DC通信No.94 06/03/07
「第2の分割・民営化攻撃」
と安全の崩壊

DC通信目次 

06春闘職場討議資料bR
ニューフロンティア−「第2の分割・民営化攻撃」と安全の崩壊
安全運転闘争から06春闘ストライキへ!

■メンテナンスコスト削減

 JR東日本ではこの間、「修繕費」が徹底して削られ続けてきた(グラフ参照)。04年来のレール破断の多発は、その必然的結果に他ならない。
 きっかけとなったのは本州JR3社の「完全民営化」であった。2001年にそれまでは半分政府が持っていた株式を全部売却し、政府の規制を離れて、完全に民営会社になったのである。
 JR東日本は、これに合わせて「ニューフロンティア21」という中期経営構想=大合理化計画を発表した。ここでうたわれたのが「メンテナンスコストを徹底的に縮減する」「5年間のうちに2000億円まで削減する」という方針であった。
 それ以降、この号令のもとに、JR東日本は、しゃにむにメンテナンスコスト削減に突っ走り、グラフのように、5年どころか、4年後には1969億円まで削り込まれたのである。

■根本が変わった!

 われわれは、「第二の分割・民営化攻撃」と呼んだが、このニューフロンティア21計画以降、JRという会社のあり方は根本のところで変わってしまったといえる。
 何よりも、「鉄道事業」の位置づけが事業戦略の3番目の位置に落とされ、第1は、駅空間を利用した金儲け(ステーションルネッサンス)とされ、第2は「ITを活用した新たなビジネスモデルの開発」とされたのである。
 実際この5年間、JR東日本が全力でやったことは、駅をショッピングモールのようにするための工事であり、「スイカ」を電子マネーにしてコンビニなどで使わせるという事業であった。
 そして「株主価値重視経営」とか、「キャッシュフロー1800億円」「1万人要員削減」等というかけ声だげが叫ばれるようになった。鉄道会社としての根本が失われ、「安全」などは全く眼中には無くなったのである。

■鉄道事業の切り捨て

 一方、鉄道事業部門で進められたのは、業務の外注化を軸とした、まさに嵐のような大合理化攻撃であった。
 保線・電力・信通・土木等、設備関係事業は丸投げ的に外注化され、千葉では今も阻止し続けているが、検修・構内業務も逐次外注化された。さらには「車両メンテナンス近代化第V期計画」によって、習志野電車区の廃止や幕張車両センターの縮小をはじめ、各地の検修区や工場が廃止・統合・再編され、保線でも、検修でも、検査周期や巡回周期が大幅に延伸された。
 駅の委託外注化も、日勤駅、1徹駅と進み、来年からは、2〜3徹駅は「一括外注」、比較的規模の大きな駅も、管理業務と運転取扱い業務以外はすべて契約社員に置き換えるという攻撃が始まろうとしている。そして「グリーン担当」を皮切りに車掌業務の外注化まで開始されている。
 これがこの5年間に吹き荒れた攻撃であった。外注化とは熟練労働者とその技術力を切り捨てるということだ。保線〜電力〜信通〜検修〜駅に至るまで、様々な状況への判断力をもった労働者が現場から居なくなることを意味する。それどころか、JR東日本は、安全を守り、鉄道を動かすことそのものを外注化してしまおうとしているのだ。


相次ぐレール破断 00〜06
日時
発生場所
00/11/22 JR北海道 室蘭本線 破断 開口25o
01/07/14 JR東日本 東北線 継目板破損
01/10/ JR東海 東海新幹線 破断
01/12/31 JR東日本 高崎線 破断
03/01/14 JR東日本 横浜線 破断
03/01/08 JR西日本 京阪線 破断
03/2/7 JR東日本 東北線 破断
03/03/3 JR北海道  室蘭本線 破断
04/01/24 JR東日本 信濃鉄道 破断 開口10o
04/01/07 JR東日本 総武快速線 破断 開口22o
04/01/13 JR東日本 津田沼電車区構内 破断 16o
04/05/24 JR東日本 総武緩行線 破断 開口15o
04/11/15 JR東日本 中央線 破断
05/01/07 JR東日本 奥羽線 破断
05/01/23 JR西日本 関西線 破断
05/02/13 JR東日本 総武快速線 破断 開口30o
05/02/27 JR東日本 鹿島線 破断 開口40o
05/03/03 JR東日本 成田線

継目板ボトル折損 開口30o

05/03/14 JR西日本 東海道線 破断 開口10o
05/03/16 JR西日本 尼崎線 破断 開口7o
05/05/12 JR西日本北陸線能生駅 継目板破損
05/10/03 JR東海 東海道新幹線 長さ30o深さ6o傷
05/10/26 JR東日本 JR東北線 破断 開口15o
05/11/08 JR東日本 秋田新幹線 破断 開口 40o
05/11/16 JR東日本 篠ノ井線 破断 開口10o
05/12/05 JR東海  東海道新幹線 破断 開口21o
06/01/01 JR西日本 関西線 破断 開口2o
06/01/06 JR東日本 川越線 破断 開口量6o
06/01/07 JR東日本 総武緩行線 破断 開口20o
06/01/16 JR東日本 京葉線 継目板破断
06/01/20 JR東日本 上越線 破断
06/01/24 JR西日本 呉線 継目板破損

■レール破断後もさらに削減

 羽越線事故や、全国各地でレール破断が多発するという非常事態は、こうした経営戦略の必然的結果に他ならない。これだけスピードアップし、レールを痛めつける軽量化車両を投入し、なおかつ修繕費を大幅に削り込んで安全が保てるはずはない。2月20日に山手線でレールが沈んだ事故も、マスコミは「熟練工切り捨てのツケ」と報じている。
 1ページのグラフをもう一度見てほしい。レール破断が始まったのは、04年の年頭からだ。つまり03年の年度末からである。それでもJR東日本は、05年度まで「修繕費」を削り込み続けたのである。
 われわれはストライキや安全運転闘争にたちあがって抜本的な安全対策を求め続けたが、多少なりとも「修繕費」を増額したのは06年度からである。それも、当初計画は2100億円であった。尼崎事故があり、107名の生命が奪われて、われわれが100日に及 ぶ安全運転闘争にたちあがることを通して、ようやく、さらに60億円増額し2160億円になった。

■安全運転闘争の大きな成果

 その意味で、これは本当に大きな成果である。だがわれわれは、安全を徹底して無視・軽視するJR東日本という会社の経営姿勢に対し、あらためて腹の底から怒りの声をあげなければならない。JR西日本で107名の生命が失われてなお「東日本の安全対策は問題ない」と言い続けていたのだ。そして羽越線事故が引き起こされ5名の生命が奪われた。レール破断がこれだけ多発しているにもかかわらず、今も「レールが折れても信号は停止現示になるので安全上問題はない」と言い続けているのだ。
 その一方、われわれが実施した安全運転闘争に対しては、何千人という管理者を動員して、監視・現認し、処分し、圧殺することに腐心した。組合潰しのためには何でもやるが、安全のためのコストや人は極限的に削りこむ。これがJR東日本の現実である。
 結局は、闘いの渦中で、JRに対する無数の抗議の声が沸騰するなかで、ようやく60億円の予算を上乗せしてレールを交換し始めたに過ぎない。

■分割・民営化の矛盾の噴出

 安全が危機に瀕している現状をいかに見るのか、という問題が非常に重要だ。
 尼崎、羽越線、伯備線、レール破断の多発等、様々な現象をとって表れている「安全の崩壊」は、単に個々の問題ではなく、分割・民営化以来蓄積されてきた矛盾(スピードアップ、コスト削減、大合理化・要員削減、規制緩和、現場に依拠したこれまでの運行システムの否定、熟練労働者の排除……、等々)が、20年を経て、ついに爆発的に噴き出しているという認識を持たなければならない。
 この間指摘し続けてきたとおり、問題は山のようにある。だが、運転保安の危機をもたらしている最大の問題は、つきつめたところ二つだ。第1に無謀なスピードアップ。第2に鉄道輸送にとって根幹をなす業務の全面的な外注化である。

■労働組合の問題

 もうひとつはっきりさせなければいけない問題がある。それはこの現実に対し、労働組合が何をやっていたのかという問題だ。
 東労組は、保線業務の全面的外注化も、検修・構内業務の外注化も、車両メンテナンス第V期計画も、検査周期の延伸も、会社の手先になって、すべて提案どおり右から左に丸呑みしてきた。会社と東労組の「友好」な関係を守ること、それだけが目的であった。東労組の革マル役員らは、自らの地位や立場を守るためだけに、職場の労働者を犠牲にし、乗客を犠牲にして会社にこびへつらっている。
 尼崎であれほどの大惨事が起きても、「責任追及はより原因究明を」などというペテン的なスローガンを掲げ、会社の責任は絶対に追及しない。「原因究明」とは、安全を無視・軽視する企業の責任を追及し、それと闘うことと表裏一体の問題だ。彼らがやっているのは、「原因究明」と言いながら、労資一体で真の原因を隠ぺいし、会社を擁護するという犯罪的行為である。しかもその裏で、当該の労働者だけは常に徹底的に責任を追及されているのに、それに対しては何も言わないのだ。
 今や、鉄産労はもちろんだが、国労も大同小異のところまで転落してしまっている。国労まで、東労組と同じに「責任追及はより原因究明」などと言い始めている。
 尼崎事故で107名の生命が奪われ、羽越線事故で5名の生命が奪われ、伯備線事故で3名の生命が奪われているにも係わらず、労働組合が抗議の声すらあげないのだ。多くの人命を奪った責任は、闘わない労働組合にもあると言わざるを得ない。

■徹底した要員削減!

 東労組から国労まで、資本の手先となり、あるいは闘いを放棄して、あらゆる合理化を認めてきたことによって、JR東日本では、この5年間、激しい要員削減が続いた(グラフ参照)。1年間の総額人件費はこの5年間のうちに実に850億円減少している。その一方で、経常利益は、毎年会社発足以来の記録をぬりかえ、わずか5年間で1152億円・218%増加している。   その莫大な利益の増加のほとんどが人件費の削減と、安全を切り捨て、コストを削減したことによるものだ。
 現場で働く労働者には果てしない労働強化がのしかかり、人件費削減のために多くの仕事が外注化され、安全の崩壊となってその矛盾が噴出して乗員や乗客の生命を奪う。これが民営化のもたらしたものだ。またこの過程で、2002年に強行された安全に関する規制の抜本的な緩和も、それに拍車をかけた。もうこれ以上こんなことを繰り返させてはならない。

■無謀なスピードアップ

 こんな状態のなか、運転士には、限界ギリギリのスピードアップが強制されている。成田エクスプレス(NEX)の運転時分は、東京〜成田間の運転時分が53分まで短縮された。最高速度130q/hを出すことができる直線区間は、ギリギリまでノッチを上げて「定速」に入れ、最高速度を維持しないと時間どおり運転できない状態だ。それでもちょっと気をぬくと遅れてしまう。総武快速線も、この間のスピードアップで、東京〜千葉間の運転時分は39分まで詰められた。大惨事を起こした福知山線と全く変わらない現実がいたるところにある。いつ事故が起きてもおかしくない状況だ。
 しかもレールは経験したこともないほど傷み、これまでの「通過トン数管理」が通用しない事態に至っている。

■「基本動作の徹底」!

 こんな現実を押しつけておきながら、現場の運転士に対し、会社が20年間、十年一日のように繰り返し「指導」し続けたことは「基本動作の徹底」だけであった。どんな事故が起きても、すべて「基本動作の徹底」だけで済ますという姿勢。尼崎事故の後も同じであった。これは「無能の極み」としか言いようのないものだ。結局、労働者への締めつけだけを唯一の手段にしてこんなダイヤを維持しようとしているのである。
 たが、実際の乗務の実態は「基本動作」などできようもない現実にある。「指差換呼」ひとつとっても、ものすごいスピードアップのなかで、信号、曲線やポイントの制限、番線等、「基本動作」なるものを全てやり続けたら、乗務中ずっと声を張り上げ続けることになる。「換呼」を自己目的化しない限り不可能なことだ。人間の集中力には限界がある。そんなことをしたら逆に危険極まりないことになる。
 停車時分は、運転士と車掌が、基本動作どおりやったら、客扱い時間無しでも20秒以上かかる。しかし会社は「15秒停車」というダイヤを設定しているのだ。
 検修職だって同じである。少なくとも国鉄時代は、加修した箇所を別な者が「後検」を行なうのはまさに基本動作であった。しかしJRになってからは、「責任施工」などという名の下に「後検」もしなくなった。「人間はミスを犯すものだ。もしミスがあったらどうするのか」と言うと、「だったら自分でもう一度見ろ」という、これが現在のJRの姿勢だ。

■できることはひとつ!

 われわれは、この間の安全の危機に対し、抜本的な安全対策を求めて様々な具体的要求を提出し、闘い続けている(春闘職場討議資料@参照)。
 しかし、つきつめたところ、安全を守るためにわれわれ自身にできることはひとつしかない。スピードを出さないこと、危険だと感じたら列車を止めることだ。
 検修職では、危険な車両は徹底的に検査・修繕し、納得がいくまで走らせないことである。
 こうした闘いを背景としなければ、安全な速度へのスピードダウン、そのために必要な要員、線路改善等の要求等を、今のJRにのませることができるはずはない。

■反合・運転保安闘争路線

 反合・運転保安闘争は、動労千葉の原点である。われわれはこの闘いの中から生まれ、それを譲らなかったからこそ、固い団結を守りぬくことができた。
 「闘いなくして安全なし」・・・これがわれわれの綱領的スローガンだ。その核心は、一言で言えば、「安全の確立」は、労働組合の闘いによって資本に強制する以外に、実現するいかなる方法
もないという立場にたちきったということだ。
 いかにきれい事を並べようが、企業の目的は利潤追求だ。資本主義社会にあって、企業がつねに安全を無視・軽視するのは、ある意味で当然のことだ。カネばかりかかって利潤を生まない分野はつねに切り捨てられる。その最たるものが「安全」である。逆に資本が不断に労働者に強制し続けるのは合理化とコスト削減だ。
 最近は、東労組だけでなく、国労まで「労使の信頼なくて安全なし」などと言うが、そんなことは百%ウソであり、ごまかしだ。「事故や安全の崩壊は合理化やコスト削減の結果である」と訴えて労働組合が闘わずして安全が確保されるはずはない。

■鉄道に働く労働者と「事故」

 しかも、労働組合が「事故」という問題と向き合って闘わなければ、結局どんな事故も、事故の本当の原因は隠されて、当該の運転士ひとりの責任に転嫁されて終わることになる。現実にこうしたことが山のように繰り返されてきたのだ。これはつねに二者択一的に
突きつけられ続けてきた問題で、われわれはそれだけは絶対に許すことができないという立場にたってきた。
 鉄道に働く者にとって「事故」は誰ひとり避けて通ることのできない問題だ。運が悪ければ、生命を失い、逮捕され、そうでなくとも当局から徹底的に追及されて処分され、「タルミ運転士」などどマスコミから袋叩きにあう。これが現実だ。
 多くの乗客の生命もひとりの肩に重くのしかかっている。鉄道に働くすべての労働者が「明日はわが身」という状況のなかで働いていながら、こうした仲間を守って闘うことができなくて、鉄道の労働組合と言うことはできない。

■反合理化闘争の新たな地平

 運転保安確立の闘いの本質は、反合理化闘争だ。反合闘争は資本の本質と真正面から衝突する闘いだ。だからこそ反合闘争を本気で闘いぬくことができるか否かは、労働組合にとってまさに試金石であり、ここで屈した労働組合は全て腐っている。
 われわれは、安全問題こそ資本の最大のアキレス腱であり弱点であると見すえて、ここにこだわり続けることで反合闘争の新たな地平をつくりあげた。だからこそ今の動労千葉がある。だから、反合・運転保安闘争はわれわれにとって単なる戦術ではなく、団結の中心をなす綱領的路線となった。
 この原点に返り、安全運転闘争−06反合・運転保安春闘ストライキを闘いぬこう。

■歴史の分岐点!

 われわれは今、歴史の分岐点にたっている。憲法改悪が国会審議の日程にのぼろうとしている。政府は、改憲のための国民投票法案や教育基本法改悪案をあくまでも今国会に上程しようとしている。
 労働者の権利は虫けら同然だ。文房具や給食費の補助を受けなければ学校に行けない子供たちがすでに130万人。東京や大阪では4人にひとりだ。国民健康保険の掛け金払えなくて保険証を取り上げられた世帯が30万世帯にのぼる。民営化−規制緩和−競争原理政策がこんな社会をつくったのだ。
 そしてそれが尼崎や羽越線で多くの労働者の生命を奪ったのだ。問われているのは労働組合だ。労働者の団結と
生活を破壊する民営化攻撃を許すな!
憲法改悪−戦争への道を阻止しよう。

▼闘いなくして安全なし!二度と尼崎 事故、羽越線事故を許すな! 全組合 員の力で反合・運転保安闘争を復権 させ、JR体制を打倒しよう。

▼幕張車両センター縮小・錦糸町派出 廃止、京葉運輸区廃止−基地統廃合 攻撃を許すな! 検修・構内、駅、車掌 業務等の外注化阻止!


DC通信目次 DORO-CHIBA