、労働社会保障省(Bakanlık)に対して「当該事業所における権限のある組合であることの確認(認定)」を申請しなければならない [03:36]。行政がこれを認めると通知を出すが、トルコの制度では、使用者側が行政の決定を認めず、組合に与えられた権限に対して「意義申し立て(抗議)」を行う法的権利が認められている [03:45]。
② 裁判の長期化と「組合潰し(解雇)」
経営者が異議を申し立てると、舞台は労働裁判所に移る。この裁判手続きは非常に長期化し、数ヶ月から数年に及ぶケースがほとんどである [03:45]。裁判が長引いている間、団体交渉は凍結される。そして最悪なことに、この法的係争の期間を利用して、経営側による「組合指導者や加入労働者の不当解雇・嫌がらせ」という直接的な組合潰しの攻撃がほぼ確実に発生する [04:01]。裁判が決着する頃には、職場内の組合員が解雇や恐怖によって一掃されていることも少なくない。
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他国との比較: ドイツ、フランス、イギリス、スペインといった多くの欧州諸国では、使用者が組合の交渉権や正当性に対して直接的に異議を申し立てる法的権利は原則として存在しない [04:14]。多くの国において、組合が交渉権を持つかどうか(代表性があるか)の決定権は、使用者ではなく「労働者自身の意思(投票など)」に委ねられている [04:18]。
3. 組合加入率と団体協約適用率の「ねじれ」:フランスとの対比
トルコの労働環境のもう一つの深刻な歪みは、「組合に加入していても、団体協約の恩恵を受けられない労働者が多い」という点である。
トルコにおいて、労働組合に加入している労働者のうち、実際に団体交渉協約(労働協約)の恩恵(高い賃金や権利保障)を受けられているのはわずか65%にすぎない [04:28]。残りの35%は、組合費を払い組合員でありながらも、前述の「1%バー」や「50%+1人バー」、あるいは経営側の裁判引き延ばしによって、協約が締結できない状態に置かれている。
これに対し、ヨーロッパ諸国(フランス、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなど)では、「団体協約の適用を受ける労働者の数が、組合に加入している労働者の数を大幅に上回る」という現象が起きている [04:42]。
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フランスの例: 労働組合の組織率(加入率)はわずか8%程度である。しかし、法制度(拡張適用制度など)によって、全労働者の98%が組合の勝ち取った団体協約の適用を受け、その恩恵を享受している [04:54]。
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ベルギーの例: 組合組織率は50%であるが、団体協約の適用率は96%に達している [05:09]。
欧州では、特定の組合が結んだ良質な労働協約が業界全体や未加入の労働者にも広く「拡張」される仕組みがあるため、個々の事業所で過酷な闘争をしなくても労働者の権利が底上げされる。一方、トルコでは「組合員であること」と「協約の恩恵を受けること」の間に厚い壁が存在する。
4. 歴史の教訓:かつて広く認められていた労働者の権利
なぜヨーロッパの労働者はこれほど広い権利と自由を持っているのか。それは、過去において労働者たちが団結し、自らの手でこれらを勝ち取るために激しく闘争してきた歴史があるからである [05:09]。
そして、この「闘争による権利の獲得」は他国の話だけではない。トルコ自身も、かつては今よりも遥かに進んだ労働権利を有していた時代があった。
具体的には、1960年から1980年にかけての20年間、トルコにおける労働組合の権利と自由は、現在よりもはるかに広範で強力なものだった [05:20]。この時代、トルコの労働者階級は強い団結と連帯(ソリダリティ)を保っており、資本家階級(経営者・資本家側)に対して「組織された強力な力」として対峙することができていた [05:33]。
1980年の軍事クーデター(動画内では1980年までの期間として言及)以降、資本家側の要請によって現在の労働組合法や数々の「バー(障壁)」が導入され、労働者の力は意図的に削がれていった。つまり、現在のトルコの厳しい労働規制は、最初から存在したものではなく、労働者の分断を目的に後から作られた政治的・階級的な産物なのである。
5. 結論:こうして始まったわけではない、だからこのまま終わらせない
動画のタイトルでもある「Böyle gelmedi, böyle gitmeyecek!(これまでもこうではなかった、これからもこのままではない!)」という言葉には、労働者階級の強い決意が込められている。
歴史が証明しているように、労働者を縛る法律や規則、組合結成を阻む数々の「バー(障壁)」や障害は、決して固定された不変のものではない [05:33]。過去の支配階級が労働者の力を恐れて法律を変えたのであれば、労働者が再び団結すれば、その法律や壁を打破し、変革することは十分に可能である [05:33]。
労働組合の権利、そして労働者の自由の本当の源泉であり、最大の保証となるものは、国家の法律や電子システムの便利さではない。それは、労働者自身の「団結(Birlik)」「連帯(Dayanışma)」、そして「闘争(Mücadele)」である [05:46]。
トルコの労働者たちは、現在の不当な制度的障壁に屈することなく、全国での抵抗運動を通じて、より良い未来、組合のある人間らしい労働環境を勝ち取るために、今もなお闘い続けている。


