安全が最深部から崩壊ーー山手線電化柱倒壊事故は何を示しているのか

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安全が最深部から崩壊

山手線電化柱倒壊事故は何を示しているのか

(一)電化柱倒壊事故に関する調査結果

▼表面的な原因の指摘に終始

重大事故が頻発している。JRの安全が最も深いところから崩れ落ちようとしている。
JR東日本は8日、先月12日に起きた山手線電化柱倒壊事故についての調査結果を発表した。▼「架線の設備工事に伴う強度計算を誤った」▼「何度も傾きを確認していながらそれを放置した社員の判断も問題だった」(事故の二日前から支柱の傾きに気が付いていただけでなく、わずか1時間前にも大きく傾いているのを現場で確認していながら『すぐ列車の運行を止める必要はない』と判断していた)▼「ワイヤを外してからはりを撤去するという車内の標準手順も踏まれていなかった」▼「ワイヤを土台のすぐ上ではなく、地面から高さ2メートルの位置に結びつけていたことも強度を弱めた」▼「支柱の傾きに応じて電車の運行を止める基準がなかったため、迅速な判断ができなかった」等の問題点が指摘され、基準を作ったことが明らかにされたという。だが言われていることは、事故の本質とは全くかけ離れた表面的な「原因」でしかない。

▼基本中の基本が崩壊

この報告からは二つのことが見えてくる。一つは、言われていることはどれも鉄道工事に関する基本中の基本、イロハのイのような問題だ。その部分が崩れてしまっているということであり、二つ目は、今回のような工事の場合、夜間の短い列車の間合いで工事を少しづつ進め、最終的に一気に切り替えていかなければならず、その複雑な工程の設計と管理が何よりも重要な鉄道固有の技術になるが、そこが崩壊してしまっているということだ。
JR東日本は記者会見で、「柱二本分以上傾いたら列車を止めるという基準を作った」と発表したというが、そんなことが対策になるはずもない。これが「対策」だとするなら、すべての構造物のあらゆる危険性について千も万もの「基準」が必要になる。JR東日本はこうやってその場だけを逃れようとしているのだ。
JR東日本は事故後、富田社長名で「グループ企業のみなさんへ」と題する文書を掲出し、「情報伝達など仕事の仕組みを見なおす必要がある」としている。しかし、外注化によって仕事の仕組みを破壊したのはJR自身だ。さらに富田社長は、奇跡的に重大事故を免れたことについて、何と「神様が見ていてくれた」と言う。結局「安全対策」は、すべてがグループ会社頼みと神頼みでしかない。これがJRの偽らざる現実だ。

(二)外注化が生み出した無責任の連鎖

▼誰も責任をもった判断をしなかった

今度の事故の背景には二つの根本的な原因がある。第一に、あらゆる業務をバラバラに外注化してしまった結果、責任の所在があいまいになっていること、列車の運行や安全について誰も責任をとろうしない状態になっていることであり、第二に、民営化・規制緩和・外注化の結果、技術継承が崩壊してしまっているということだ。
第一の問題点は、危険は何度も察知されていた、それにもかかわらず、誰一人として列車を止める等の判断をしなかったことのなかに鮮明に示されている。
現場からは、架線工事の担当者や運転士から何度も支柱が傾いていることについて報告があがっていた。それも、工事部門、電力部門、運輸部門と、複数の系統に報告されている。しかし誰も責任をもった判断をしなかった。無責任の連鎖・蔓延。これが第一の問題だ。

▼運転保安に関する責任まで外注化

なぜこんな現実が生まれたのか。その最大の原因は業務の外注化だ。運転保安の観点から見たとき、外注化の一番の恐さは、業務を委託・外注化したその瞬間から、その業務についての責任がJR本体から消えてしまうことにある。なぜなら、業務委託が正当なものであるためには、外注会社はその業務を「自らの経験や技術力によって元請け会社から独立して処理」しなければならないからだ。委託・外注化した業務にJRが直接口を出して指導したり指揮命令したりすれば「偽装請負」になる。その本来の趣旨は、委託・外注化できる業務の範囲を厳しく限定し、雇用や安全破壊に歯止めをかけるものであった。
だが、実際にJRがやっているのはそんな規制を無視した「丸投げ外注化」だ。そしてそれは、厚労省が定めた偽装請負に関する基準の意味すら真逆なものにしてしまった。つまり、安全に関する責任まで下請け会社に丸投げ外注化していいと解釈する根拠のようなものにねじ曲げたのだ。
だが、列車を動かしているのはJRだ。外注会社が安全上の責任などとれるはずもない。しかも外注会社は、JRから委託費を徹底的に叩かれ、限界を越えたコストカットを迫られているのが現実だ。だから、利益をあげるために請け負った業務をさらに二次下請け、三次下請けへと投げていく。こうやって永遠に続く無責任の連鎖が生み出される。

▼外注化の必然的結果

今回の工事も、設計はJRがやっていても、実際の工事は丸投げ外注化されている。架線の新しいシステムを構築するだけでなく、どのような手順で新しいものに切り替えていくのかといった複雑な工程設計や工程管理を含め全部外注化してしまっている。JRは、工事過程で起きることについては自分の問題ではないという感覚でいる。その意味では、電化柱が傾いているという報告があったのに列車を止めようともしなかったのは「当然」のことだった。
一方、外注会社の側には直ちに対処する体制などない。だから傾いていることが分かっていながら三日後に予定されていた工事の日までそれを放置した。川崎駅での工事用車両と列車の衝突・脱線転覆事故のときもそうだったが、実際の工事は業務を請け負った会社がやっているのでもない。5社も6社もの下請け会社の労働者が集められて作業をしているのが実態だ。すぐに対応することなど不可能と言っていい。今回の事故は民営化・外注化の必然的な結果である。

(三)技術継承の深刻な崩壊

第二の問題はより深刻だ。技術継承が崩壊し、技術力が決定的に低下してしまっている。「強度計算を誤った」とか、「標準手順も踏まずにはりを撤去した」とか、「倒れることはないだろうと判断した」等、報道から浮かびあがってくるのは、まともな技術力や判断力、経験をもった職人が全く居なかったという恐るべき現実だ。だがこれも、民営化、規制緩和、外注化によってもたらされた問題に他ならない。

▼あらゆる分野で同じことが

4月1日付の交通新聞に次のような記事が掲載されている。運輸調査局調査センター副主任研究員が書いたもので、航空操縦士や整備士の必要数が決定的に不足し、「利用者の安全を脅かす事象が連続して発生」しているという記事だ。「原因の一つに、航空業界の規制緩和が関係していると思われる。規制緩和が進み、航空会社間の競争が激しさを増すなかで、操縦士等の養成数が次第に進行していった」「90年代後半から幅運賃制度が導入されるなど、値引き競争の末に旅客収入が大幅に減少した後は、操縦士の養成も縮小する。利用者数が増加しても、業績が悪化するなかで多額の養成費を捻出することは難しい状況となり今日に至っている」というのだ。
「技術継承の崩壊」は今あらゆる産業で深刻な問題になっている。例えば、鉄筋工や形枠工などの建設職人も、ピークだった1997年には455万人居たのが2013年には338万人にまで激減しているのだ。理由は航空業界で起きていることと同じだ。

▼このままでは大変なことに

鉄道でも全く同じことが起きている。原因は明らかである。以前だったら、運転士・車両検修・保線・電力・信通等、それぞれの分野の技術力の継承は最優先課題と位置づけられていたが、民営化以降、その努力はほとんど顧みられなくなった。利益・コスト削減が一切に優先されたからだ。とくに全面的な外注化攻撃が始まって以降、それは完全に放棄されたと言っても過言ではない。外注会社には、多額の費用を注ぎ込み、何年もかけて技術者を養成する余裕などないからだ。一方、JR側には業務そのものが残っていないから技術を継承していく前提そのものがない。机上の設計はできても、現場で起きる問題について判断する能力は全く失われているのが現実だ。

▼運転保安確立に向けて闘おう

すでに30年近くこんな状態が続いている。そして今JRは、この8~9年の間にほぼ二人に一人が定年退職を迎えるという「大量退職問題」に直面している。国鉄時代から経験を積んできたベテランの労働者が最終的に全部いなくなるのだ。JRはこの現実に追い立てられるように、さらに外注化を拡大しようとしている。事態は深刻だ。こんなことを繰り返していたら大変なことになる。最も深いところで、安全が根本から崩壊しようとしているのだ。これが今回の事故が示した真実である。闘いなくして安全なし! 外注化粉砕・運転保安確立に向けてともに闘いに立ち上がろう。

国鉄闘争全国運動 6・7全国集会

 6月7日
12時30分開始(正午開場)
日比谷公会堂

呼びかけ: 国鉄闘争全国運動

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