DC通信No.120 08/02/15
崩れ落ちるJR民営化体制
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動労千葉新聞−新春座談会C
崩れ落ちるJR民営化体制
反合・運転保安闘争のさらなる発展を!

小倉邦夫さん
大竹哲治さん

 国鉄分割・民営化から20年が経過する中で矛盾が噴出するJR体制について、小倉邦夫交渉部長、大竹哲治貨物協議会議長に伺いました。聞き手は、関道利共闘部長。 (文責・編集部)

列車を安全に動かすという視点が全くない

 国鉄分割・民営化から20年を経て、JRは矛盾の固まりのようになっています。安全の崩壊、列車がまともに動かなくなる寸前と言ってもいい技術継承の崩壊や要員問題の矛盾の噴出、革マル結託体制の崩壊など、08年はJR体制の矛盾が爆発的に噴き出す年になろうとしています。
小倉 要員問題、技術力の崩壊が分割・民営化の最大の矛盾でしょう。列車の運行を確保するのにどれだけの要員が必要かは会社だって知っているはずなのに、頭が全部コストダウンと要員削減、スピードアップにいっている。だから尼崎事故まで行き着いた。それだけじゃなくて、外注化やメンテナンス近代化の結果、レールが折れたり、工事ミスや信号機故障で列車を3時間も4時間も停めてしまうようなことが何度も起きている。保線も、信通も、電力も、検修も、駅も、全部外注化してしまえって構えだから、20年間ちゃんと要員配置も、技術力の継承もしていない。もう限界に来ている。一つの円になっていた歯車の歯をどんどん削っちゃえばガクン、ガクンと回らなくなるのは当たり前。列車をいかに安全に動かすかという視点なんか全くない。
大竹 運転士だけは多少養成してきたけど、その運転士だって年休もとれないような状態。これじゃ事故が増えますよ。貨物の場合は、4週8休で組まなければいけない運転士の交番を苦肉の策で4週7休で組んでいる。余った休日は年末年始やゴールデンウイーク、お盆で運休がでた所で消化しようという案なんです。でも、顧客が発注してくれば1両でも2両でも走らせるから運休がでないんだよね。それで特休を消化できないから4半期毎に買い上げるようなことをやっている。
小倉 東日本でも、勤務指定の段階で休日勤務をやらせないと仕事が回らないことがある。研修だとか業研だとか入ると、もうそれで回らなくなる。
 とくに、営業関係はもう要員がパンク寸前。グリーンアテンダントとか、グリーンスタッフなんて年中募集しているでしょう。だいたい1年もたないで辞めちゃう。グリーン車の車掌を外注化したけど、アテンダントの1期生は全員辞めて一人も残っていない。そんな現実なのに、今度は去年から駅員の全面的な外注化を始めた。さらに、運転士を駅にタライ回ししようという発想で「ライフサイクル提案」が出てきたけど、これもパンク。一体どうなっちゃうのか。何でもやみくもに外注化すればいいんだとやってきたつけが回ってきている。
大竹 貨物でも、京葉臨海が誘導や機関車の入換をやっている。本体でやっているのは信号所だけ。貨物は要員関係は東よりもっと逼迫しています。助役の数も足りないから、組合員が内勤で泊まっている。新小岩は、日中は対面点呼なんだけど、夜はテレビ点呼。千葉機関区の運転士の交番は26人で回っているんだけど、今まで4人いた予備が今は2人しかいない。しかも職場で一番若手が44歳。理由は千葉に配属したら動労千葉が増えちゃうから。

すべての犠牲を労働者に転嫁するな!

小倉 運転職場は365日、必ず人がいないと仕事が回らないけど、駅はもっと酷いね。例えばこれから雪が降った時など、カンテラ入れるのも間に合わずにポイントが凍っちゃうとか必ず起きてくる。小さい駅なんか泊まっているのは1人か2人。あれは2人でないとできないから、窓口閉めないと対応できない。「管理駅から応援を送る」という言い方をしているけど、何分かかって誰が来るんだという決まりも全くできていない。列車の運行はもうメチャクチャになっている。去年も実際あった。上総一宮でポイントが凍って、駅では対応ができず、茂原から応援を頼むことになったんだけど、時間がかかって結局止まっちゃった。
 急病人が発生しても、「そこは委託駅だから管理駅まで行ってくれ」なんて言われて命を落とした事例だって発生したわけだよ。千葉以東はほとんど無人駅か委託駅。駅員なんていない。深刻な問題だよ。
大竹 これは始めから分かっていたことなんだよね。「赤字だから黒字基調にしなければいけない」と言って、大量退職時期が続くのに新採をとらなかった。とくに貨物は、列車が乱れた時なんか、代替要員を送る余裕がないから、日勤が泊りになったり、機関車の中に閉じこめられたまま二泊するなんてことが結構ある。人がいないから我慢せざるを得ないんだよね。
小倉 別会社だって意識だから、指令も貨物列車はほったらかしちゃう。運転台に閉じこめられたまま寝る場所もないんだから。異常時の問題も含め、今の体制でいいのかということを考えなければいけないね。
大竹 貨物会社は「体力がない」って言い方で、民営化の時の設備や機関車をずっとそのままにしてきた。だけどそれも限界で、今、税金の優遇措置があるうちに車両なんかを更新しちゃえということでどんどん設備更新をしているんだけど、それがさらに労働者の賃金を抑えつけるための口実にされている。貨物は8年ベアゼロ。その前だって100円、500円だから、もう10年ぐらいベースアップがない。若い人はこんな賃金じゃ結婚もできない。乗務員手当も改悪されて年収が減っているし、賃金制度まで変えようとしている。すべて犠牲を現場に転嫁するというのが許せない。
小倉 会社は「労働者の多様なニーズに応えるため」とか「働き方の多様化」とか巧いことを言うんだよ。だけど実際は、会社にとって都合が良い働き方をさせていかに利潤を稼ぐかしか考えていない。平成採がなかなかうちの組合に来ないのは、自分らは今のままで給料が上がっていくと思っているんだよ。だけど現実には、賃金制度の見直しだとか、特殊勤務手当は全廃するとか、そんなことはあり得ない。やはりNOと言える組合でなければダメなんだよね。

安全のためにコストがかかるのは当たり前

2005年4月の「尼崎事故」。107名の尊い生命がJRによって奪われた

小倉 この間、動労千葉は「闘いなくして安全なし」を合い言葉にずっと闘ってきて、レールをかなりの距離交換させたけど、俺はそれで済む問題じゃないと思っている。実際、レール破断は、メンテナンスコストを下げるために、外注化して保線区を潰すとか、巡回周期を延伸したことのしわよせ。やっぱりコストなんて言いだすと運転保安は絶対後退する。今はカーブが静かになったでしょう。ガガガガって音がしなくなった。あれ、今まで全部そこに傷がはいっていた。レールが歯車みたいにガリガリ。あんなの今まで経験がないよね。レールがフランジの形に削れているなんていうのも経験がない。とにかく酷かった。とくに「基準値内」と言われるのが一番納得できない。レールがあんなに削れちゃってるのに、会社は「基準値内だからいい」という。
大竹 貨物の場合、列車のスジが入らないから、重量列車で高速で大量に一気に運ぼうという発想だから、もっとレールを痛めるんじゃないか。
小倉 レールの問題についてはさんざん団交もやったし、いろんな文献も調べたけど、結局は俺らが主張したとおりみたいだね。要するにスピードアップとボルスタレス台車・軽量化がレールを痛めつけている。そこに外注化、周期延伸を強行したもんだから一変に事態は悪化した。
 安全のためにはコストがかかるのは当たり前なんだよ。それを無駄と見るか、必要経費と見るかなんだよ。民営化の結果、それが全部無駄と判断されるようになった。
 幕張の構内事故だって、安全に金をかけなかった結果ですからね。
小倉 今、どこの職場もそうだけど、現場の労働者に責任をおっかぶせればいいという発想になっている。例えば自動起床装置が作動しなくて出勤遅延したことまで本人の責任。こんなのは会社の管理責任でしょ。そういうやり方を一つ一つ戻させる闘いをやらなければならない。そのへんを若い人にもっと分かってもらいたい。国鉄だって100年の歴史があって、安全確保のために何が必要か、地道に築きあげてきたものがある。それをJRになったら、何もかも否定するみたいな発想自体が間違い。
大竹 あくまでも安全が基本だから。会社は「安全は輸送業務の最大の使命である」と言うけど、そこまで言うんだったら、安全な輸送ができる体制をつくれ、必要な要員を配置しろっていうのが俺らの要求で、安全はお題目じゃないんですよ。本当は会社はそういう責任を負っているわけですよ。
小倉 安全を言葉の遊びにしちゃダメなんだよ。会社も東労組も「責任追及から原因究明の会社になります」なんて言うけど、原因究明だといってやっているのは、基本動作をやっていないからだとか、労働者に責任を押しつけているだけでしょう。それで会社の責任は絶対追及しない。130q運転で、何秒かに1回ずつ指差換呼やらなければならないような決まりをつくっておいて、何が指差換呼だと。ふざけんなってことだよ。安全という言葉をもて遊んじゃいけない。
大竹 誰だって事故を起こそうと思って起こすわけじゃない。事故はいつ起きるかわからないけど、動労千葉は運転保安に関しては第一に取り組んでいる組合だし、もし事故を起こしても全体で守ってくれるということが心の中にあるから安心して仕事ができている。眠たい目をこすりながら、みんな誇りをもって一生懸命仕事をしていると思いますよ。
小倉 労働組合が会社の追認機関みたいになっていたら安全は保てない。動労千葉が言っている「闘いなくして安全なし」というのは、そこだと思うんだよ。労働組合として動労千葉はその責任を果たして一番痛いところを突いているから会社は嫌がるんですよ。

JR東日本と革マルの結託体制が崩壊!

 昨年は、ついにJR東日本と東労組の結託体制も崩壊して東労組が分裂しました。
小倉 会社がついに革マルを切り捨てるという判断をして、東労組は三六協定問題でも、本部と分会でごちゃごちゃになって、会社にまるっきり足元を見られていたよね。会社が浦和事件の6名を懲戒解雇したことで決定的になったんだけど、これはまだ第一幕だよね。今年は間違いなくもっと大きな事件が起きて職場は大揺れになると思う。会社も20年間労務政策を革マルに丸投げしてきたから、ちゃんと労務政策をやる体制がない。そういう中で、労働者とは何なのか、労働組合とは何なのかってことを若い人たちに話していかなくちゃいけない。いい子ぶるのはもうやめよう、言うべきことを言える労働者にならないとダメだってね。大変な課題だけど、JR体制の矛盾に立ち向かって組織拡大を実現できるかどうかが08年の最大の課題ですね。
 今日はありがとうございました。


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