特集 国鉄分割民営化30年 ➁ 民営化の破綻と公共鉄道の崩壊

 JR北海道の経営危機について、麻生副総理は、2月8日の予算委員会で「当時から鉄道関係者は(こうなると)例外なく思っていましたよ。僕は当時力がなかった。今だったら止められたかもしれないとつくづく思う。JR北海道をどうするという話は、根本的なところを触らずしてやるのは無理だろう」と述べた。煮えくり返るような怒りなしには聞くことができない言葉だ。しかし、政権中枢までが、分割・民営化30年を前に、その全面的な破たんを自認せざるを得なくなっている。

分割・民営化の総破産

 JR北海道は、重大事故の続発、検査データ改ざん等たび重なる不祥事の発覚、全面的な経営破たん、社長の自殺等、異常事態を繰り返した末に、昨年11月、現在運行している路線の約半分・1237㎞が「もはや維持困難だ」とする「廃線計画」を発表した。それは衝撃的なものであった。札幌・函館周辺以外はほとんどの地域から撤退する。鉄路と駅を失う自治体は実に44市町村にのぼり、明治三十年代の水準まで逆戻りするのだ。
 鉄道会社が列車を運行することを放棄し、地方を丸ごと切り捨てていく。鉄道の撤退がもたらすのは地域社会の「総崩れ」だ。これが、国鉄分割・民営化が生み出した現実であった。

北海道だけではない

 それは北海道だけの問題ではない。今はまだ表面化することを抑えているが、JR四国はもっと深刻だ。「四国はもう鉄道を維持する必要はない」「全面廃線・バス転換」という議論までが浮上している。
 JR貨物は経営破たんと賃金抑制のいたちごっこを30年続けたあげく、高卒新規採用給が東京で最賃に抵触するレベルに至り、今年も4次募集までかけてやっと新採が確保できるという状態だ。しかも「廃線」は鉄道貨物が寸断され、崩壊することを意味する。
 JR九州も「民営化の成功」を演出するために綱渡りのような手段をとって株式を上場したが鉄道部門が黒字化できる展望など全くない。
 30年を経て行き着いたのは「民営化の全面的破たん」「公共鉄道の崩壊」と言わざるを得ない現実であった。民営化を翌年にひかえた1986年5月、自民党は新聞各紙に「民営分割ご安心ください」「ローカル線もなくなりません」という広告をうった。しかしそれは全部ウソだった!北海道新聞の世論調査では、「国策は誤り」「路線存続に向けて国が資金援助すべき」という回答が82%に上っている。
 それは、鉄道だけの問題でもない。30年に及ぶ新自由主義政策によって生み出された2千万人の非正規職、貧困・格差、破壊された教育や医療・社会保障制度・公共サービス、切り捨てられた地方、最底辺に落ちてゆく競争に駆り立てられる中で侮辱され続けてきた人間の本質そのもの……。こうした我慢のならない現実の中で、「もうたくさんだ!」という声が至るところで噴火口を求めて煮えたぎっている。

「公共鉄道」の放棄

 しかし、民営化が生み出した一番深刻な問題は、三島JRや貨物の経営破たんではない。莫大な利益をあげるJR東日本やJR東海が、「戦略的ダウンサイジング」「地方からの撤退」と称して、JR自身が鉄道の公共性を公然とかなぐり捨てようとしていることだ。「選択と集中」「国家にとって付加価値を生み出さない地方、外貨獲得能力をもたない地方は淘汰する」という安倍政権のお墨付きを得て、鉄道事業を、利潤追求の手段としてしか考えない民営化の本質が解き放たれ、本州JRを含めた全面的な廃線攻撃が始まろうとしているのだ。
 実はJR北海道の廃線計画も、JR東日本から送り込まれた副社長以下の経営幹部が作ったものだ。JRは北海道をモデルにして、不採算線区の全面的な切り捨てに踏み出したのである。

民営化が生命を奪った

 もう一つ。絶対に忘れてはならないことがある。2005年4月に起きた尼崎事故だ。「稼げ」という標語の下に駆り立てられ、1分の遅れまで懲罰の対象にする。運転士を精神的にギリギリまで追いつた結果、乗客・乗員107人の生命が奪われたのである。
 その年の暮れには羽越線事故が起きて5名の生命が奪われている。電化柱の倒壊、篭原駅炎上、川崎駅脱線・転覆事故等、民営化・外注化に起因した事故が後を断たない。 

 「東京・神奈川のJRホーム『無人』85%、線路への転落相次ぎ対策は急務・・駅員は合理化で削減される傾向にある・・ホームに駅員がいるかどうかは、視覚障害者にとって切実だ」(神奈川新聞4月3日)。

 民営化は鉄道の安全を崩壊せさた。民営化が人々の生命を奪い続けているのだ。

 

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